宇宙の始まりや終わりについて、皆さんも一度は考えたことがあるのではないでしょうか? 宇宙はいつか終わるのか、もし終わるとしたら、それは一体いつになるのか、私たち人間には想像もつかないような遠い未来のことだと感じますよね。
しかし、最近の研究では、宇宙の「寿命」が、これまでの予想よりもずっと短いかもしれないという、驚きの予測が発表されました。もちろん、それでも私たちの想像をはるかに超える途方もない時間ですが、宇宙の終焉に対する私たちの考え方が少し変わるかもしれません。
今回は、そんな宇宙の運命に関する最新の研究について、New study predicts when the universe will end, scientists claim it is sooner than expected - Earth.com の記事をもとに、やさしく解説していきます。
宇宙の終わり、その新たな予測
これまで、宇宙の運命に関する研究では、すべてのものが消え去るまでには約「10の1,100乗年」(数字の1の後にゼロが1,100個続く、想像を絶するほど長い時間)がかかると考えられていました。
しかし、今回の新しい研究では、その予測が大きく更新されました。なんと、宇宙の終焉は「10の78乗年」(数字の1の後にゼロが78個続く年数)という、これまでの予想よりも「かなり早い」時期に訪れるかもしれないというのです。
もちろん、10の78乗年という数字も、私たち人間が感覚として理解できるような時間ではありません。皆さんの人生が100年だとしても、地球が生まれてから46億年経ったとしても、この数字には全く及びません。それでも、以前の予測と比べると、ゼロの数が1,000個以上も減ったというのは、科学の世界では非常に大きな変化なのです。
この研究の共同執筆者の一人であるファルケさんは、「宇宙の最終的な終わりは予想よりもずっと早く来るが、幸いなことに、それでもまだ非常に長い時間がかかる」と語っています。この新しい予測は、宇宙の最後に残るわずかな光がどのように消えていくのかという、私たちの考え方に大きな影響を与えるものです。
「星の最期」が変わる?
宇宙の中で、最も長持ちする天体として知られているのが、「白色矮星(はくしょくわいせい)」や「中性子星(ちゅうせいしせい)」です。これらは、太陽のように自ら輝く星が一生の最後にたどり着く姿の一つで、核燃料を使い果たして収縮し、非常に高密度になった星の残骸です。
想像してみてください、私たちの太陽よりもはるかに小さな体積に、太陽と同じくらいか、それ以上の質量がぎゅっと詰まっているのです。白色矮星は、例えるなら、角砂糖一個の大きさに、約2トンの重さの物質が詰まっているようなものです。中性子星はさらに密度が高く、ティースプーン1杯分で富士山より重くなるほどです。
これらの星は、非常に強い重力を持っていて、これ以上核融合(星が輝くエネルギーを生み出す反応)が起きることはありません。そのため、これまでこれらは「永遠に消えない」かのように考えられてきました。
しかし、今回の新しい研究では、これらの密度の高い星の残骸も、ゆっくりと質量を失っていくと予測されています。そのカギとなるのが、「ホーキング放射」という現象です。
ホーキング放射とその応用
「ホーキング放射」とは、イギリスの理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士が提唱した、ブラックホールから熱が放出される現象のことです。ブラックホールは、あまりにも重力が強いため、光さえも吸い込んでしまう天体として知られています。しかし、ホーキング博士は、量子力学というミクロな世界の法則を考えると、ブラックホールがごくわずかながらエネルギーを放出し、ゆっくりと蒸発していくことを示しました。
今回の研究では、このホーキング放射の考え方を、ブラックホールだけでなく、白色矮星や中性子星といった他の密度の高い星にも当てはめています。論文の共同執筆者であるラドバウド大学のミヒャエル・ヴォンドラックさんは、「ブラックホールには表面がない。それ自身の放射の一部を再吸収するため、ホーキング放射のプロセスが阻害される」と説明しています。この特性により、ブラックホールの消滅にかかる時間は、約10の67乗年と、他の密度の高い天体と似たようなタイムラインになると考えられています。
時空の歪みが引き起こす現象
