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AIが捉えたブラックホールの姿、ノーベル賞学者が警鐘を鳴らす理由

最近、私たちの身の回りではAI(人工知能)の話題を耳にしない日はないほど、AIは私たちの生活に深く浸透してきました。スマートフォンで質問に答えてくれたり、絵を描いてくれたり、まるで魔法のようですよね。そんなAIが、なんと宇宙の最も神秘的な存在の一つである「ブラックホール」の画像解析にも使われ、科学界で大きな話題になっているのをご存じでしょうか?

しかし、このAIが作り出した新しい画像について、専門家からは「ちょっと待って!」という声も上がっています。特に、ノーベル物理学賞を受賞した著名な科学者が懸念を示しており、その背景には科学研究におけるAIの可能性と課題が隠されています。今日は、そんな宇宙とAIの最先端の話題について、詳しく見ていきましょう。

今回ご紹介する記事はこちらです: Nobel laureate concerned about AI-generated image of black hole at the center of our galaxy - Space

AIが描き出した銀河中心の「いて座A*」の姿

私たちの住む天の川銀河の中心には、巨大な「いて座ASagittarius A)」という超大質量ブラックホールがあることが知られています。このブラックホールは、私たち銀河系全体の運命を左右するほど強力な存在です。

2022年5月には、世界中の電波望遠鏡をつなぎ合わせた「イベントホライズンテレスコープ(EHT:Event Horizon Telescope)」という国際プロジェクトによって、このいて座A*の史上初の画像が公開され、世界中で大きなニュースになりました。まるでドーナツのようなその姿は、多くの人々にブラックホールの存在を実感させてくれましたね。この成功には、日本の研究者も大きく貢献しています。

しかし、この画像は、いて座A*の謎の一部を解き明かしたに過ぎません。例えば、ブラックホールがどれくらいの速さで回転しているのか、その回転軸はどちらを向いているのかといった詳しい情報は、これまでの方法ではなかなか特定が難しかったのです。

そこで今回、オランダのラドバウド大学に所属する宇宙物理学者、Michael Janssen氏らの国際研究チームは、AIの力を借りて、この難問に挑みました。彼らは、これまで「ノイズ(雑音)が多すぎて使えない」とされてきたEHTの観測データに、AIの一種である「ニューラルネットワーク」という技術を適用したのです。ニューラルネットワークとは、人間の脳の神経細胞のつながりを模したコンピューターの仕組みで、たくさんのデータからパターンを見つけ出すのが得意です。Janssen氏は、この技術がノイズの多いデータから情報を引き出すのに最適だと考えました。

そして、AIが解析した結果、いて座A*が「ほぼ最高速度で回転している」こと、そしてその回転軸が「地球の方向を向いているようだ」という、新たな特徴が明らかになったと研究チームは発表しました。この研究結果は、今月、専門誌『Astronomy & Astrophysics』に掲載されました。

AIの「魔法」へのノーベル賞受賞者の懸念

AIによる新しい発見はとてもエキサイティングですが、誰もが手放しで喜んでいるわけではありません。ドイツのマックス・プランク地球外物理学研究所に所属し、いて座A*の研究で2020年にノーベル物理学賞を受賞したラインハルト・ゲンツェル(Reinhard Genzel)氏は、今回のAIによる画像解析に対して懸念を表明しています。

ゲンツェル氏は、科学ニュースサイト『Live Science』の取材に対し、「彼らの研究には共感し、興味も持っている」としながらも、「人工知能は奇跡の治療法ではない」と釘を刺しました。つまり、AIは非常に強力なツールであるものの、万能ではないという警告です。

ゲンツェル氏が特に懸念しているのは、AIに学習させたデータの「質」です。今回使われたデータは、地球の大気中の水蒸気などが原因で発生するノイズが非常に多く、これまで通常の解析手法では「使い物にならない」と判断されてきたものです。このような低品質なデータを用いてAIが学習すると、AIが「思い込み」や「偏り」を持ってしまい、生成された画像が実際の姿とは異なる、ゆがんだものになってしまう可能性があると指摘しているのです。

「超長基線電波干渉法」とは? なぜノイズが多いの?

