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「宇宙人はどこに?」SETI新研究が迫る「静かな宇宙」の理由:フェルミのパラドックス新解釈

広大な宇宙に、人類以外の知的生命体は存在するのでしょうか。この根源的な問いに科学で挑むのがSETI(地球外知的生命体探査)です。1960年、天文学者が2つの恒星に電波望遠鏡を向けた「オズマ計画」を皮切りに、宇宙のどこかにいるかもしれない知的生命体からのメッセージを探す壮大な挑戦が始まりました。

技術の進歩と共に探査の規模は拡大し、2016年には「Breakthrough Listen」のような大規模プロジェクトが始動しました。アメリカのグリーンバンク天文台やオーストラリアのパークス天文台といった世界有数の施設を使い、地球外文明の技術的な痕跡である「テクノシグネチャ」を探しています。テクノシグネチャーとは、人工的な電波やレーザー光だけでなく、惑星大気の汚染や巨大な宇宙構造物など、知的生命体の活動によって生じるあらゆる兆候を指します。

SETIの中でも特に注目されてきたのが、「電波が強い銀河は高度文明の宝庫かもしれない」という仮説です。今回の研究は、この仮説を観測データに基づいて検証するものです。

電波が明るい銀河の謎:自然現象か、文明の証か

銀河が強力な電波を放つ原因の多くは、自然現象です。例えば、私たちの天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール「いて座A*」や、より活発な「活動銀河中心核(AGN)」は、周囲の物質を飲み込む際に莫大なエネルギーを放出し、強力な電波源となります。

こうした自然現象による電波は非常に強力なため、ある銀河が電波で明るく輝いていても、それが自然由来なのか、それとも多数の文明が発する人工的な電波の集合体なのかを区別するのは簡単ではありません。ほとんどの場合は自然現象だと考えられていますが、もし無数の文明からの電波が重なれば、銀河全体が自然の輝きを超えて明るく見える可能性も否定できないのです。

銀河を支配する文明はどれほど珍しいか?

では、銀河全体を支配するほど進んだ文明は存在するのでしょうか。この問いを考える上で役立つのが「カルダシェフ・スケール」です。1964年に提唱されたこの尺度は、文明が利用可能なエネルギー量に応じて、主に3段階に分類します。

  • タイプI:惑星の全エネルギーを利用する文明
  • タイプII:恒星の全エネルギーを利用する文明
  • タイプIII:銀河の全エネルギーを利用する文明

今回の研究が特に注目したのは、この「タイプIII文明」です。具体的には、「銀河全体の光量に匹敵するほどの強力な電波を放出する文明」を想定し、その存在確率を調査しました。

分析の結果、そのような銀河スケールの文明は極めて稀であることが示唆されました。研究によると、その存在頻度は大規模な銀河100万個につき1つ程度。私たちの天の川銀河のような規模では、10万個に1つ未満と推定されています。銀河の光度の約300分の1という莫大な電波を放出する、いわば「タイプ2.75」レベルの文明でさえ、大規模な銀河100個に1個程度という低い確率でした。

この結果は、長年の謎である「フェルミパラドックス」に新たな視点を与えます。このパラドックスは、「宇宙には無数の星があるのに、なぜ地球外文明の痕跡が一切見つからないのか?」という矛盾を指します。その背景には、高度な文明は自己増殖型(フォン・ノイマン型)探査機のような技術を用いて銀河中に急速に広がるはずだ、という理論があります。今回の研究は、そもそも銀河全体を覆うほどの巨大な文明の存在自体が極めて稀である可能性を示し、パラドックスの前提を覆す一つの答えを提示したのです。

「静かな宇宙」が示す、SETIの新たな道筋

「電波が明るい銀河には文明が満ちているかもしれない」という仮説は、今回の研究によって「銀河スケールの文明は極めて稀である」という、より現実的な見方へと修正されました。しかし、これは探査の終わりを意味するわけではありません。むしろ、今後の探査がどこに焦点を当てるべきかを示す、重要な道しるべとなります。

今後は、銀河全体のような広大な範囲だけでなく、個々の惑星系が持つ、より繊細なテクノシグネチャーの探査が重要になるでしょう。例えば、惑星の大気に含まれる不自然な化学物質や、恒星の周りにある人工物から漏れ出る赤外線など、探査方法は電波以外にも多様化しています。また、AIを活用して膨大な観測データから人間では見つけられない微かな兆候を探し出す試みも本格化しています。

宇宙からの返信は、まだありません。しかし、仮説を立て、観測によって検証するという地道な積み重ねこそが、人類を壮大な謎の答えへと導いてくれるはずです。夜空の静寂の向こう側を探る私たちの挑戦は、これからも続きます。