私たちの日常はスマートフォンやパソコンのインターネット接続なしには成り立ちません。その裏側では、無数の衛星が情報インフラを支えています。しかし今、その衛星たちが“宇宙天気”によって思わぬ脅威に直面しています。今回は、ギズモードの"Solar Storms Are Pushing Elon Musk’s Satellites Back to Earth"という記事をもとに、太陽の活動がイーロン・マスクの衛星インターネットサービス「スターリンク(Starlink)」にどのような影響を与えているのか、そして私たち日本人にとって気になるポイントを解説します。
宇宙の天気“太陽嵐”とは?
まず“太陽嵐”とは、太陽表面で発生する太陽フレアやコロナ質量放出といった巨大な爆発現象による、強力な磁気や粒子の嵐のことです。太陽は約11年の周期で活動が活発になる「太陽活動極大期(Solar Maximum)」を迎えます。2024年はまさに極大期にあたり、強い太陽嵐が頻発しています。
太陽嵐により地球の上空、特に大気の高層「熱圏(じょうけん)」が一時的に加熱・膨張します。これが“宇宙天気”とも呼ばれる現象で、地球周回軌道にある衛星に新たなリスクを与えています。
スターリンク衛星への影響とそのメカニズム
スターリンクはスペースX社が提供するインターネット通信衛星ネットワークで、すでに7,500基以上が地球低軌道に存在します。しかし、NASAのオリベイラ博士らの研究チームによれば、2020〜2024年の太陽活動極大前後の時期に、計523基ものスターリンク衛星が大気圏に再突入しました。
上空大気の膨張=空気抵抗増大
太陽嵐で加熱・膨張した大気は、通常よりも高いところまで“空気”(原子や分子)が広がります。たとえば、普段ゴム風船を膨らませると破裂しやすくなるのと同じように、衛星も“濃い”空気層にぶつかりやすくなり、「空気抵抗(大気抵抗)」が増します。結果、地球を回り続けるはずだった衛星が予定より早く軌道を離脱し、地球に落下するのです。
衛星の寿命は本来5年程度ですが、激しい太陽嵐の期間は10~12日も短くなることが今回の研究で明らかになりました。
予想される問題──宇宙ゴミと地上への影響
管理された計画落下が難しくなるリスク
衛星は大気圏でほぼ燃え尽きるよう設計されていますが、太陽嵐による予期せぬ落下では「制御下での落下」が難しくなります。これが宇宙ゴミ(デブリ)のリスクを高める要因となります。
また、秒速約8キロメートルで落下する衛星は、速度が速い方が全部燃え尽きそうなイメージもありますが、逆に「空気に触れる時間が短く」なることで、一部が溶けきれずに地上へたどり着く可能性も指摘されています。実際2024年、カナダの農場に2.5キログラムのスターリンク衛星の破片が落下したという報告もあります。
衛星同士の衝突リスクも
大気抵抗が急変すると、衛星の軌道計算が難しくなります。そのため、衝突回避のための自動制御も不完全になり、衛星同士の衝突やさらなるデブリ生成のリスクも高まります。
世界と日本へのインパクト
衛星ビジネスの急成長と持続可能性
スペースXは今後、スターリンク衛星を最大42,000基まで打ち上げたいとしています。現在、地球全体で数万基の人工衛星が軌道上にあり、“史上初の衛星密集時代”に突入しています。
日本も「きぼう」やリモートセンシング衛星、商用通信など多くの衛星を運用中です。太陽嵐の被害は日本の関係衛星にも及び得るだけでなく、日本近海や国内での衛星破片落下リスクが現実味を帯びてきました。また、衛星通信サービスにも予期せぬ障害やネットワーク遅延が発生することがあります。
日本企業・社会への示唆
- 衛星設計者や運用会社は、「太陽嵐時のシミュレーション」や「事前警報システム」など、太陽活動の影響を考慮した安全策強化が求められます。
- 新しい「宇宙ごみ処理技術」の開発や、落下時の被害想定への備えが、今後の宇宙インフラ維持には不可欠です。
- 日本でも2022年、国内で小型衛星破片の落下が考えられる事故が報告されています。今後は国際的な情報連携・対策も重要です。
今後の展望と私たちへのメッセージ
スターリンクのような巨大衛星群は今後も増える見込みで、人間の生活と宇宙空間の相互作用はさらに強まるでしょう。太陽活動は予測しにくいものですが、「宇宙天気予報」の精度向上や、よりタフな衛星設計、国際協力による宇宙ごみ管理のルールづくりが喫緊の課題です。
太陽嵐と衛星時代のリスク管理:知っておくべきポイント
- 太陽活動最大期で衛星寿命が短くなり、予期せぬ落下が多発
- 衛星の高速落下で地表到達リスクが増大、宇宙ごみ管理が喫緊課題
- 衛星密集時代に“宇宙天気対応力”が企業・社会に問われている
- 日本も例外でなく、備えと国際協力がますます重要
これからの時代、「宇宙の天気」も“生活インフラ”の一部として注目すべきテーマです。私たち一人ひとりも、宇宙と地上が密接につながる未来について、関心を持って考えてみませんか?