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米トランプ氏、半導体税額控除35%提案で業界再編加速か 日本への影響は?

スマートフォンやパソコンの心臓部である半導体。その生産体制をめぐり、世界が大きく動いています。特にアメリカでは、国内での製造を強化する動きが活発化する中、トランプ前大統領が提案した新たな税制優遇策が業界に波紋を広げています。この政策は、IntelやMicron、TSMCといった大手半導体メーカーの米国での投資を、さらに後押しする可能性があるからです。

本記事では、海外メディアTipRanksのニュース「Trump’s 35% Chip Tax Credit Sparks New Rally for Intel, Micron, and TSMC」を基に、この税制優遇策の具体的な内容と、半導体業界への影響を分かりやすく解説します。この動きが、今後の市場や私たちの生活にどう関わってくるのか、一緒に見ていきましょう。

なぜ今「半導体の国内生産」が重要なのか?

近年、多くの製品に不可欠な半導体を自国で生産しようという動きが、世界的に活発化しています。特にアメリカが「国内回帰」を急ぐ背景には、いくつかの重要な理由があります。

世界的な半導体不足と地政学リスク

ここ数年、世界的な半導体不足が深刻化し、スマートフォンの部品から自動車の生産に至るまで、幅広い産業に影響が及びました。この背景には、新型コロナウイルスパンデミックによる工場の操業停止や、リモートワーク普及に伴う電子機器の需要急増などがあります。

さらに、国際情勢の不安定化、いわゆる「地政学リスク」も大きな要因です。半導体のように特定の地域でしか生産できない技術や製品は、その地域で問題が発生すると世界中への供給が滞る危険性をはらんでいます。こうした経験から、自国で半導体を安定的に確保する「経済安全保障」の重要性が、かつてなく高まっているのです。

米国政府による強力な後押し

このような状況を受け、アメリカは自国での半導体生産能力を高める政策を次々と打ち出しています。その代表例が、2022年に成立した「2022 CHIPS and Science Act」(CHIPS・科学法)です。この法律は、国内の半導体産業を支援するため、390億ドル(約5.6兆円)もの補助金や、最大750億ドル(約10.8兆円)の連邦ローンを盛り込んだ大規模なものです。

今回新たに注目されているのが、トランプ前大統領が提案する、さらに踏み込んだ税制優遇策です。これは、半導体製造施設への投資に対する税額控除(Investment Tax Credit)を、現在の25%から35%へと大幅に引き上げるという内容です。この動きは、私たちの生活に身近な製品の価格や供給にも影響を与える可能性があり、決して他人事ではありません。

「投資税額控除35%」がもたらすインパク

トランプ氏が提案する「投資税額控除35%」は、半導体業界に具体的にどのような変化をもたらすのでしょうか。

工場建設のコストを大幅に削減

最大のポイントは、半導体メーカーがアメリカ国内で新しい工場(ファブ)を建設したり、設備を増強したりする際に受けられる税額控除が、25%から35%に引き上げられる点です。例えば、100億円を工場建設に投じた場合、これまで25億円が税金から差し引かれていたのが、今後は35億円も控除される計算になります。この実質的なコスト削減は、企業がアメリカで大規模な投資に踏み切るための強力なインセンティブとなります。

この制度は、2025年までに建設が開始された工場を対象としており、多額の設備投資を要する半導体メーカーの長期計画に大きな影響を与えます。現在、米国のIntelインテルMicron(マイクロン)オハイオ州ニューヨーク州で、台湾のTSMCアリゾナ州で、それぞれ大規模な工場建設を進めています。今回の税額控除引き上げは、これらの計画をさらに加速させたり、投資規模を拡大させたりする可能性があります。

政策の背景にある「2025年」という期限

この提案は、前述の「CHIPS and Science Act」をさらに強化するものです。トランプ氏が成立を急ぐ背景には、「2025年末」という期限が大きく影響しています。この税額控除は2025年末までの着工が条件となる可能性が高く、企業は投資判断を急ぐ必要があります。

さらにトランプ氏は、半導体技術に対する輸入関税の導入も示唆しており、これは米国外で製造された半導体にとって不利な条件となり得ます。そのため、企業は「国内生産」のメリットを最大化すべく、この税額控除の活用に動くと予想されます。

半導体の安定供給と価格への期待

アメリカ国内での半導体生産が増えれば、世界的な供給が安定し、スマートフォンやPCといった電子機器がより安定的に供給されるようになるかもしれません。また、輸送コストの削減や為替変動リスクの低減により、将来的には製品価格の安定化にも繋がる可能性があります。

日本への影響と半導体業界の未来

アメリカで進む半導体の国内生産強化は、日本の産業や私たちの生活にも様々な影響をもたらします。

日本企業への追い風と新たな競争

アメリカで進む、製造拠点を国内に戻す「Onshoringオンショアリング)」という動きは、日本の半導体関連企業にとって大きなビジネスチャンスです。半導体の材料や製造装置に強みを持つ日本メーカーは、アメリカでの新たな工場建設ラッシュによって、需要拡大の恩恵を受けられる可能性があります。

しかし、同時にグローバルな競争環境も変化します。アメリカが国内生産を強力に後押しする中で、日本も国際的な競争力を維持・向上させるための戦略が問われることになるでしょう。

多極化へ向かう世界のサプライチェーン

これまで台湾や韓国などに集中していた半導体の製造拠点は、アメリカの動きをきっかけに、より多くの国へと分散する「多極化」が進む可能性があります。最先端技術を持つ企業が限られる中、製造拠点の立地は地政学的にも極めて重要です。アメリカの政策が他国にも同様の動きを促し、世界のサプライチェーン(供給網)は、より多様な形へと再編されていくかもしれません。

記者の視点:日本の半導体産業は「サポーター」か「プレイヤー」か

今回のトランプ氏による大胆な提案は、単なる税制優遇策にとどまりません。これは、テクノロジーの心臓部である半導体をめぐる、世界的な主導権争いが新たな段階に入ったことを示す象徴的な出来事です。

この大きな地殻変動の中で、日本の立ち位置も改めて問われます。TSMCの熊本工場誘致に象徴されるように、日本は半導体製造の重要な拠点として再び注目されています。しかし、重要なのは、この流れの中で日本が単に米国の戦略を支える「サポーター」に留まるのか、それとも独自の強みを活かして世界の半導体産業をリードする「プレイヤー」を目指すのか、という点です。

日本の強みである素材や製造装置分野をさらに強化しつつ、次世代半導体の設計・開発でも存在感を発揮できるかどうかが、今後の日本の産業競争力を大きく左右するでしょう。

半導体覇権競争が拓く未来

この法案が実際に成立するか、そして他国がどう反応するかは、今後の大きな注目点です。もしアメリカがこれほど強力な国内投資へのインセンティブを打ち出せば、欧州やアジア各国も追随し、世界的な「補助金競争」が激化するかもしれません。これはサプライチェーンの多極化を加速させる一方、過度な保護主義につながるリスクもはらんでいます。

この記事で見てきたように、半導体をめぐる動きは、私たちのスマートフォンやパソコンの価格だけでなく、国の経済安全保障や未来のテクノロジーの行方そのものに直結しています。一見複雑に見える政策や国際情勢も、私たちの暮らしと未来に繋がる「物語」として広い視野で捉えることで、より深く、自分事として理解できるはずです。この技術の心臓部をめぐる競争の行方を、ぜひ一緒に見守っていきましょう。