ワカリタイムズ

🌍 海外ニュースを「わかりやすく」

スマホ地震警報の盲点?Googleシステムが示す日本の防災課題

2023年2月6日にトルコ南部で発生した壊滅的な地震に関し、BBCが報じた「Google failed to warn 10 million of Turkey earthquake」は、テクノロジーと防災のあり方に重要な問いを投げかけています。Googleが提供するスマートフォン地震早期警報システムが、1000万人もの人々へ適切な警報を届けられなかった可能性が指摘されているのです。

このシステムは「Android Earthquake Alerts (AEA)」と呼ばれ、Androidバイスの加速度センサーで地震の揺れを検知し、ユーザーに警告を送るものです。しかし、この画期的な仕組みが、なぜトルコで十分に機能しなかったのでしょうか。本記事では、その詳細と専門家の懸念を掘り下げ、私たちが得るべき教訓を探ります。

1000万人に届かなかった警報:システムを襲った「致命的な誤算」

2023年2月6日の未明、トルコ南東部をマグニチュード7.8の巨大地震が襲いました。この未曾有の災害で、5万5000人以上が犠牲となる中、GoogleのAEAが本来の性能を発揮できなかった可能性が、同社の研究者によって学術誌Scienceで報告されました。

最高レベルの警報がほぼ作動せず

AEAには、揺れの強さに応じて2種類の警報があります。深刻な揺れが予測され、命に危険が及ぶ場合に大音量で即時の避難を促す最高レベルの警報が「Take Action(行動喚起)」です。もう一つは、比較的軽微な揺れを知らせる「Be Aware(注意喚起)」です。

しかし、トルコ大地震の際、震源地から約158kmの範囲にいた1000万人のうち、「Take Action」警報を受け取ったのは、わずか469件でした。一方で、約50万人に送信された「Be Aware」警報は、スマートフォンのサイレントモードを解除しません。多くの人々が就寝中だった午前4時17分という時間帯において、この警報では危険を知らせるのに不十分だったのです。

原因は「地震規模の過小評価」

なぜ、これほど重要な警報が送られなかったのでしょうか。報告書によると、原因はAEAの検知アルゴリズム地震の規模を著しく過小評価したことでした。

最初のマグニチュード7.8の地震に対し、システムはモーメントマグニチュード尺度(MMS)で4.5〜4.9と推定。これは、実際のエネルギーとは比較にならないほど小さな値です。この致命的な誤算が、最高レベルの警報が機能しなかった直接の原因と考えられています。

専門家が指摘する「情報公開の遅れ」と「技術への過度な依存」

Googleはこの失敗から学び、システムの改善を進めているとコメントしていますが、専門家からは厳しい目が向けられています。

コロラド鉱山大学のエリザベス・レディ助教は、被害の甚大さを踏まえ、「もっと早くこの警報システムの性能について知るべきだった」と述べ、Googleが詳細を公表するまでに2年近くを要した情報公開の遅さに懸念を示しています。

また、パシフィック・ノースウェスト地震ネットワークのディレクター、ハロルド・トービン氏は、各国がGoogleのような民間企業の技術に過度に依存するリスクを指摘。「Googleがやっているから自分たちはやらなくてもいい」という考えが広まれば、国全体の防災能力が低下しかねないと警鐘を鳴らしています。

民間技術への依存リスクと日本の防災のあり方

今回の事例は、防災テクノロジーが持つ可能性と限界の両方を浮き彫りにしました。Googleアルゴリズムを改善し、現在では同様の地震で1000万件の「Take Action」警報を生成できるとシミュレーションしていることは、技術が進化し続ける証です。

しかし、専門家が指摘するように、民間企業のシステムはあくまで公的な警報網を「補完する」位置づけに留めるべきです。この教訓は、世界最高レベルの緊急地震速報(EEW)を持つ日本にとっても決して他人事ではありません。

人々の命に関わる社会インフラの一部を民間企業が担うのであれば、その性能や限界について、迅速かつ透明性の高い情報公開が不可欠です。また、日本の優れた公的システムに満足するだけでなく、AEAのような民間システムをどう活用し、そのリスクと利点を冷静に評価し続ける視点が求められます。

テクノロジーと備えで築く、より安全な未来

トルコ大地震における警報システムの課題は、単なる失敗談ではなく、テクノロジーをより確実なものへと進化させるための重要な教訓です。AI技術の発展は、今後も警報の精度を飛躍的に向上させ、一人でも多くの命を救う力になるでしょう。

しかし、忘れてはならないのは、テクノロジーは万能ではないということです。その限界を理解し、賢く活用すると同時に、私たち自身の防災知識と日頃の備えを怠らないこと。この両輪があって初めて、来るべき災害に力強く立ち向かえます。

この記事を機に、ご自身のスマートフォンの防災設定を確認し、家族と避難計画を話し合ってみてはいかがでしょうか。