最近、PCの性能を大きく左右するGPU(グラフィックボード)の世界で、中国メーカーの目覚ましい進歩が話題になっています。特に、新興企業「Moore Threads」が開発したゲーミングGPU「MTT S90」が、多くのゲーマーに人気のNVIDIA製「GeForce RTX 4060」を上回る性能を持つ可能性が報じられ、注目を集めています。
この情報は、海外テックメディアWccftechのニュース「Another High-End Chinese GPU Emerges Online — Moore Threads MTT S90 Reportedly Outperforms NVIDIA GeForce RTX 4060 With Solid Gaming Performance」を元にしています。PCでゲームをしたり、動画編集をしたりする方にとって、GPUはまさに心臓部。そのGPU市場で今、何が起きているのかを詳しく見ていきましょう。
Moore Threads製GPUの驚くべき性能
中国の半導体業界、特にGPU分野で注目を集める新興メーカーがMoore Threadsです。同社のGPUが、NVIDIAのミドルレンジGPU「GeForce RTX 4060」と比較して、非常に興味深いテスト結果を示しています。
ベンチマークテストでの直接対決
中国のニュースサイトMyDriversが報じたベンチマークテストが、大きな注目を集めています。このテストで実際に使用されたのは、法人向けのワークステーション用GPU「MTT S4000」です。しかし、このGPUはゲーミングモデルである「MTT S90」と同じチップアーキテクチャを採用しているため、その性能はMTT S90の実力を占う重要な指標となります。
結果を見ると、一部のテストでRTX 4060を上回るスコアを記録。特に「3DMark Speed Way」というテストでは、RTX 4060を約32%も上回る大きな差を見せつけました。
| テスト項目 | Moore Threads GPU (MTT S4000) | GeForce RTX 4060 |
|---|---|---|
| 3DMark Speed Way (Score) | 1467 | 1111 |
| 3DMark Port Royal (Score) | 5210 | 5863 |
| 3DMark Time Spy (Score) | 2567 | 2340 |
人気ゲームでも互角以上の性能
ベンチマークだけでなく、実際のゲーム性能も重要です。中国で人気のバトルロイヤルゲーム『Naraka: Bladepoint』を4K解像度の最高設定でプレイした際のフレームレート比較では、以下の結果が報告されています。
ゲームの滑らかさを示す指標がFPS(Frames Per Second)で、1秒間に表示される画像の枚数を意味します。この数値が高いほど、映像は滑らかになります。
| GPU名 | Naraka: Bladepoint (4K最高設定) |
|---|---|
| Moore Threads GPU (MTT S4000) | 43 FPS |
| GeForce RTX 4060 | 42 FPS |
この結果から、MTT S4000は非常に負荷の高い設定でもRTX 4060と互角、わずかながら上回るパフォーマンスを発揮していることがわかります。これは、MTT S90の性能にも大きな期待を抱かせるものです。
高性能の鍵は「ドライバー」の進化
この飛躍的な性能向上の背景には、ハードウェアのスペックだけでなく、ソフトウェアの存在が欠かせません。この性能向上の鍵は、ハードウェアとOSをつなぐ「ドライバー」というソフトウェアの継続的な改善にあります。
実はMoore Threadsの初期のGPUは、旧世代のエントリーモデル「GTX 1050 Ti」にすら性能が及ばない時期がありました。しかし、同社はドライバーの改善に注力し続け、前モデルの「MTT S80」からでも最大80%もの性能向上を達成したと報告されています。今回の高性能は、こうした地道なソフトウェア開発の努力が実を結んだ結果と言えるでしょう。
中国製GPU躍進の背景と市場への影響
中国のGPU産業が急速に発展している背景には、AI分野での需要急増や、米中間の貿易摩擦による国産技術開発の加速があります。この流れは、日本の私たちユーザーや関連産業にも大きな影響を与える可能性があります。
日本市場への影響:価格競争と選択肢の拡大
現在、GPU市場はNVIDIAとAMDの大手2社による寡占状態が続いており、高性能な製品は高価になりがちです。ここにMoore Threadsのようなメーカーが競争力のある価格で参入すれば、市場に価格競争が生まれ、私たち消費者はより手頃な価格で高性能GPUを手に入れられるようになるかもしれません。
例えば、MTT S90クラスの性能を持つGPUがRTX 4060より安価に登場すれば、学生や予算を重視するクリエイター、ゲーマーにとって大きな魅力となるでしょう。
AI・ゲーム・クリエイティブ分野への波及効果
高性能GPUの低価格化は、様々な分野の発展を後押しします。
- AI分野: 大学やスタートアップがAI開発に取り組みやすくなり、技術全体の進歩が加速する可能性があります。
- ゲーミング分野: より多くの人が高品質なグラフィックで最新ゲームを楽しめるようになり、市場全体の活性化につながります。
- クリエイティブ分野: 動画編集やCG制作において、作業効率が飛躍的に向上し、プロから趣味で楽しむ人まで、多くのクリエイターの活動を支えることが期待されます。
中国製GPUの未来:期待と賢い選択
Moore Threads製GPUの登場は、単なる新製品ニュースではなく、GPU市場が新たな時代に突入する可能性を示唆しています。この変化は、私たちPCユーザーにとって、より良い製品をより安く手に入れるチャンスの広がりを意味します。しかし、新しい製品を選ぶ際には、冷静に見極めるべきポイントがあります。
ドライバーの成熟度 特定のゲームやテストで高性能でも、他の多くのゲームやクリエイティブソフトで安定して動作するかは未知数です。幅広い環境で安定した性能を発揮できるドライバーの成熟度が、真の競争力を持つための鍵となります。
日本での価格と入手性 いくら高性能でも、日本国内で手頃な価格で簡単に入手できなければ選択肢にはなりません。MTT S90やその後継機が、日本の市場でどのような価格設定で登場するのか、そのコストパフォーマンスが普及の大きな要因となるでしょう。
信頼できる情報とサポート 現時点では、第三者による詳細なレビューや長期使用での評価は限られています。国内外の信頼できるレビューやユーザーからのフィードバック、そして保証やサポート体制がどうなるかは、安心して購入するための重要な判断材料です。
これからは「NVIDIAか、AMDか」という二者択一だけでなく、「Moore Threads」のような新しい名前も、次のGPU選びの候補として頭の片隅に置いておくと、PCの世界がもっと面白くなるかもしれません。
