私たちが子どもの頃から親しんできた『ポケットモンスター』シリーズ。広大な世界を冒険し、たくさんのポケモンたちと出会うのは、いつだって胸が躍る体験ですよね。
2022年に発売された『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』（以下、ポケモンSV）は、シリーズ初のオープンワールド作品として大きな話題を呼びました。しかし、一方で『ポケモンSV』は、その技術的な完成度に関して度々指摘を受けていました。粗い画質、ぎこちないアニメーション、不安定なフレームレートといった問題がオープンワールドの冒険を妨げ、期待が大きかっただけに、少し残念に感じた人もいるかもしれません。
そんな『ポケモンSV』が、つい先日発売されたばかりの新しいゲーム機「Switch 2」で、どれくらい快適に遊べるようになったのか、海外のゲーム技術専門サイト「Eurogamer」のDigital Foundryチームが詳細な分析を行いました。その分析結果は、『ポケモンSV』ファンにとって非常に嬉しいものとなっています。
Switch 2で『ポケモン スカーレット・バイオレット』が劇的進化！
今回の分析を行ったDigital Foundryは、ゲームのグラフィックや動作の技術的な面を専門に分析していることで知られています。彼らが今回詳細に検証したのは、Switch 2で無料アップデートとして提供されている『ポケモンSV』の改善点です。その報告によると、Switch 2版『ポケモンSV』は、従来のSwitch版と比較して「画質」と「動きの滑らかさ」が大きく向上しているとのことです。
「画質」はどう変わった？驚きの進化
『ポケモンSV』は、広大なパルデア地方を隅々まで探索できるオープンワールドのゲームです。遠くまで見渡せる景色が多いのですが、従来のSwitch版では、画質があまり良くありませんでした。テレビモードだと720pから1080p、携帯モードだと576pから720pくらいの解像度で表示されていましたが、ギザギザした線（エイリアシング）が目立ったり、遠くの景色がチカチカしたり（シマリング）することがありました。
Switch 2版では、画質が劇的に改善されています。テレビモードでは内部解像度1080pで表示され、携帯モードでは約648pの解像度から1080pにアップスケーリングされて表示されるとのことです。特に、テレビモードで4Kテレビにつないで遊んでも、きれいに見えるほどの改善ぶりだそうです。
この画質向上には、DLSSという技術が使われていると考えられています。これは、パフォーマンスを重視した比較的安価なDLSSの実装と見られており、動くオブジェクトには特有の画質低下が見られる場合もあります。そのため、負荷の高いシーンでは画質が低下する可能性もあります。しかし、ポケモンの比較的穏やかなゲーム展開を考えれば、最終的な画質は大幅に改善されており、特に鮮明になったテレビモードではその恩恵を強く感じられるでしょう。また、DRS（ダイナミック解像度スケーリング）という、ゲームの負荷に合わせて画質をリアルタイムで調整する技術も併用されているようです。
これらの技術によって、ギラつきやギザギザした線がほとんどなくなり、より安定した美しい世界で冒険を楽しめるようになりました。
「動きの滑らかさ」も大幅改善！
従来のSwitch版『ポケモンSV』で特に気になったのが、ゲームの動きがカクつく、つまりフレームレートが不安定になることでした。オープンワールドを探索していると、画面の動きが30fpsを目標としているにもかかわらず、20fps台半ばまで落ち込んでしまうことも珍しくありませんでした。特に、特定の場所に移動した際や、イベントシーンでは、一瞬ゲームの動きが止まったように感じるフレーム時間のスパイク（Frame-time spikes）という現象も発生していました。これは、ゲームの次の画面を表示するのに時間がかかりすぎてしまうことで起こる、一瞬の「つっかえ」のようなものです。
しかし、Switch 2ではこの問題が大きく改善されました。テレビモードでは60fpsを目標とし、ほとんどの場面でそれを達成しているとのことです。もちろん、オープンワールドを移動中にたまに33ms（33ミリ秒）ほどの短い「つっかえ」が発生することはあるようですが、それでも従来のSwitch版と比べれば格段に滑らかになっています。携帯モードでも同様に60fpsに近い動きが期待でき、冒険の快適さが飛躍的に向上しています。
