宇宙の遥か彼方にある小惑星から、地球の未来に役立つサンプルを持ち帰る――。そんな壮大な夢の実現に向けて、中国が秘密裏に進めてきた「天問二号(Tianwen 2)」探査機について、その姿を捉えた初めての画像が公開され、世界中で注目を集めています。
このニュースは、中国が2025年5月29日に打ち上げたばかりのこの探査機から、地球から約300万キロメートルも離れた宇宙空間で撮影された、10角形の太陽電池パネルの一部を捉えたものとして、First-ever image of China's mysterious 'quasi moon' probe revealed weeks after it secretly launched into space - Live Scienceが報じました。打ち上げからわずか2週間で、その神秘のベールが少し剥がされた形です。
天問二号とは:秘密裏に進められた探査の全貌
中国国家航天局(CNSA)は、2025年5月29日午前1時31分(現地時間。日本時間では午前2時31分)、中国南西部の西昌衛星発射センターから、長征三号乙ロケットに搭載した天問二号探査機を打ち上げました。この打ち上げは、これまで中国が「長征」ロケットで行ってきた他の多くの打ち上げとは異なり、ライブ中継されることなく、打ち上げから約1時間後に成功が発表されるという異例の形で行われました。
そして、打ち上げから2週間後の6月6日、CNSAは天問二号が順調に機能していることを発表。同時に、探査機から送られてきた一枚の画像を公開しました。これが、これまでアートワークでしかその姿が描かれていなかった天問二号の、宇宙空間での初めての「素顔」となったのです。
現在、天問二号は地球から190万マイル(約304万キロメートル)もの距離を進んでいます。これは、月までの距離の約8倍にも相当します。これから天問二号は、まず地球にとって特別な存在である「準衛星(quasi-moon)」へ、そして将来的には彗星と小惑星の「ハイブリッド」へと向かう、壮大な旅に挑みます。
準衛星「カモオアレヴァ」への挑戦
天問二号の主要なミッションは、地球の「準衛星」である小惑星2016 HO3、別名「カモオアレヴァ(Kamo'oalewa)」に接近し、サンプルを採取することです。カモオアレヴァとは、ハワイ語で「振動する天体」という意味を持つ天体です。
「準衛星」とは、太陽の周りを地球と同じ期間で公転し、まるで地球を周回しているかのように見える天体のことを指します。しかし、月のようには地球の重力に縛られているわけではないため、いずれは地球から離れていってしまうと考えられています。カモオアレヴァは、地球から最も近い時で290万マイル(約464万キロメートル)の距離にあり、130フィート(約40メートル)から330フィート(約100メートル)の大きさだと推測されています。この小惑星は、およそ45年かけて地球の周りを回るとされ、実は月の破片が隕石の衝突で地球から離れていったものかもしれない、という興味深い研究結果も出ています。
天問二号は、2026年7月にカモオアレヴァに接近し、着陸してサンプルを採取する予定です。そして、そのサンプルは2027年後半に地球に持ち帰られることになっています。サンプル回収の方法は、NASAの小惑星サンプルリターンミッション「OSIRIS-REx(オサイリス・レックス)」が、2023年9月にユタ州の砂漠で小惑星ベンヌのサンプルを回収したのと同様の形になるだろうとされています。
次なる目標は「彗星と小惑星のハイブリッド」
カモオアレヴァからのサンプル回収ミッションを終えた後、天問二号はさらに遠い旅へと向かいます。2035年頃には、火星と木星の間のメイン小惑星帯にある「311P/パンスターズ(311P/PanSTARRS)」という天体を訪れる予定です。この311P/パンスターズは、小惑星でありながら6本の尾を持つなど、彗星のような特徴も併せ持つ、まさに「彗星と小惑星のハイブリッド」とも呼べる珍しい天体です。高速で自転する瓦礫の山だと考えられています。
