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火星で生命が見つからないのはなぜ?NASA新発見が解く「炭酸塩鉱物」と気候変動の謎

「火星で生命が見つからないのはなぜだろう?」宇宙への関心が高い日本では、火星移住の話題を耳にする機会も増えました。そんな中、科学メディア「ScienceAlert」が報じた「NASA Discovery Could Explain Why We've Never Found Life on Mars」というニュースが、この長年の謎を解く鍵となりそうです。

この記事では、かつて液体の水が存在したとされる火星で、なぜ生命の痕跡が見つからないのか、その理由に迫ります。NASAの探査車が発見した「炭酸塩鉱物」を手がかりに、火星の気候史と生命の居住可能性について詳しく解説します。

かつて水があった火星、なぜ生命の痕跡は見つからないのか?

地球の隣に位置する「赤い惑星」、火星。これまでの探査によって、その表面にはかつて川や湖が存在し、液体の水が流れていたことが明らかになっています。数十億年前の火星は、現在よりもずっと温暖で、地球に似た環境だったと考えられています。

しかし、これほどの好条件が揃っていたにもかかわらず、なぜ私たちは未だに火星で生命の痕跡を発見できないのでしょうか。この根源的な問いは、地球外生命探査における最大の謎の一つです。現在の火星は極度に寒冷で乾燥した不毛の大地であり、一体何が火星を生命が存在できない惑星に変えてしまったのか。この気候変動の謎を解き明かすことが、火星における生命の可能性を探る上で不可欠です。

謎を解く鍵は「炭酸塩鉱物」と「火山活動の弱さ」

この謎を解く鍵は、NASAの火星探査車「キュリオシティ・ローバー(Curiosity rover)」が発見した岩石に隠されていました。それは「炭酸塩鉱物」です。地球では石灰岩として知られるこの鉱物は、大気中の二酸化炭素(CO₂)を吸収して岩石の中に閉じ込める性質を持っています。

地球では、火山活動によって絶えず二酸化炭素が供給される一方で、炭酸塩鉱物がそれを吸収することで気候のバランスが保たれてきました。このプロセスは「火山性脱ガス」と呼ばれ、惑星を温暖に保つ温室効果ガスの循環に不可欠な仕組みです。

しかし、火星の運命は地球とは異なりました。シカゴ大学の惑星科学者Edwin Kite氏らの研究によると、火星の火山活動は地球に比べて著しく弱かったのです。そのため、大気への二酸化炭素の供給が乏しいにもかかわらず、炭酸塩鉱物はスポンジのように二酸化炭素を吸収し続けました。その結果、火星の大気は急速に薄くなり、惑星全体が寒冷化してしまったと考えられています。

研究チームの気候モデルによれば、たとえ火星に生命を育む温暖な時期があったとしても、それは「一時的なオアシス」に過ぎませんでした。その後、1億年にも及ぶ長い間、生命にとっては過酷な寒冷乾燥期が続いたと推定されています。もし初期の火星に微生物のような生命が誕生していたとしても、この長すぎる冬を乗り越えるのはほぼ不可能だったでしょう。

火星が物語る、地球の奇跡と生命探査の未来

今回の研究は、火星がなぜ生命を育む惑星になれなかったのか、その有力な答えを示しました。大気中の二酸化炭素を吸収する「炭酸塩鉱物」の存在と、それを補うべき「火山性脱ガス」の弱さ。この不運な偶然の重なりが、火星を生命のいない静かな世界にしたのかもしれません。

この火星の物語は、私たちが住む地球がいかに絶妙なバランスの上に成り立つ「奇跡の惑星」であるかを浮き彫りにします。私たちが当たり前のように享受している安定した気候や豊かな生態系は、数十億年という時を経て紡がれた、幸運な偶然の産物なのです。

この謎への最終的な答えを求め、今後の焦点は火星の石を地球に持ち帰る「マーズ・サンプルリターン」計画に集まります。次の10年での実現を目指し、現在は米国と中国が開発競争を繰り広げています。人類が初めて手にする火星のサンプルを地球の最先端技術で分析することで、私たちの宇宙観を根底から覆す発見につながる可能性があります。

古代の微生物の痕跡が見つかれば、それは「生命は宇宙にありふれている」という希望に満ちた時代の幕開けを意味します。逆に見つからなければ、地球生命の孤独と尊さが、より一層際立つことになるでしょう。どちらの結果になろうとも、火星探査は私たちに「自分たちはどこから来て、どこへ向かうのか」という根源的な問いを投げかけ続けるのです。