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火星で建物が「育つ」?微生物が建材を作る新技術、日本への応用も期待

火星建設が大きく前進!微生物が建材を「育てる」新技術

火星への移住、なんて聞くと、なんだか遠い未来の話のように感じませんか?でも、実は今、火星で建物を建てるための驚くべき技術が進んでいるんです。たとえば、私たちが普段使っているレゴリスという材料をご存知でしょうか?これは、火星の砂や岩石などを指す言葉なんですが、なんとこのレゴリスを「合成地衣類システム」のようなものを使って、人間の手を借りずに建材に変える方法が開発されているんです。まるでSFの世界のような話ですが、これはテキサスA&M大学の研究者たちが進めている、まさに現実の話なんです。この革新的な研究は、遠い宇宙の地で、限られた資源の中で持続可能な建築を可能にするかもしれません。一体どんな仕組みで、私たちの住む地球から遠く離れた火星で「建物が育つ」のか、詳しく見ていきましょう。火星建設が大きく前進

なぜ火星での建設が難しいのか

そもそも、なぜ火星で建物を建てるのがそんなに難しいのでしょう?それは、まず地球から火星までは、およそ1億6000万km以上も離れているからです。

これだけ遠いと、建設に必要な材料をロケットでたくさん運ぶのは、とても現実的ではありません。費用も莫大ですし、そもそもロケットに積める量にも限界があります。つまり、地球から材料を運ぶのではなく、「火星にあるものを使って、火星で建てる」という方法が必要なのです。

さらに、火星は人も少なく、建設作業を手伝ってくれる人がいないという問題もあります。だからこそ、誰かの手を借りずに、ロボットなどが自動で(自律建設)建設を進められる技術が求められています。

「合成地衣類システム」のすごい仕組みを解き明かす!

火星の砂(レゴリス)を利用して建材を作り、建物を建てるという、SFのような技術が現実のものになりつつあります。その鍵となるのが、「合成地衣類システム」と呼ばれるものです。これは、地球上の地衣類が菌類と藻類(またはシアノバクテリア)がお互いに助け合って生きているように、人工的に設計された微生物の「チーム」なのです。

このチームを率いるのは、テキサスA&M大学のCongrui Grace Jin(コンルイ・グレース・ジン)博士たちです。彼らが開発した合成地衣類システムは、火星の過酷な環境でも機能し、なんと外部からの補給なしに建材を作り出すことができるというから驚きです。

微生物たちの「協力」が建材を生み出す仕組み

では、この「合成地衣類システム」は具体的にどのように働くのでしょうか?

このシステムは、主に二種類の微生物から成り立っています。

  1. 従属栄養糸状菌(じゅうぞくえいようしじょうきん): この菌類は、他の生き物から栄養をもらって生きるタイプで、たくさんのミネラルをくっつける「接着剤」のような働きをします。火星の過酷な環境でも、他の菌類よりも生き残りやすいという特徴を持っています。
  2. 光合成独立栄養窒素固定シアノバクテリア(こうごうせいどくりつえいようちっそこていシアノバクテリア: こちらは、太陽の光を浴びて自分で栄養を作り出し(光合成)、空気中の窒素を取り込んで(窒素固定)、それを生きていくために使うことができるシアノバクテリア藍藻の一種)です。

この二者が協力することで、以下のようなサイクルが生まれます。

  • シアノバクテリアの働き: 空気中の二酸化炭素(CO2)と窒素(N2)を取り込み、光合成によって酸素(O2)と有機物(栄養)を作り出します。この有機物は、シアノバクテリア自身だけでなく、パートナーである糸状菌の助けにもなります。さらに、光合成の活動によって炭酸イオン(CO32-)の濃度を高め、建材のもとになる物質を作り出すのを助けます。
  • 糸状菌の働き: シアノバクテリアが作り出した水やミネラル、二酸化炭素などを利用し、菌の細胞の表面に金属イオンなどを集めて、建材の結晶がくっつきやすい「土台」を作ります。また、シアノバクテリアがより良く育つための環境(水や栄養の供給など)を整えることもあります。

そして、この二つの微生物は、どちらも「バイオポリマー」という、ねばねばした物質を分泌します。このバイオポリマーが、火星のレゴリスの粒子同士、そして生成された結晶とをしっかりとくっつけ、固い建材の塊を作り出すのです。

まるで、地衣類が石の上で生きるために、菌類が岩を溶かし、藻類が光合成でエネルギーを作るように、この合成地衣類システムは、火星のレゴリスと、空気、光、そして少量の液体があれば、自らの力で建材を生み出し、成長していくのです。これはまさに「微生物による自己増殖技術(microbe-mediated self-growing technology)」と言えるでしょう。これなら、人の手を借りずに、火星でも建物が「育つ」ように作れるというわけです。

未来の宇宙建設と地球への応用:持続可能な社会への一歩

火星での建設は、私たちが今まで考えてきた「建てる」という概念とは少し違います。この「合成地衣類システム」による建設方法は、まるで生きているかのように材料を作り出し、構造物を「育てる」という新しい形です。この技術は、火星のような遠い場所だけでなく、将来的な宇宙探査の拠点づくりや、さらに広い宇宙の様々な場所での建設に応用できる可能性があります。

宇宙から「身近な」建築へ、「バイオものづくり」の可能性

今回の研究で使われている、微生物の力を借りて建材を作る「バイオものづくり(bio-manufacturing)」という考え方は、宇宙建築の未来を照らすだけでなく、私たちの身近な建設方法にも大きな影響を与えるかもしれません。

例えば、建物を建てる際に、セメントの代わりに微生物が作り出す接着剤を使ったり、断熱材や構造材そのものを微生物に作らせたりすることが考えられます。これにより、建築現場での廃棄物を減らし、環境に優しい建設が可能になるかもしれません。

また、この技術は「Engineered Living Materials(エンジニアード・リビング・マテリアルズ)」、つまり「人工的な生きた材料」という新しい分野にもつながっています。これは、材料自体が自己修復したり、温度や湿度に合わせて性質を変えたりすることができる可能性を秘めています。将来的には、壊れたら自分で直る家や、気候変動に合わせて色が変わる壁なども夢ではないかもしれません。

Congrui Grace Jin博士の研究は、まさに私たちが宇宙で暮らす未来を大きく変えるだけでなく、地球上の持続可能な社会を実現するための一歩となる可能性を秘めているのです。

編集部が注目する「自律建設」の未来

今回の記事で最も注目すべき点は、火星という極限環境下で「人間を必要としない自律建設」を目指していることです。これは、単に建設の効率化というだけでなく、遠隔地での作業における安全性や持続可能性を根本から変える可能性を秘めています。例えば、災害復旧やインフラ整備など、危険が伴う場所や人手が不足している状況での迅速な対応に繋がるかもしれません。将来的には、建築ロボットが微生物と協働し、必要な時に必要な場所で建材を作り出しながら、構造物を「育てる」ように建設していく未来が考えられます。

私たちにできること:持続可能な社会への小さな一歩

この革新的な技術は、まだSFの世界の話のように聞こえるかもしれません。しかし、私たちが普段から環境問題や資源の有効活用について意識し、持続可能な社会を目指す取り組みを支持していくことが、このような未来技術の発展を後押しすることにつながります。例えば、身近なところでは、リサイクルや省エネルギーを心がけること、環境に配慮した製品を選ぶことなどが挙げられます。火星での暮らしを想像するような大きな夢も、足元の小さな行動の積み重ねから生まれるのかもしれません。この研究が、未来の宇宙だけでなく、私たちの地球の暮らしをより豊かにするヒントを与えてくれることを期待したいです。