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【衝撃】混ぜると壺になる液体!?熱力学を覆す奇跡の発見!

みなさん、水と油は混ざらない、というお話はご存知ですよね。サラダドレッシングのように、しばらくすると二層に分かれてしまうのが普通です。ところが、もしもその水と油が、どんなに混ぜても特定の形に「戻ってしまう」としたら、どう思いますか?まるで魔法のようですが、そんな驚きの液体が偶然にも発見されたというニュースが飛び込んできました。

アメリカの学生がたまたま作り出したこの不思議な液体は、なんと Groundbreaking Discovery by Student: Accidental Creation of a ‘Shape-Recovering Liquid’ Defies the Fundamental Laws of Thermodynamics - Rude Baguette と報じられ、科学の基本的なルールである「熱力学の基本法則」を覆す可能性があるとして、世界中の科学者の注目を集めています。2025年6月11日に発表されたばかりの、まさに今最もホットな話題です。

形を記憶する液体の謎を解き明かす

この発見は、マサチューセッツ大学アマースト校(University of Massachusetts Amherst)の大学院生、アンソニー・ライクさん(Anthony Raykh)が、高分子科学・工学(polymer science and engineering)の研究中に偶然見つけました。

ライクさんは、油、水、そして磁気を帯びた微小なニッケル粒子(nickel particles)を混ぜた単純な液体を研究していました。通常、油と水は混じり合わず、放っておけば分離してしまいます。しかし、ライクさんがこの混合液をシェイクしてエマルション(乳濁液、油と水のように混ざり合わない液体が、一方の液体の中に微細な粒子の形で分散している状態。例えば、マヨネーズのようなものです)を作ろうとしたところ、驚くべきことが起こりました。

なんと、混合液は分離することなく、まるで古代ギリシャの美術品のような「ギリシャの壺(Grecian urn)」の形に整い、そのまま安定したのです。しかも、何度かき混ぜても、また同じ「ギリシャの壺」の形に戻ってしまいます。研究室の共同執筆者であるトーマス・ラッセルさん(Thomas Russell)も、この現象に首をかしげました。なぜなら、エマルションは通常、液体の界面(境界面)の面積をできるだけ小さくしようとして安定するからです。これは「熱力学の基本法則(Fundamental Laws of Thermodynamics)」に基づいた、エネルギーを最小限にするという自然の摂理です。

熱力学の基本法則とは?なぜこの液体は特別なのか?

「熱力学の基本法則」とは、私たちの身の回りで起こるあらゆる現象を支配する、エネルギー、熱、仕事、温度といった物理量の関係を定めた、非常に重要な科学のルールです。簡単に言うと、「エネルギーは勝手に増えたり減ったりせず、形を変えるだけ」「熱は冷たい方から熱い方へは勝手に移動しない」「物事は自然に散らばり、乱雑な方向(エントロピーが増大する方向)に進む」といった内容です。エマルションが界面積を最小化しようとするのも、この法則に従って系全体のエネルギーを安定させようとするためです。

しかし、この「シェイプリカバリーリキッド(shape-recovering liquid)」は、より大きな表面積を持つ「ギリシャの壺」の形を保つため、一見するとこの法則に逆らっているように見えます。この謎の鍵を握っていたのは、液体に含まれる「磁化粒子」、特にニッケル粒子でした。

磁気双極子と界面エネルギーの役割

さらに詳しい調査の結果、ニッケル粒子間の相互作用が「磁気双極子(Magnetic dipoles)」を生成していることが判明しました。磁気双極子とは、まるで小さな磁石のように、N極とS極を持つ粒子のことです。これらの粒子が液体の表面で鎖状につながることで、エマルションが通常の分離プロセスをたどるのを妨げ、その結果、予想外にも安定した「ギリシャの壺」の形を作り出していたのです。

この現象は、実は熱力学の法則を完全に「破っている」わけではありません。あくまで、この液体の特殊な条件下での振る舞いであり、より広い視点で見れば、やはり熱力学の法則に従っています。重要なのは、磁気的な相互作用によって、この液体が「高い界面エネルギー」を持つ状態でも安定できる、という特殊なケースであるということです。これは、私たちがこれまで常識としていた物理法則の理解に、新たな深みと複雑さをもたらす発見と言えるでしょう。

科学の常識を覆す発見の意義と日本の未来

この「シェイプリカバリーリキッド」の発見は、材料科学の分野に新たな研究の扉を開くものです。液体が特定の形に安定して戻る能力は、例えば、傷ついても自分で修復する「自己修復材料」や、外部からの刺激に反応して形を変える「応答性表面」の開発につながる可能性があります。

もし、この技術が実用化されれば、日本の産業界にも大きな影響を与えるでしょう。例えば、自動車の塗装が自分で修復するようになるかもしれませんし、医療分野では、体内で特定の形に変化する薬剤キャリアや、精密な流体制御が必要なマイクロデバイスに応用できるかもしれません。日本の高分子化学や材料科学の研究機関や企業は、この新しい液体のメカニズムをさらに深く探求し、独自の応用技術を開発するチャンスを秘めています。

偶発的な発見が拓く科学の地平

今回の発見は、アンソニー・ライクさんが意図せず偶然に得たものです。これは、科学研究において「セレンディピティ」(偶然の幸運な発見)がいかに重要であるかを改めて示しています。基礎研究の現場では、計画通りの結果が得られなくても、その「なぜ?」を追求する姿勢が、思わぬ大発見につながることがあります。日本の研究者も、こうした好奇心と探求心を大切にすることで、世界を驚かせるような発見を生み出すことができるはずです。

また、この研究成果は、物理学分野の権威ある科学誌『ネイチャー・フィジックス(Nature Physics)』に掲載されました。これは、この発見が科学界で高く評価され、信頼性のあるものであることの証です。既存の理論に疑問を投げかけ、科学の枠組みを広げるこのような研究は、私たちに常に「既成概念を打ち破る」ことの重要性を教えてくれます。

未知への探求は続く

今回の「シェイプリカバリーリキッド」の発見は、科学者だけでなく、私たち一人ひとりの好奇心を刺激するものです。一見、揺るぎないと思われていた「熱力学の基本法則」に対して、その深遠な側面を垣間見せてくれたこの液体は、私たちの知る物理世界が、まだまだ奥深く、未知の驚きに満ちていることを教えてくれます。

これから、この液体の詳細なメカニズムが解明され、どのような新しい材料や技術が生まれてくるのか、その動向に注目していきましょう。科学の進化は、常に私たちの想像を超えた未来を切り開いてくれるはずです。