今回の研究の肝となるのが、EHTが用いる「超長基線電波干渉法(VLBI:Very Long Baseline Interferometry)」という観測技術です。これは、地球上にある複数の電波望遠鏡(日本も参加しています!)を同時に使って、それぞれが観測した電波を合成することで、まるで地球と同じくらい大きな一つの仮想的な望遠鏡として機能させる技術です。これにより、遠く離れた天体をとても細かく見ることができます。

しかし、このVLBIは、電波が地球の大気を通過する際に、大気中の水蒸気によって「干渉(邪魔)」されやすいという弱点があります。水蒸気は常に動き回っているので、電波が望遠鏡に届くまでのわずかな時間でも、経路がわずかに変化し、データに「ブレ」や「ノイズ」が生じてしまうのです。まるで、霧がかかった中で遠くの景色を見ようとするようなもので、ぼやけてしまったり、正確な形が分からなくなってしまうことがあります。

従来の解析方法では、このノイズをできるだけ取り除いたり、ノイズが少ないデータだけを選んだりしていました。しかし、それでは使えるデータが限られてしまい、ブラックホールのより詳しい姿を探るのが難しかったのです。AIは、こうした複雑なノイズパターンの中から、意味のある信号を見つけ出す可能性があるとして期待されています。

日本への影響とこれからの科学研究

今回のニュースは、日本の私たちにとっても無関係ではありません。日本は、EHTプロジェクトに最初期から深く関わっており、国立天文台を中心に、多くの日本人研究者がいて座A*や他のブラックホールの観測・解析に貢献しています。AIによる新しい解析手法が確立されれば、日本の研究者たちもさらに深い研究を進めることができるようになるでしょう。

また、今回の件は、科学研究におけるAIの活用について、非常に重要な問いを投げかけています。AIは、これまで不可能だったデータ解析を可能にする「強力な武器」となり得ますが、一方で「本当に正しい結果なのか?」という問いに、常に人間が立ち返って検証する必要があります。

AIはあくまでツールであり、その結果の解釈や検証は人間の科学者の役割です。特に、元のデータに不確実性が含まれる場合、AIがどのような「判断」をして画像を生成したのか、そのプロセスを理解し、本当に信頼できる結果なのかを見極める「AIリテラシー」が、これからの科学者にはますます求められるようになるでしょう。

科学の進化は「対話」から生まれる

今回のノーベル賞受賞者からの懸念表明は、AIの進歩を否定するものではなく、むしろ科学の健全な進化のためには欠かせない「批判的な検証」の一環だと捉えることができます。

新しい技術が登場するとき、その可能性に期待が集まる一方で、その限界やリスクを指摘し、より良い方法を探るための議論が生まれるのは、科学の常です。ゲンツェル氏の懸念は、研究チームにとってモデルをさらに改善し、その信頼性を高めるための重要なヒントとなるはずです。Michael Janssen氏らのチームも、今後AIの解析結果を実際の観測データと照らし合わせることで、モデルをより洗練させていく計画だと語っています。

AIの活用は、天文学に限らず、医療、環境、ものづくりなど、あらゆる分野で加速しています。しかし、AIが導き出す答えを「鵜呑み」にせず、常にその根拠を問い、人間が最終的に判断を下すという姿勢が、これからもとても大切になるでしょう。

今回のブラックホールの画像解析の試みは、AIが科学のフロンティアを切り拓く可能性と、それに伴う新たな課題を私たちに教えてくれています。AIと人間の知恵が協力し、互いの強みを活かしながら、宇宙のさらなる謎が解き明かされる日が来ることを楽しみに待ちましょう。