天問二号の公開された画像からは、その太陽電池パネルが10角形であることなど、NASAの小惑星探査機「ルーシー(Lucy)ミッション」に似た外観であることがわかります。2021年に火星探査機「祝融(Zhurong)」を火星に送り込んだ天問一号が長方形の太陽電池パネルを持っていたのと比べると、デザインの方向性が異なっていることがうかがえます。
なぜ秘密裏に? 中国の宇宙開発と日本の役割
今回の天問二号の打ち上げが秘密裏に行われたのは、そのミッションの戦略的な重要性や、他国との競争意識の表れと見ることもできます。近年、中国は宇宙開発において目覚ましい進歩を遂げており、有人宇宙ステーション「天宮(Tiangong)」の建設や月探査、火星探査など、着々と実績を積み重ねています。
日本の「はやぶさ」と中国の「天問二号」
このような中国の動きを見て、日本人としてまず思い浮かぶのは、日本の小惑星探査機「はやぶさ」そして「はやぶさ2」の偉業ではないでしょうか。
JAXAの「はやぶさ」は、2010年に小惑星「イトカワ」のサンプルを世界で初めて持ち帰ることに成功し、「はやぶさ2」も2020年に小惑星「リュウグウ」のサンプルを地球に届けました。これらのミッションは、小惑星からサンプルを持ち帰る技術の難しさと、それが太陽系の成り立ちや生命の起源を探る上でいかに重要であるかを世界に示しました。
中国の天問二号は、まさにこの日本の「はやぶさ」シリーズが切り拓いた小惑星サンプルリターンという分野に、中国も本格的に参入してきたことを意味します。異なる天体をターゲットとしながらも、サンプルリターン技術は宇宙科学における最先端であり、宇宙資源の探査という将来の可能性も秘めています。資源に乏しい日本にとって、小惑星からの資源採掘技術は、国家の経済安全保障にも直結する非常に重要な分野です。中国の技術進展は、ある意味で日本の宇宙技術開発をさらに加速させる刺激となるでしょう。
宇宙探査における国際協力の重要性
今回の中国の「秘密裏」な打ち上げについては、他国との競争という側面は理解できるものの、個人的には宇宙探査という人類共通の事業においては、より開かれた情報共有と国際協力が進むことが理想だと考えます。
宇宙は特定の国家のものではなく、全人類のフロンティアです。小惑星の組成解析や彗星の謎の解明は、地球の成り立ちや生命の進化、さらには地球外生命の可能性にまで関わる、普遍的な問いに対する答えを与えてくれます。このような知見は、特定の国だけでなく、全人類が共有し、次世代へと引き継ぐべきものです。
もちろん、国家間の競争は技術の進歩を促す側面もあります。しかし、膨大な費用と高度な技術を要する宇宙探査において、重複する研究や開発を避け、互いの成果を共有し協力することで、より効率的かつ安全に、そしてより速く、人類全体の知見を深めることができるはずです。例えば、小惑星のデータを共有したり、探査技術の標準化を進めたりといった協力は、地球の安全保障(例えば、地球に衝突する恐れのある小惑星への対処など)にも繋がるでしょう。
宇宙の謎を解き明かす旅は続く
中国の天問二号は、これから準衛星カモオアレヴァ、そして彗星と小惑星のハイブリッドである311P/パンスターズという、二つのユニークな天体を目指し、約10年にわたる壮大な旅を続けます。
このミッションが成功すれば、地球に最も近い準衛星の起源や組成、そして珍しいハイブリッド天体の秘密が明らかになり、私たちの太陽系に対する理解はさらに深まるでしょう。日本が「はやぶさ」シリーズで世界をリードしてきた小惑星探査の分野に、中国も本格的に参入することで、宇宙科学全体が新たな段階へと進むことは間違いありません。
宇宙探査は、まさに人類の知的好奇心と技術力の結晶です。地球から遠く離れた小さな天体から、私たちの故郷である太陽系の秘密を解き明かそうとする各国の挑戦に、これからも注目し続けたいと思います。そして願わくば、これらの素晴らしい成果が、国境を越えて全人類の知識となり、未来へと繋がることを期待しています。