皆さんのスマートフォンやスマートスピーカーに話しかけるAIアシスタント、最近使っていますか？「今日の天気は？」「〇〇を調べて」など、日々の生活で欠かせない存在になりつつありますよね。でも、たまに「あれ、私の言いたいこと、ちゃんと分かってくれてるかな？」と感じることはありませんか？
そんなAIアシスタントの代表格であるAppleの「Siri」が、もっと賢く、もっと私たち一人ひとりに寄り添うようになるというニュースが、世界中で注目されています。昨年発表された画期的なSiriの機能について、Appleの幹部が「あれは本当に動くものだった」と明言したのです。今回は、その詳細と、私たち日本のユーザーにとってどのような意味を持つのかを、わかりやすく解説していきます。
Apple Says Personalized Siri Features Shown at WWDC Last Year Were 'Real' and 'Working' - MacRumors
「パーソナライズされたSiri」は本当に動いていた！遅延の理由は？
今年の WWDC 2025 （Appleの世界開発者会議）が開催中に、Appleのソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長 クレイグ・フェデリギ 氏と、ワールドワイドマーケティング担当上級副社長 グレッグ・ジョズウィアック 氏がメディアからの取材に応じました。その中で、昨年 WWDC 2024 で発表され、大きな期待を集めながらもまだ提供されていない「パーソナライズされたSiri機能」について、重要な発言がありました。
記者が「昨年のデモンストレーションの際、パーソナライズされたSiriは本当に動作するバージョンだったのか？」と尋ねたところ、フェデリギ氏はきっぱりと「その通りだ」と答えました。さらに、「本物の大規模言語モデルを使い、セマンティック検索を使った、実際に動くソフトウェアを撮影していた。それが皆さんが見たものだ」と明言しました。
ジョズウィアック氏も「あれはデモのための見せかけのソフトウェアだったという話が出回っているが、そんなことはない」と強く否定しました。
では、なぜこれほど期待された機能がまだ提供されていないのでしょうか？フェデリギ氏によると、その理由は「品質の問題」にありました。Appleは、この新しいパーソナライズされたSiriを実現するために、Siriの基盤アーキテクチャ（ソフトウェアの基本的な設計や構造）を、より新しいものへと移行している最中なのだそうです。この移行と品質改善のため、機能の提供は現在のところ 2026年 に予定されています。
専門用語をわかりやすく解説！
WWDC (Worldwide Developers Conference)： Appleが毎年開催する、世界中の開発者向けのイベントです。新しいソフトウェア（iOSやmacOSなど）の発表や、開発者向けの技術セッションが行われます。Appleの未来の方向性が見える、非常に重要なイベントです。
大規模言語モデル (Large Language Model)： これは、AI（人工知能）の一種で、インターネット上の膨大なテキストデータを学習することで、人間が話すような自然な言葉を理解したり、質問に答えたり、文章を生成したりする技術のことです。最近話題のChatGPTなども、この大規模言語モデルの一種です。
セマンティック検索 (Semantic Search)： 単にキーワードが一致するかどうかだけでなく、言葉の「意味」や「文脈」を理解して検索を行う技術です。例えば、「おいしいラーメンが食べたい」と検索した場合、セマンティック検索では単に「ラーメン」という言葉だけでなく、「おいしい」「食べたい」という意図を汲み取って、近くのおすすめのラーメン店を探してくれるようなイメージです。
Siriの基盤アーキテクチャ (Siri's Underlying Architecture)： SiriというAIアシスタントが動くための、土台となるソフトウェアの設計や仕組みのことです。家を建てる際の基礎工事のようなもので、ここをしっかり作り直すことで、より高度で安定した機能が実現できるようになります。
デモウェア (Demoware)： 「デモンストレーション（実演）のためだけに見栄えよく作られたソフトウェア」という意味です。実際に完全には動作しなかったり、特定の限定された条件下でしか動かなかったりするものを指します。Appleの幹部が「あれはデモウェアではなかった」と強調したのは、この誤解を払拭するためです。
