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1万4千年前の「子犬」、実はオオカミ!氷河期の食生活判明

近年、ペットとして犬を飼う家庭が増え、私たちにとって身近な存在となっています。人間と犬の長い歴史を考えると、彼らはいつから私たちのパートナーになったのでしょうか? その謎に迫る新たな研究結果が発表されました。これまで氷河期時代の「子犬」だと考えられてきた動物のミイラが、実は犬ではなくオオカミの赤ちゃんだったというのです。

14,000-year-old mummified ‘puppies’ weren’t dogs at all, new research shows - CNN

1万4000年前の「子犬」はオオカミだった! 新たな発見の全貌

シベリア北部で発見され、約1万4000年もの間、永久凍土の中で驚くほど良い状態で保存されてきた2頭の動物のミイラ、通称「トゥマット・パピー」についての新しい研究結果が発表されました。これまでは人類の身近にいた初期の家畜化された犬、あるいは人間に慣れたオオカミだと考えられていましたが、最新の研究で、彼らが人間と交流した証拠が見られない2ヶ月齢のオオカミの赤ちゃん(姉妹だと考えられている)だったことが示されたのです。

この研究は、ヨーク大学とコペンハーゲン大学の元博士課程学生アン・カトリーネ・ウィボーグ・ルンゲ氏らが主導し、学術誌「第四紀研究」で発表されました。研究チームは、胃の内容物から得られた遺伝子データや、骨、歯、軟組織に残された化学的痕跡を分析することで、その真相に迫りました。

驚くべきことに、これらのオオカミの赤ちゃんは、毛皮に覆われたままの姿で発見され、胃の中には彼らの最後の食事が残されていました。その中には、なんとケサイの肉の破片や、セキレイという小鳥の羽まで含まれていたそうです。これは、氷河期の動物たちがどのように食事をしていたか、現代のオオカミとどれほど似ていたかを示唆する貴重な情報です。

突然の悲劇が明らかにした氷河期の生態

「トゥマット・パピー」は、トゥマットという村から約40キロメートル離れたシャラフ遺跡で、2011年と2015年にそれぞれ発見されました。彼らは約1万4046年〜1万4965年前に生きていたと推定されています。

研究によると、このオオカミの姉妹には、攻撃されたり怪我をしたりした兆候は一切見られませんでした。これは、約1万4000年以上前に、彼らがいた地下の巣穴が突然地すべりによって崩壊し、閉じ込められてしまったために命を落とした可能性が高いことを示しています。この突然の死と、その後の永久凍土による保存が、彼らを驚くほど完璧な状態で現代に残すことになったのです。

食事から見えてきた古代オオカミの暮らし

現代のオオカミと同様に、「トゥマット・パピー」も肉と植物の両方を食べていたことが判明しました。特に注目すべきは、胃の中からケサイの皮が見つかったことです。ケサイは非常に大きな動物であるため、子オオカミが狩るには大きすぎる獲物です。しかし、このケサイの皮が部分的にしか消化されていなかったことから、彼らが最後に食事をした直後に巣穴で死んでしまったことが伺えます。研究者たちは、大人のオオカミが子どものケサイを狩り、巣穴に持ち帰って子オオカミたちに分け与えたと考えています。

ヨーク大学の考古学上級講師であり、共同研究者でもあるネイサン・ウェールズ博士は、「赤ちゃんとはいえケサイのような大型動物を狩ったことは、この時代のオオカミが現代のオオカミよりも大きかった可能性を示唆している」と述べています。

また、子オオカミの胃に残されていた植物の化石を分析した結果、彼らが暮らしていた地域は乾燥していて、比較的温暖な気候で、草原の草やヤナギ、低木の葉など多様な植物が生い茂っていたことも分かりました。固形物を食べていた一方で、研究者たちは、子オオカミたちがまだ母親の乳を飲んでいた可能性も指摘しています。

