ワカリタイムズ

🌍 海外ニュースを「わかりやすく」

オークリー、月面探査の新星アクシオム・スペースと提携!宇宙服バイザーに独自技術採用

サングラスやスポーツ用アイウェアで知られるオークリーが、宇宙開発の最前線に立つ企業と提携したというニュースが注目を集めています。

Axiom Space, Oakley partner on spacesuit visor for Artemis missions」というSpaceflight Nowの記事によると、オークリーの革新的な技術が、NASAの有人月探査計画「アルテミス計画」で使用される次世代宇宙服に採用されることが明らかになりました。アポロ時代から半世紀以上ぶりとなる新型宇宙服に、身近なブランドであるオークリーの技術がどう活かされ、宇宙飛行士の月面活動をどう変えるのか、詳しく見ていきましょう。

月の南極を目指す次世代宇宙服とオークリーの光学技術

今回の提携の中心となるのは、宇宙開発企業アクシオム・スペースが開発中の次世代宇宙服「AxEMU(アクシオム船外活動ユニット)」です。この宇宙服は、人類が半世紀以上ぶりに月面へ降り立つ「アルテミス3ミッション」(2027年半ばに打ち上げ予定)での使用を目指しています。

特に、宇宙服の「目」とも言えるバイザー部分には、オークリーが誇る独自のレンズ技術「High-Definition Optics (HDO)」が搭載されます。宇宙飛行士が宇宙船の外で行う船外活動(EVA)において、バイザーは視界を確保し、安全を守るための生命線です。

なぜ、これほど高性能な光学技術が必要なのでしょうか。その理由は、探査の目的地である「月の南極」の過酷な環境にあります。月の南極は、太陽の光が地平線スレスレの低い角度から差し込むため、非常に長い影ができ、明暗の差が極端になります。また、永久に光が当たらない「永久影」クレーターも存在します。

このような特殊な光環境で活動する宇宙飛行士の視界を最適化するため、オークリーはバイザーに特別な改良を加えました。バイザーの一部には24金(純金)のコーティングを施して有害な太陽光線を遮断。さらに、マウンテンバイクなどのアイウェア開発で培った知見を活かし、視界を妨げる微細な月の塵(レゴリス)への粉塵対策や、衝撃への耐久性も高めています。オークリーで先進製品開発を担当するライアン・セイラー氏は、この提携を「歴史的なマイルストーン」と表現しています。

日本人宇宙飛行士も参加、開発の舞台裏

AxEMUの開発には、最先端技術だけでなく、経験豊富な宇宙飛行士の知見が欠かせません。この重要なプロセスには、元JAXA宇宙航空研究開発機構)所属で、現在はアクシオム・スペースで活躍する若田光一氏も深く関わっています。

若田氏は、NASAのジョンソン宇宙センターにある「無重量環境訓練施設(NBL)」で行われた初期テストに参加しました。NBLは巨大なプールで無重力状態を模擬する施設で、ここで実際にAxEMUを着用し、船外活動を想定したテストが行われます。若田氏だけでなく、NASAの宇宙服エンジニア2名もこのNBLで宇宙服を装着し、初期テストに参加しました。彼らからの貴重なフィードバックが開発に活かされます。宇宙服という、文字通り命を預かる装備の開発に日本の宇宙飛行士が貢献していることは、特筆すべき点でしょう。

業界の垣根を越える「非伝統的パートナーシップ」

今回の提携は、宇宙開発における新しい潮流を象徴しています。かつて国のプロジェクトが中心だった宇宙開発は、今や民間企業が主導する時代へと移り変わっています。

NASAは2022年9月、アクシオム・スペースに2億2,850万ドル(約337億円)でAxEMUの開発を発注しました。そして、アクシオム・スペースは、光学技術の専門家であるオークリーをパートナーに選びました。アクシオム・スペースのEVA(船外活動)担当執行副社長であるラッセル・ラルストン氏は「オークリーは光学システムのエキスパートであり、技術的な課題を解決する絶好の機会だ」と述べており、異業種の専門知識が革新を生むことへの期待がうかがえます。

アクシオム・スペースの主任宇宙飛行士であるマイケル・ロペス=アレグリア氏は、このような「非伝統的なパートナーシップ」の重要性を強調しています。彼が指摘するように、ファッションブランドのプラダなども宇宙服のデザイン協力に関わるなど、この流れは加速しています。多様な専門知識を結集させることで、開発の効率化とイノベーションの創出が期待されているのです。

月面探査を支える異業種連携とその未来

オークリーとアクシオム・スペースの提携は、単なる新技術のニュースではありません。これは、私たちの生活に身近な技術が、人類の壮大な挑戦である宇宙探査を支えるという、未来の可能性を象徴する出来事です。

かつて国家主導だった宇宙開発は、民間企業が主役となり、異業種を巻き込む「開かれた舞台」へと変化しています。この流れは、自動車や医療、ITなど、あらゆる産業に宇宙という新たなフロンティアへの扉を開くでしょう。

2027年半ばに予定される「アルテミス3ミッション」で人類が再び月面に降り立つ時、その歴史的な光景はオークリーのレンズを通して世界に届けられるかもしれません。身近な技術が人類の未来を切り拓く。このニュースは、科学技術が私たちの日常と地続きであることを実感させてくれます。