ワカリタイムズ

🌍 海外ニュースを「わかりやすく」

プラスチック食べる「ワックスワーム」、環境問題解決の切り札に?分解能力と課題

レジ袋や食品トレーなどに使われるプラスチック「ポリエチレン」。自然界で分解されるのに数百年かかるとされ、環境問題の大きな要因となっています。ところが、この厄介なプラスチックを食べてしまう驚きの幼虫がいることが、ベルギーのアントワープで開催された「Society for Experimental Biology Annual Conference」で発表され、注目を集めています。

この幼虫は「ワックスワーム」と呼ばれ、プラスチックごみ問題の解決策として、また、資源を循環させて廃棄物をなくす「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への貢献が期待されています。この記事では、科学メディアInteresting Engineeringで報じられた「Waxworms can eat plastic, poop profit and possibly save the planet」というニュースをもとに、ワックスワームの驚くべき能力と、その実用化に向けた課題を詳しく解説します。

プラスチックを食べる不思議な幼虫「ワックスワーム」とは

世界中で問題となっているプラスチックごみ。特にポリエチレンは非常に丈夫で分解されにくいため、深刻な環境汚染を引き起こしています。そんな中、希望の光として現れたのがワックスワームです。

ミツバチの巣に住む幼虫

ワックスワームは、本来ミツバチの巣に寄生し、巣の材料である蜜ろうを食べて成長する、体長1cmほどの小さな幼虫です。養蜂家にとっては害虫として知られていました。

プラスチックを食べる「プラスティヴォーレ」

近年の研究で、このワックスワームがポリエチレンを分解できることが発見されました。この能力から、研究者たちはワックスワームを「プラスチックを食べる生物」を意味する「プラスティヴォーレ」という造語で呼んでいます。

驚異的な分解スピード

最新の研究では、ワックスワームがポリエチレンを分解し、自身の体脂肪として蓄えることができると報告されています。そのスピードは驚異的で、約2,000匹のワックスワームが、わずか24時間で一般的なレジ袋1枚分に相当するプラスチックを分解できることがわかっています。

プラスチックだけでは生きられない?ワックスワームの食生活の課題

プラスチックを分解するという夢のような能力を持つワックスワームですが、研究を進める中で意外な課題も見つかりました。彼らをプラスチック問題の解決に役立てるには、生物としての特性を深く理解する必要があります。

研究チームがワックスワームにプラスチックのみを与える実験を行ったところ、わずか数日で死んでしまったり、体重が減少したりと、健康に悪影響が出ることが判明しました。この結果は、ワックスワームがプラスチックをエネルギー源にはできるものの、それだけでは生存に必要な栄養素をすべて補えないことを示しています。

そこで研究者たちが提案しているのが、「co-supplementation」と呼ばれる、栄養を補助する給餌戦略です。これは、プラスチックを主食とさせつつ、他の栄養価の高い餌を補助的に与えることで、ワックスワームの健康を維持しながらプラスチック分解能力を最大限に引き出すことを目指すアプローチです。

この発見は、ワックスワームを大規模に飼育してプラスチックごみ対策に利用する場合、彼らの健康や福祉への配慮が不可欠であることを示唆しています。生物の力を借りる技術開発は、その生物への深い理解と敬意の上に成り立つべきだと言えるでしょう。

実用化への道:大きな期待と現実的な課題

ワックスワームの能力は、プラスチックごみ問題解決の切り札となる可能性を秘めています。ワックスワームを大規模に養殖(mass rear)すれば、プラスチックを分解するだけでなく、その過程で生まれる副産物も期待できます。

例えば、養殖されたワックスワーム自体は、魚の養殖業で利用できる栄養価の高い飼料「昆虫バイオマス」となり、新たな産業を生み出すかもしれません。これは、廃棄物を資源として再利用するサーキュラーエコノミーの理想的なモデルです。

しかし、その実用化には大きな壁が立ちはだかります。世界では、毎年「1億トン」を超えるポリエチレンが生産されており、この膨大な量をワックスワームだけで処理するのは現実的ではありません。想像を絶する数の幼虫と、その飼育施設が必要になります。

そのため、ワックスワームそのものではなく、彼らが持つ「プラスチック分解の仕組み」を解明し、工業的に応用する研究も進められています。ワックスワームの消化器官にいる特定の酵素や微生物を特定し、それを人工的に再現できれば、より効率的にプラスチックを処理する技術につながる可能性があります。

ワックスワームが拓く未来:期待と課題

ワックスワームの発見は、プラスチックごみという地球規模の課題に対し、自然界に解決策のヒントが隠されていることを示してくれました。しかし、それは「魔法の杖」ではなく、私たちが自然の仕組みを学び、技術と共存する新しい道を模索する「始まり」に過ぎません。

注目は「分解の仕組み」の解明

今後の研究の焦点は、ワックスワームの消化の秘密を解き明かすことです。幼虫そのものを大量に利用するには、飼育スペースや餌の管理、倫理的な課題など多くのハードルがあります。しかし、もし体内でプラスチックを分解している酵素や微生物を特定し、その仕組みを人工的に再現できれば、工場などの施設で効率的にプラスチックを分解する道が開けます。ワックスワームという「生物からのヒント」をもとに、より持続可能で大規模な解決策を生み出すことが期待されています。

私たちにできること

この驚くべきニュースは、未来の技術への希望を与えてくれます。しかし、この技術が実用化されるには、まだ多くの時間と研究が必要です。だからこそ、今私たちにできることは、日々の生活でプラスチックごみを減らす努力を続けることです。ワックスワームの研究が教えてくれるように、自然の中に隠された解決策に目を向け、科学の進歩を応援し続けることも大切です。小さな幼虫が示した大きな可能性は、未来への期待だけでなく、今日の私たちの行動を見つめ直すきっかけを与えてくれているのではないでしょうか。