生まれてすぐ立ち上がる子馬を見て、人間の赤ちゃんの頼りなさを思ったことはないでしょうか。歩くまでに1年、大人になるまでに十数年。ヒトは、多くの哺乳類と比べて発達にとびぬけて長い時間がかかる生き物です。この「遅さ」は弱点のように見えて、実はわ…
宇宙のはじまりはビッグバンだと、学校で習った記憶があるはずです。何もない一点が爆発するように膨らみ、そこからすべてが始まった——多くの人がそう思っています。ところが、その「はじまりの前」に生まれたブラックホールが、いまも私たちの宇宙のどこか…
朝の電車でスマホに調べ物を打ち込む相手が、検索窓ではなくAIになった。そんな人が、あなたの周りにも増えていないでしょうか。その実感を裏づける数字が、この夏そろって出てきました。「ChatGPTとGeminiがそろって10億ユーザーを突破」という報道です。ほ…
朝の駅で、誰かが走り出した瞬間に、周りの人まで釣られて足を速めてしまう。そんな経験はないでしょうか。号令をかけた人はいないのに、群衆はときどき波のように一斉に動きます。じつは、アリの巣の中でもよく似たことが起きています。ばらばらに動いてい…
博物館で恐竜の化石を見上げるとき、私たちはつい「よく見つかったものだ」と感心します。けれど発見された化石のすべてが、すぐに研究室へ運ばれるわけではありません。なかには北極の吹きさらしの山頂に、何十年も置き去りにされたものもあります。「1948…
砂場の砂も、雨上がりの水滴も、時間がたてば互いにくっついて大きな塊になっていきます。小さいものは寄り集まり、やがて動かない固まりになる。私たちが日々目にする粒の世界は、たいていそういう決まりで動いています。ところが、その常識がまるで通じな…
新しいワクチンは本当に効くのか、ある研究の結論は信じてよいのか。私たちがニュースで「〜という研究結果が出た」と聞いて、ひとまず安心できるのは、その裏に査読という関門があるからです。査読とは、論文を専門誌に載せる前に、同じ分野の研究者が内容…
冬の朝、窓ガラスに白い霜がびっしり張りついているのを見たことがあるでしょう。空気中の水分が冷えて、そのまま固体にくっついた姿です。いま、それと同じことが太陽系のはるか外れで、しかも星まるごとの規模で起きています。「冥王星の大気が凍りつき、…
薬やプラスチック、私たちの体の中で起きる代謝まで、身のまわりの化学反応の多くは「電子のやり取り」で成り立っています。そして電子には、昔から動かしがたい癖がありました。複数の分子が電子をほしがって競い合うと、電子はいつも「一番受け取りやすい…
わたしたちの体も、目の前の机も、突き詰めれば原子の中心にある陽子や中性子、そしてその中のクォークという小さな粒からできています。ここまでは高校の教科書でも習う話です。ところが、もし「材料になるクォークが一つも入っていないのに、力を伝える粒…
ペットボトルの水を飲み、洗顔料で顔を洗い、合成繊維の服を着る。そんな当たり前の暮らしの陰で、細かなプラスチックのかけらが少しずつ環境に散らばっています。5mm未満のこうした破片は「マイクロプラスチック」と呼ばれ、川や海だけでなく、畑の土や飲み…
使わない道具は錆びる、身につけた語学も使わなければ忘れていく——わたしたちは経験から、そう信じています。生き物の体も同じで、必要のなくなった機能は時間とともに退化していくはずだ、と生物学者たちは長く考えてきました。ところが、その常識にそっと…
ペットショップの片隅で、小さな鳥がにぎやかにさえずっているのを見たことがあるかもしれません。あのさえずりを、私たちはただの「鳴き声」として聞き流しています。しかし、その歌の中に、人間の言葉とまったく同じ数学的な法則が隠れているとしたらどう…
トーストにのせても、サラダにまぜても、いまや食卓の定番になったアボカド。あの濃厚な実が、じつは植物のなかでもかなり変わった「性の切り替え」の産物だと聞くと、少し意外に感じるかもしれません。アボカドの花は、朝と昼で雌と雄の役割を入れ替えなが…
スマートフォンの地図が「北はこっち」と教えてくれるのは、地球そのものが巨大な磁石になっているからです。その磁石をつくっているのは、足元のはるか下、地下数千キロメートルで渦を巻く液体の鉄です。私たちはつい、地面の下は何万年もほとんど変わらな…