パーソナライズされたSiriがもたらす未来と日本への影響
Appleが WWDC 2024 で披露したパーソナライズされたSiriの機能は、ユーザーの「個人的な文脈」をより深く理解したり、画面に表示されている内容を認識したり、アプリごとのより詳細な操作ができるようになるというものでした。例えば、iPhoneユーザーがSiriに「お母さんのフライトとランチの予定を教えて」と尋ねると、Siriはメールやメッセージアプリの情報から、その人の母親に関するフライト情報やランチの予約を判断し、教えてくれるといったデモンストレーションが行われました。これは、まるで親しい秘書がいるような体験と言えるでしょう。
日本の私たちにとってのメリット
より自然な日本語の理解： AIアシスタントが言葉の表面的な意味だけでなく、文脈や個人の習慣を理解できるようになれば、日本語特有の言い回しや、曖昧な表現でも的確に意図を汲み取ってくれるようになるでしょう。これは、英語圏以外のユーザー、特に日本語話者にとって非常に大きな改善点です。
日々のタスクの効率化： 「今日の午後、〇〇さんと会う予定だけど、その前に必要な資料を教えて」といった、複数のアプリにまたがるような複雑な指示にも、Siriがスムーズに対応できるようになります。日本のビジネスシーンやプライベートでの情報管理が、より効率的になることが期待されます。
プライバシーへの配慮： Appleはユーザーのプライバシー保護を重視しており、パーソナライズされた機能も、可能な限りデバイス上（iPhoneやiPadの中）で処理を行うことで、個人情報が外部に漏れるリスクを減らす方針を示しています。これは、データ保護への意識が高い日本のユーザーにとって、安心材料となるでしょう。
日本のアプリ連携の可能性： Siriがアプリごとの詳細な操作をできるようになれば、日本の企業が提供するアプリ（交通系アプリ、飲食店の予約アプリなど）との連携も深まり、Siriを通してより便利にサービスを利用できるようになるかもしれません。
筆者からのコメント：品質へのこだわりがもたらす価値
今回のApple幹部の発言で、パーソナライズされたSiriのデモが「本物だった」と確認されたことは、大きな意味を持ちます。これは、Appleが単なる見せかけではなく、実際に動く技術を開発していたという証拠であり、彼らの技術力と製品への真摯な姿勢を示すものと言えるでしょう。一方で、その提供が2026年に遅れるという事実は、彼らが「品質」に対して一切の妥協をしないという強い意志の表れだと考えられます。
近年、AI技術は急速に進化していますが、その一方で「正確性」「安全性」「プライバシー」といった課題も浮上しています。特にSiriのような日常的に使うAIアシスタントにおいては、誤作動や意図しない情報漏洩は、ユーザーの信頼を大きく損ねます。Appleが「基盤アーキテクチャ」の再構築に時間をかけているのは、まさにそうした課題を根本から解決し、長期間にわたって安心して使える、より賢く、より安定したSiriを提供しようとしているからでしょう。
もし、Appleが急いで不完全なSiriをリリースしていたら、ユーザーの期待を裏切り、結果的に「Siriはやっぱり使えない」という評価になってしまったかもしれません。今回の遅延は、むしろユーザーにとって、より信頼できる、最高の体験が届けられるための“準備期間”と捉えるべきだと私は考えます。
2026年、Siriは私たちの最高のパートナーになるか？
Appleが「パーソナライズされたSiri」を2026年に提供すると発表したことは、単なる新機能の追加以上の意味を持ちます。これは、Siriが私たちの生活に、より深く、より自然に溶け込むための大きな一歩となるでしょう。今回の幹部の発言は、その進化が単なる夢物語ではなく、すでに技術として実現可能であることが確認された点で、私たちに大きな期待を抱かせます。
「品質」を追求するAppleのアプローチが、本当に私たち一人ひとりの暮らしを豊かにするSiriの実現につながるのか、2026年のリリースを楽しみに待ちたいと思います。Siriが、単なる音声アシスタントではなく、私たちの思考や文脈を理解してくれる「最高のパートナー」となる日も、そう遠くないかもしれませんね。