この新しい発見の重要な点は、「時空の歪み(じくうのゆがみ)」という考え方です。時空とは、時間と空間が一つになったもので、アインシュタインの相対性理論では、質量を持つ物体があると、この時空がゴムのシートのように歪むとされています。
例えば、ビリヤードのボールをピンと張ったゴムのシートの上に置くと、シートがボールの重みでへこみますよね。宇宙では、星や惑星などの重い天体が、その周りの時空をへこませる(歪ませる)のです。
今回の研究では、この大きく歪んだ時空の領域で、「量子レベルの粒子」が引き離されることで、少なくとも一方が「時空の歪みから逃げ出す」という現象が起きると提唱しています。量子レベルの粒子とは、非常に小さな粒子のことで、私たちの目には見えませんが、宇宙のあらゆるものを形作っています。この粒子がごくわずかなエネルギーを持ち去ることで、星の質量が少しずつ失われていくというのです。
この小さなエネルギーの漏れは、想像を絶するような長い年月をかけて、ゆっくりと星の質量を奪っていきます。最終的には、星の残骸はほんのわずかなエネルギーしか残さず、宇宙はさらに空っぽになっていくと考えられています。この現象は、ブラックホールだけでなく、白色矮星や中性子星のような、極めて密度の高い天体でも起こりうるとされています。
私たちと宇宙の未来
この研究は、私たち人間が生きている間に、星が消えていくのを見る心配は全くない、と強調しています。私たちの太陽のようにまだ輝いている星は、この量子的な崩壊が問題になるずっと前に、通常の星の進化のプロセス(例えば赤色巨星になったり、白色矮星になったり)を経て、その一生を終えるでしょう。
なぜ今この研究が重要なのか
この新しい視点は、すべての星の残骸が消え去った後、宇宙に何が存在するのかという疑問を改めて投げかけています。また、ブラックホールの振る舞いに関する私たちの基本的な考え方にも更新をもたらしました。ブラックホールは宇宙の謎の象徴ですが、この最新の発見は、原理的には、すべての超高密度の塊が同じ最終的な運命をたどる可能性を示唆しているのです。
現在の宇宙論では、宇宙の始まりについてはビッグバン理論が広く受け入れられていますが、その終わりについてはまだ多くの謎があります。この研究は、その謎の一部を解き明かす一歩となるかもしれません。
日本の私たちにとって
宇宙の終わりというスケールの大きな話は、私たちの日常生活とはかけ離れているように思えるかもしれません。しかし、日本人にとって、はるか昔から「無常(むじょう)」という考え方があります。これは、すべてのものは変化し、とどまることがなく、いつかは消え去るという仏教的な思想です。宇宙の終焉という究極の「無常」を科学的に探求するこの研究は、形を変えて、私たちの根底にある宇宙観や生命観に問いかけ続けるものです。
また、日本でも小惑星探査機「はやぶさ」シリーズのように、宇宙の起源や未来を探る研究が盛んです。こうした遠大な研究は、直接的な利益をもたらすだけでなく、人類の飽くなき探求心を満たし、新しい技術や科学的発見へとつながっていくでしょう。
ジャーナリストの視点から
今回の研究は、私たちが当たり前だと思っていた「ブラックホールだけがホーキング放射で蒸発する」という常識を覆す可能性を秘めています。これは、科学が常に進化し、新しい発見によって過去の理論が書き換えられていく、そのダイナミズムを示す好例と言えるでしょう。
しかし、記事にもある通り、「量子重力」という、重力と量子物理学を統合しようとする理論はまだ未完成です。そのため、ブラックホールの崩壊や中性子星の蒸発などに関する細部は、今後さらに修正される可能性があります。この分野の研究は、まさに宇宙の最も深い謎に挑むものであり、今後の進展が非常に楽しみです。
終わりに
宇宙の終わりが10の78乗年後に訪れるという新しい予測は、私たちの理解できるあらゆる時間スケールをはるかに超えています。それでも、この研究は、宇宙の最終的な区切りを再定義するものです。
その最後の時代は、もはやブラックホールだけの物語ではありません。それは、すべての密度の高い星の残骸が、ひっそりと質量を放射し続け、宇宙に何も痕跡が残らなくなるまで、ゆっくりと消え去っていく物語なのです。
この研究は、宇宙がいかに広大で、私たちの想像をはるかに超える現象に満ちているかを改めて教えてくれます。そして、私たちはこの壮大な宇宙の中で、いかに小さな存在であるかを思い知らされると同時に、その謎を解き明かそうとする科学者たちの果てしない探求心に、心を揺さぶられます。
宇宙の物語は、まだ終わっていません。私たちは、この果てしない探求の旅の途中にいるのです。