この改善の背景には、Switch 2に搭載されているT239プロセッサという高性能なCPU（中央演算処理装置）の力があります。また、これまで遠くにいるキャラクターやポケモン、風車などのオブジェクトは、毎秒2回といった非常に低い頻度でしかアニメーションが更新されず、近くに寄らないと滑らかに動かないという問題がありましたが、Switch 2ではどんなに遠くても、常に滑らかなアニメーションで表示されるようになっています。これは、Switch 2のCPU性能が大きく向上したためだと考えられます。
さらに、Switch 2では、歩いたり乗り物に乗ったりしているときに、画面に表示されるポケモンの数が増えたそうです。これは、ポケモンを集めるのが好きな人にとっては嬉しいニュースかもしれませんが、単に移動したい人にとっては少し煩わしいと感じるかもしれません。
さらに快適に！ロード時間も短縮
ゲームを遊ぶ上で、読み込み時間（ロード時間）の長さは意外とストレスになるものです。従来のSwitch版『ポケモンSV』では、各地への「そらをとぶ（ファストトラベル）」に時間がかかっていました。
しかし、Switch 2版ではこのロード時間が最大で4.4倍も速くなっています！ 目的地に到着するまでの読み込みがほんの数秒で終わるようになり、ゲーム全体のテンポが格段に良くなりました。新型Switch 2本体は、全体的にデータの読み込みが速くなっているようで、これは様々なゲームで快適なプレイにつながる、非常に嬉しい進化です。
まだ残る課題と今後の展望
このように、Switch 2で『ポケモンSV』は素晴らしい進化を遂げました。しかし、全てが完璧になったわけではありません。Digital Foundryの分析によると、いくつかの課題も残っているようです。
例えば、遠くのものが表示される距離（描画距離）や、急にものが現れる現象（ポップイン）は、Switch 2になっても従来のSwitch版とほとんど変わっていません。また、一度プレイヤーから離れてしまったポケモンがすぐに消えてしまう（再出現しない）点も、オープンワールドのゲームとしては少し残念な点として指摘されています。
その他にも、低解像度の影マップが依然として存在し、粗い法線マップや人工的なタイリング風景といった、近距離で見ると粗く、遠距離で見ると不自然なテクスチャ（物の表面の模様）の品質は変わっていません。ただし、遠くのテクスチャについては高解像度ミップマップが適用されるようになり、ベースのアセットが同じでも遠景のディテールは向上しています。一部のイベントシーンの画質が良くない点や、HDRという、よりリアルな明るさや色の表現に対応していない点も挙げられます。また、ゲームの根底にあるビジュアル技術にはまだ課題が見られ、SSAOの欠如、間接照明の品質の低さ、ぎこちないアニメーション、そして基本的で低精細なモデルなど、いくつかの点で貧弱さが残されています。
全体的に、Switch 2で『ポケモンSV』ははるかに遊びやすくなりましたが、ゲームフリークが使っているグラフィックの技術や、ゲームを動かすための「エンジン」と呼ばれる仕組みが、現代のゲーム機に合わせてまだ完全に進化しきれていない、という指摘もあります。まるで、Xbox 360やPlayStation 3といった、昔のゲーム機向けのゲームを見ているようだ、という厳しい意見も出ています。
『ポケモンSV』は、人気シリーズの最新作でありながら、開発期間やリソース（時間や人手）が十分でなかったためか、技術的な部分で課題を抱えていた側面があるのかもしれません。しかし、Switch 2の登場によって、ゲームが持つポテンシャルを大きく引き出してくれたことは間違いありません。
Switch 2版『ポケモンSV』の進化と今後の展望
Switch 2で生まれ変わった『ポケモン スカーレット・バイオレット』は、従来のSwitch版が抱えていた画質や動作の重さといった問題を大きく改善し、より快適で没入感のある冒険が楽しめるようになりました。
もちろん、根本的なグラフィックの表現は変わっていませんが、それでも滑らかな動きとクリアな映像で、パルデア地方を自由に駆け巡る体験は格段に向上したと言えるでしょう。まさに新型ハードウェアが、既存のゲームに新たな命を吹き込んだ好例と言えます。
今回の改善は、今後の『ポケットモンスター』シリーズの展開にも期待を持たせてくれます。ゲームフリークが、今回のSwitch 2のパワーを最大限に活かせる新しいゲームエンジンや技術を開発し、次の作品ではグラフィック面でも最高の体験を提供してくれることを期待したいところです。すでに『ポケモンSV』を遊んだ方も、まだプレイしていない方も、Switch 2で新たなパルデア地方の冒険を楽しんでみてはいかがでしょうか。