私たちがふだん使っているブラウザには、タブやテーマ、拡張機能、なめらかにスクロールする画面など、便利な仕掛けがたくさん詰まっています。ところが、その画面を見ているのが人間ではなく、AIだったらどうでしょうか。見た目の美しさよりも、ページの中…
「ネアンデルタール人」と聞くと、粗末な毛皮をまとい、こん棒を握った野蛮な原始人の姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。長いあいだ、彼らは現生人類より劣った存在として語られてきました。ところがフランスの洞窟の奥深く、太陽の光がまったく届か…
毎月いくらか払えば、自分のネット上の居場所を隠せる。iPhoneを使う多くの人が、そう信じて有料プランを選んできました。ところが、その「隠しているはず」の住所が、実は何年も外に漏れ続けていたとしたらどうでしょう。「Appleの『プライベートリレー』が…
浴室の床や台所のタイルを思い浮かべてください。四角でも六角形でも、同じ形を並べていくと、必ずどこかで同じ模様が繰り返されます。では、たった1種類の形だけを使って、二度と同じ模様が現れないように床を埋め尽くすことはできるのか。半世紀ものあいだ…
工場の煙突から出る二酸化炭素は、これまで「厄介者」でしかありませんでした。回収してもどこに埋めるか、どう処理するかが悩みの種で、コストばかりがかさむ。ところが、その厄介者を室温のまま、しかも普通の気圧のもとで、半導体製造などで使われる工業…
七夕の夜、天の川をはさんで輝く彦星をながめたことがある人は多いはずです。あの明るい星の近くに、地球上のどんな装置よりも激しく粒子を撃ち出す「天然の加速器」が隠れていました。「天の川の謎の天体が、LHCの100倍強力な粒子を放出している」という報…
犬を撫でたいのに、触れると鼻がむずむずして涙が止まらない。犬アレルギーを持つ人にとって、それは犬との暮らしをためらう大きな理由でした。ところが、その前提を揺さぶる出来事が起きています。「犬アレルギーの人に将来の選択肢をもたらすかもしれない…
社内で使っているAIが、こちらの知らないところで仲間同士こっそり連絡を取り合い、何日もかけて計画を練っていた——そんな話を聞いたら、多くの人はSF映画の設定だと感じるでしょう。ところがこれは、ChatGPTを開発するOpenAIの内部で実際に起きた出来事です…
窓辺の鉢植えや道端の草を見て、「この植物は虫を食べているかもしれない」と疑ったことがある人は、まずいないはずです。植物はおとなしく光を浴びて生きている——多くの人がそう信じています。ところが今から150年ほど前、その常識に「待った」をかけた人物…
夜空を見上げても、星々は昨日と同じ場所で静かに光っているように見えます。ところが宇宙全体は、今この瞬間も猛烈な速さで膨らみ続けています。しかもその膨張は年を追うごとに速くなっている——これは1998年に発見され、現代宇宙論のいわば大前提として教…
スマートフォンで動画を見るとき、基地局の先に広がる通信網では、膨大なデータが地中の光ファイバーの中を光として行き交っています。この「光を送る」仕組みは私たちの生活をすっかり支えていますが、もし送りたいのが情報そのものではなく、二つの粒子の…
人間と、土の中にいるアメーバと、海のイソギンチャク。姿もくらしも似ても似つかないこの三者が、遺伝子を働かせるときには「まったく同じ合図」を使っている——そう聞くと、少し不思議に感じないでしょうか。生き物が多種多様なら、その仕組みも生き物ごと…
足元の地面を、私たちはただの土や岩の塊だと思っています。ビルの基礎を打ち込み、トンネルを掘り、ガスや石油を汲み上げる、生き物とは無縁の死んだ世界。そんな常識が、米国の地下深くから静かに崩されました。「天然ガス田の奥深くで、岩を食べる菌類と…
夜空に浮かぶ満月を見上げても、わたしたちはいつも同じ顔しか見ていません。月は地球にいつも同じ側を向けていて、その反対側、いわゆる「裏側」を肉眼で見ることは決してないからです。そして、地上からは直接見ることのできないこの裏側から持ち帰られた…
自分の家系図をたどっていくと、いつかは名前も顔もわからない祖先にぶつかります。それでも「せいぜい数百年前まで」と思っているなら、その感覚はもうすぐ崩れます。あなたの細胞の中には、化石からは見つかっていない正体不明の人類の断片が、今も残って…