【驚愕の初撮影】100年以上の謎!幻の深海イカ「ナンキョクテカギイカ」の生きた姿を初公開
深い海の底には、いまだ多くの神秘が隠されています。100年以上前にその存在が確認されながら、一度も生きた姿が目撃されてこなかった幻の深海生物、ナンキョクテカギイカ。その神秘のベールに包まれた姿が、ついに映像に収められました。この驚くべき発見は、This Squid Was Discovered in 1898. Scientists Just Saw It Alive For the First Time.でも詳細に報じられており、長年の謎が解き明かされる画期的なニュースです。
100年以上の謎を解く、初めての生きた姿
ナンキョクテカギイカ(学名:Gonatus antarcticus)というこのイカは、1898年にスウェーデンの動物学者アイナル・ロンバーグ氏によって初めて発見されました。ロンバーグ氏は南アメリカ大陸の最南端、ティエラ・デル・フエゴへの探査中に、マゼラン海峡に流れ着いた死骸を発見。さらに、漁網にかかった死んだ個体や、捕食者の胃の中から見つかった痕跡を収集することで、この謎多き生物の存在が知られるようになりました。その姿は近縁種とは大きく異なると記録されていましたが、生きた姿を見た者はこれまで一人もおらず、その生態は謎に包まれたままでした。
しかし、2024年12月、ついにその時が訪れました。南極海の一部であるウェッデル海の深海は、深海性のヒモムシ、サイフォノフォア、シーピッグなど、奇妙な生物が潜む場所です。シュミット海洋研究所が所有する調査船「ファルコア号」に乗った科学者チームは、このウェッデル海の深海を探査中に、驚くべきものに遭遇しました。
偶然が生んだ奇跡の出会い
探査には、遠隔操作無人潜水艇(ROV)の「SuBastian」が用いられました。ROVとは、人間が乗らずに遠隔で操作できる水中ロボットのことで、深海のような危険な場所でも安全に調査ができます。
この時、科学者たちは水深約2,100メートルの地点で、暗闇の中に一瞬、赤い光がひらめくのを目撃しました。SuBastianは、未探査の深海平野であるパウエル海盆のすぐ近くで、漂うイカの姿を捉えたのです。このイカは緑がかったインクを吐き出しながら、数分間SuBastianの周りを漂いました。その間に科学者たちは、無人潜水艇のライトを暗くしてイカが周囲の環境とどのように相互作用しているかを観察したり、レーザーで大きさを測定したりしました。その後、イカは闇の中へと泳ぎ去っていきました。
この貴重な映像を後に分析し、そのイカがナンキョクテカギイカであると特定したのは、ニュージーランドのオークランド大学の環境科学者キャット・ボルスタッド氏でした。ボルスタッド氏は「私の知る限り、この動物の生きた映像は世界で初めてです」と語っています。
実は、この貴重な発見は、ある偶然から生まれました。ナショナル ジオグラフィック協会とロレックスの「パーペチュアル・プラネット・オーシャン・エクスペディション」提携の一環として支援された探査チームは、本来、水深約3,000メートルに達するパウエル海盆の奥深くを探査する予定でした。しかし、クリスマスイブに荒天が襲来し、氷に阻まれたことで計画を変更せざるを得ず、海盆のすぐ外側にSuBastianを投入することにしたのです。
「まさかこんな偶然があるとは。私たちはそこにいるはずがなかったし、この正確な瞬間にここにいるはずもなかったのです」と、動物生態学研究所の研究者で、ボルスタッド氏のチームの一員でもあったマヌエル・ノビージョ氏はナショナル ジオグラフィックに語っています。もし悪天候がなければ、このイカは誰にも気づかれることなく、暗闇の中を泳ぎ続けていたかもしれません。この偶然が、100年以上もの間謎に包まれていたナンキョクテカギイカの姿を明らかにするきっかけとなったのです。
