私たちの住む宇宙は、星の光が届く透明な空間だと当たり前のように思えますよね。しかし、宇宙が生まれたばかりの頃は、実は真っ白な「霧」に覆われていて、星の光がほとんど届かない「暗黒時代」と呼ばれる時代がありました。まるで霧の中では遠くが見えないのと同じです。
今回、その宇宙を覆っていた霧がどのように晴れて、私たちが知る透明な宇宙になったのか、その謎を解き明かすかもしれない、驚きの発見がありました。あの「宇宙を見る目」として大活躍しているジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、初期宇宙を変革したかもしれない小さな銀河を発見したというニュースです。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の新たな発見:宇宙の夜明けを解き明かす小さな銀河たち
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、これまで見えなかった遠くの宇宙、つまり宇宙が生まれたばかりの頃の姿を捉えることができる、特別な宇宙望遠鏡です。NASAが中心となって開発したこの望遠鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機とも言われ、私たちが宇宙を理解する上でなくてはならない存在となっています。
今回、科学者たちは、このJWSTを使って、宇宙の歴史の初期に、宇宙を大きく変えるきっかけとなった可能性のある、ごく小さな銀河たちを見つけました。これらの小さな銀河から放たれた紫外線という光が、宇宙の再電離と呼ばれる重要な時代を引き起こしたかもしれないというのです。この発見は、2025年6月11日にアラスカ州アンカレッジで開催された第246回アメリカ天文学会で発表されました。
「紫外線を出す能力に関して言えば、これらの小さな銀河は、その小ささからは想像できないほどの力を発揮しています」と、アメリカ・カトリック大学とNASAゴダード宇宙飛行センターのアシスタント研究科学者であるアイザック・ウォルド氏は述べています。
「宇宙の暗黒時代」を照らした光の正体
宇宙が誕生してからおよそ10億年の間、宇宙は電気を帯びていない水素原子のガスである中性水素ガスで満たされていました。このガスが霧のように宇宙全体を覆い、星々から放たれる光が遠くまで届かない「暗黒時代」を生み出していたのです。しかし、初期の星や銀河から放たれた強力な紫外線によって、この中性水素ガスから電子が剥ぎ取られ(電離され)、宇宙は透明になっていきました。この過程が宇宙の再電離です。
今回の研究では、特に星形成が活発に進むスターバースト銀河と呼ばれる銀河が、この宇宙の霧を晴らす上で重要な役割を果たした可能性が示唆されました。スターバースト銀河とは、非常に短い期間に多くの星を爆発的に生み出す銀河のことです。例えるなら、普段は静かな町が、急に新しい建物が次々と建ち、人々が集まる活気ある町へと変貌するようなイメージです。
共同研究者でNASAゴダードの宇宙物理学者であるジェームズ・ローズ氏は、「低質量(=小さい)の銀河は、周囲に集める中性水素ガスが少ないため、電離作用のある紫外線が外に逃げやすいのです」と説明しています。さらに、「スターバースト現象は、豊富な紫外線を生成するだけでなく、銀河内の星間物質(星と星の間のガスや塵)に光が抜け出すための『通り道』を切り開く助けにもなります」とのこと。つまり、小さい上に活発だからこそ、効率的に宇宙を照らすことができたというわけです。
現在の天の川銀河の近くにある銀河のうち、初期の宇宙を変革したとされるこれらの銀河に似たものはわずか1%程度しかありません。しかし、宇宙が誕生からわずか8億年で再電離がすでに始まっていた頃には、それらははるかに一般的でした。
パンドラの銀河団が教えてくれたこと:重力レンズの魔法
研究チームは、この時代に存在した小さくて活発な銀河を探すため、地球からおよそ40億光年離れた場所にあるアベル2744(通称「パンドラの銀河団」)と呼ばれる銀河団のJWST画像を詳しく調べました。
この銀河団は非常に質量が大きいため、重力レンズという現象を引き起こします。重力レンズとは、アインシュタインの一般相対性理論で説明される現象で、巨大な質量を持つ天体が光の通り道を曲げることで、その奥にある遠い天体の光が拡大されて見える現象です。例えるなら、水の入ったグラス越しに物体を見ると、大きさが変わって見えたり、ゆがんで見えたりするのと似ています。この「宇宙の拡大鏡」のおかげで、遠くて小さすぎるために通常は見えない初期宇宙の銀河を観察することができたのです。
チームは、これらの画像から、2つの電子を失った酸素原子、つまり二重イオン化酸素から放たれる緑色の光を探しました。この二重イオン化酸素が存在するということは、その周辺で非常に強力な紫外線が生成され、電子が剥ぎ取られたことを示しています。そして、まさにこの紫外線こそが、宇宙を覆っていた水素ガスを再電離した可能性のある光なのです。
その結果、研究チームは83個もの小さなスターバースト銀河を特定しました。共同研究者のサンギータ・マルホートラ氏は、「これらの銀河は非常に小さく、天の川銀河と同じくらいの星の質量を築くには、そのような銀河が2,000個から200,000個も必要になります」と語っています。しかし、それらが合わさると膨大な量の紫外線を放出し、その小さなサイズのおかげで、その光はより遠くまで宇宙に届いたのです。
研究者によると、もしこれらの太古の銀河が、現代の宇宙に存在するグリーンピース銀河のように活発な星形成をしている銀河と似ているのであれば、宇宙の中性水素をイオン化するために必要なすべての紫外線を放出した可能性があるといいます。グリーンピース銀河とは、その名の通りエンドウ豆のように小さく丸い形をした銀河で、サイズに比べて非常に活発に星を生み出し、紫外線で明るく輝いているのが特徴です。
「我々がこの小さくも強大な銀河を分析した結果は、これまでの研究よりも10倍も感度が高く、これらの銀河が十分な数存在し、この宇宙の再電離を推進するのに十分な紫外線パワーを秘めていたことを示しています」とウォルド氏は語っています。
宇宙の夜明けは、小さな力によってもたらされた
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が明らかにしたのは、宇宙が霧に覆われた「暗黒時代」から、光が満ちる透明な時代へと移行した宇宙の再電離の主要な担い手が、これまで考えられていたよりもはるかに小さく、しかし非常に活発な銀河たちだったという驚きの事実です。まるで、夜明け前の暗闇を、無数の小さな灯りが少しずつ、しかし確実に照らしていったかのようです。
この発見は、私たちが宇宙の歴史を理解するための新たな扉を開き、初期宇宙の銀河形成や進化に関する理論を大きく前進させることでしょう。今後、JWSTはさらに多くのデータをもたらし、宇宙の始まりに関する謎をさらに深く掘り下げてくれるはずです。小さな銀河たちが秘めていた「宇宙を変える力」が、これからも私たちの宇宙観を更新していくことに期待が高まります。