興味深いのは、発見された場所が人間がマンモス解体場として使っていた場所の近くだったことです。このため、当初は人間がオオカミにマンモスの肉を与えていた可能性も考えられました。しかし、胃の内容物にマンモスの痕跡は一切見つかりませんでした。このことから、子オオカミたちは人間に餌をもらっていたわけではなく、現代のオオカミと同じように、群れの仲間によって育てられ、餌を与えられていたという見方が強まっています。これは、「トゥマット・パピー」が家畜化された犬ではなく、野生のオオカミであったことの強力な証拠となります。

犬の「家畜化」の謎に迫る

この研究は、「トゥマット・パピー」がオオカミであるという結論に至った一方で、犬がどのようにして人間と共生するようになったのか、その「家畜化」のプロセスがいかに複雑で、解明が難しいかを改めて示しています。犬は、地球上で最初に人間と共にするようになった家畜と広く認識されていますが、その正確な時期や場所を特定することは、考古学や進化生物学における「聖杯」とも言える大きな課題です。

「古代DNA」が解き明かす過去

古代DNAの研究は、過去の生物の情報を直接得る画期的な手法です。今回の研究でも、胃の内容物や組織からDNAを抽出し、分析することで、彼らがオオカミであると特定する決定的な証拠となりました。

犬の家畜化については、いくつかの仮説があります。一つは、オオカミが人間の居住地の近くで残飯などを漁るようになり、徐々に人間がその行動を容認するようになったという説です。もう一つは、人間が積極的にオオカミを捕獲し、手なずけて育てた結果、一部の個体が野生の群れから孤立し、初期の犬へと進化したという説です。

しかし、「トゥマット・パピー」の遺伝子を以前に分析した結果では、彼らが現代の犬の遺伝的祖先には繋がらない、絶滅したオオカミの個体群に属していた可能性が示唆されています。今回の研究の著者たちは、発見されたすべての証拠が、これらのオオカミが完全に独立して生きていたことと合致すると結論付けています。

日本への示唆と今後の展望

今回の発見は、遠く離れたシベリアの出来事ですが、日本にとっても深い意味があります。日本では、縄文時代から犬と人間が共生していたことが知られており、古代の犬の骨が発見されることもあります。今回の研究のように、氷河期時代の動物の生態や、犬の家畜化のプロセスを解明することは、日本における古代の動物と人間の関係性、そして独自の犬の進化を理解する上でも重要な手がかりとなります。日本でも国立科学博物館などで古代DNAに関する特別展が開催されるなど、この分野への関心は非常に高いです。

また、地球温暖化によって永久凍土が溶け続けることで、今後も今回のような驚くべき古代の生物のミイラが発見される可能性が高まっています。これは、失われた生態系や生命の歴史を解き明かす大きなチャンスであると同時に、古代の病原菌の封印解除といったリスクもはらんでいます。

聖杯を求めて:解き明かされ続ける生命の歴史

アバディーン大学の生物分子考古学者リヌス・ガードランド=フリンク博士(今回の研究には不参加)は、「古代の犬か、野生のオオカミか、それともただの肉食動物か、あるいは人に慣れた個体なのかを判別することは、考古学的記録が断片的であるため容易ではない」と指摘します。彼は、「単一の証拠だけでは決定的な答えは出せず、考古学的、形態学的、遺伝学的、生態学的な多角的な証拠を結びつけて考える必要がある」と述べ、今回の「トゥマット・パピー」の多角的な再分析を高く評価しています。

「トゥマット・パピー」の研究は、私たちが遠い過去の生命の営みを理解するための貴重な一歩となりました。彼らが犬ではなかったという事実は、一見残念に思えるかもしれません。しかし、これによって彼らが野生のオオカミとしてどのように生き、どのような食生活を送っていたのか、よりリアルな姿が浮かび上がったのです。彼らの死は悲劇的なものでしたが、そのおかげで私たちは、1万4000年以上も前の氷河期の世界を垣間見ることができました。これからも、科学者たちの粘り強い探求によって、地球の歴史に隠された数々の謎が解き明かされていくことでしょう。私たちが日々を共に過ごす犬たちの祖先にまつわる物語も、引き続き注目される分野です。