ナンキョクテカギイカの秘密と深海生物の知恵
ロンバーグ氏の記録によると、このイカは「非常に細長い外套膜と長い尾、柔らかい体」を持ち、「長く細いひれ、長く頑丈な触腕と小さな触腕こん」、そして「短く、太くて筋肉質な腕」が特徴だそうです。今回の映像で確認されたナンキョクテカギイカは、体長は約90センチメートルほどに達します。ダイオウイカや、同じく謎の多いダイオウホウズキイカ(こちらもSuBastianが2025年1月に生きた姿を初めて撮影しました)のように巨大ではありませんが、それでも非常に珍しい発見です。
深海に生息するこれらの頭足類(タコやイカの仲間)がどれくらいいるのか、どこに生息しているのかは、ほとんど分かっていません。しかし、ナンキョクテカギイカが、より大きなイカの仲間と共通して持っている特徴、それは「赤い体色」です。これは、深海で生きる多くの生物に見られる巧妙なカモフラージュの一つなのです。
水深が深くなると、太陽の光、特に赤い光の波長はほとんど届かなくなります。そのため、深海の「薄明帯」や「真夜中帯」と呼ばれるゾーンでは、赤い体色の生物は黒く見え、捕食者からほとんど見えなくなります。今回の映像に映ったイカの体には、何か大きな生物に襲われたような引っかき傷があり、それがダイオウホウズキイカの触腕の吸盤の跡に似ていることから、深海での厳しい生存競争の一端も垣間見えます。
深海研究の意義と日本の役割
今回の発見は、遠く離れた南極海の出来事ですが、私たち日本人にとっても無関係ではありません。日本は世界有数の海洋国家であり、独自の深海探査技術や研究機関を持っています。海洋研究開発機構(JAMSTEC)が開発した探査機「しんかい6500」などは、日本の深海研究を牽引してきました。
今回のナンキョクテカギイカの発見は、私たちがまだ知り得ない生物が深海には数多く存在することを改めて示しています。深海生物の研究は、地球の生命の多様性を解き明かすだけでなく、医薬品や新素材の開発につながる可能性も秘めています。また、南極海の生態系は地球全体の気候変動にも大きく影響しており、この海域の生物を理解することは、地球環境の変化を予測し、対策を立てる上で非常に重要な意味を持ちます。
偶然の発見ではありましたが、最先端のROV技術と、研究者たちの粘り強い探査、そして何よりも自然に対する探究心が、100年以上もの間謎に包まれていた生命の姿を明らかにしました。このような深海探査技術の進歩は、日本の周辺海域、特に日本海溝のような深い場所での新種発見や、未解明な生態系の理解にも貢献するでしょう。私たちも最新技術を積極的に活用し、国内の海域における生態系の謎をさらに解き明かしていくことが求められます。
深海探査の未来:無限のフロンティア
深海は、地球上で最も広大な未開のフロンティアであり、そのほとんどがまだ人類の目に触れていません。今回のナンキョクテカギイカの生きた姿の発見は、私たちがいかに多くの「知らないこと」に囲まれているかを示唆しています。最新技術の発展により、これまで不可能だった深海の調査が少しずつ可能になってきています。これは、地球上の生命がどのように進化し、環境に適応してきたのかを理解するための重要な手がかりを与えてくれます。
これからも、ROVのような遠隔操作技術や、AIを活用したデータ解析など、様々な技術を組み合わせることで、深海のさらなる秘密が明らかになることでしょう。
今回の発見は、ただ珍しいイカが見つかったというだけではありません。私たち人類が、どれだけ進歩しても、自然の神秘には終わりがないことを改めて示唆しています。そして、その神秘を解き明かそうとする探究心こそが、私たちの未来を豊かにする原動力となるでしょう。深海の新たな発見が、私たちにどのような驚きと学びをもたらしてくれるのか、これからの研究の進展に期待が高まります。
