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SFが現実に?「オンデマンド太陽光」で夜間発電へ。2026年実現の期待と「光害」の影

夜でも昼間のように太陽光を浴びる——。そんなSFのような話が現実味を帯びています。米国のスタートアップ企業が、宇宙に浮かべた巨大な鏡で太陽光を反射し、夜間の地球に届ける「オンデマンド太陽光」技術を2026年までに実現しようと開発を進めているのです。この計画は、日没後も地上の太陽光発電所を稼働させ続けることを目的としています。

海外メディアは「2026年までに夜間でも太陽光を?その実現性は」と題した記事で、この革新的な技術の詳細や課題、そして専門家が懸念する問題点を多角的に報じています。本記事ではその内容を基に、この技術がもたらす可能性と課題を掘り下げていきます。

宇宙から太陽光を届ける「オンデマンド太陽光」とは?

この計画を推進するのは、米国のスタートアップ企業「リフレクト・オービタル」です。基本的な仕組みは、宇宙空間に「反射衛星」と呼ばれる巨大な鏡を配置し、太陽光を地球の夜側にある地域へ反射させるというもの。これにより、日没後は発電できなくなる太陽光発電所(ソーラーファーム)が、24時間稼働し続けることが可能になると期待されています。

計画の第一歩として、2026年には「エアレンディル-1」と名付けられた試験衛星の打ち上げが予定されています。将来的には数千基、最終的には25万基もの衛星群を宇宙に展開する壮大な構想も語られており、私たちのエネルギー事情を根本から変える可能性を秘めた技術として注目されています。

実現は可能か?立ちはだかる技術的な「壁」

宇宙から太陽光を届けるという壮大な計画ですが、その実現には大きな技術的ハードルが存在します。

距離がもたらす光の拡散

最大の課題は、宇宙から地上までの長大な距離です。太陽は点ではなく、約0.5度の大きさを持つ光源であるため、鏡で反射した光は距離が離れるほど拡散し、弱まってしまいます。リフレクト・オービタル社は、高度約625kmから800kmの軌道に衛星を配置する計画です。しかし、例えば直径54メートルの反射鏡を使っても、地上に届く光の明るさは、満月よりはるかに明るいものの、真昼の太陽光の約15,000分の1にまで減衰してしまうと予測されています。

熱気球実験の成功と、宇宙規模での課題

一方で、地上での実証実験では希望の光も見えています。同社の創設者が主導した実験では、熱気球に搭載した反射鏡を使い、地上への太陽光照射に成功しました。地上約242mの距離から、毎平方メートルあたり516ワットという、目標値(200ワット)を大幅に超える強い光を記録。これは真昼の太陽光の約半分に相当し、発電には十分なレベルです。

しかし、この結果を宇宙規模で再現しようとすると、計算上、42平方キロメートルという途方もない大きさ(東京ドーム約900個分)の反射鏡が必要になります。現実的にこれほど巨大な鏡を製造し、打ち上げるのは不可能です。

必要な衛星の数と運用の難しさ

そのため、同社はより現実的な直径54メートルの衛星を多数連携させる方法を検討しています。目標とする「真昼の太陽光の20%」の明るさを実現するには、約3,000基もの衛星が必要になると試算されています。さらに、衛星は秒速約7.5kmという猛スピードで移動するため、一つの地点を照らせるのはわずか3.5分ほど。継続的に光を供給するには、膨大な数の衛星を極めて精密に連携制御する必要があるのです。

天文学者の懸念:「光害」という新たな脅威

この計画がもたらす最大の問題として、天文学者たちが警鐘を鳴らしているのが「光害」です。

通常の衛星が意図せず光を反射するのとは異なり、この計画は人工的に、かつ意図的に地上を照らすことを目的としています。そのため、光害はいわば「計画された副作用」と言えます。

宇宙から照射される光は、地上から見れば満月よりも明るく輝く可能性があり、これは夜空の観測を行う天文学者にとって致命的です。星が見えにくくなるだけでなく、望遠鏡の精密なセンサーを損傷させたり、観測者の目に恒久的なダメージを与えたりする危険性も指摘されています。

影響は人間だけにとどまりません。夜行性動物をはじめ、多くの生物は光と闇のサイクルに依存した「日周リズム」(体内時計)を持っています。夜間に突如として強い光が差すことで、繁殖や摂食といった生態活動が混乱し、生態系全体に深刻な影響を及ぼす恐れがあります。さらに、衛星が移動する際に反射光が地上をなぞるように動くことで、広範囲に予期せぬ影響が広がる可能性もあります。

過去にも人工衛星による光害は議論されてきましたが、将来的に25万基もの反射衛星が空を覆う可能性があるこの計画は、規模と影響力において、これまでとは比較にならないほどの脅威となるかもしれません。

記者の視点:「便利さ」と引き換えに失うもの

「オンデマンド太陽光」は、エネルギー問題への画期的な解決策に見えます。しかし、その「便利さ」と引き換えに、私たちは何を失うのでしょうか。

それは、お金では買えない「暗い夜空」という価値です。満天の星は、古くから人類の文化や科学にインスピレーションを与えてきました。夜の闇は、多くの生物にとって不可欠な自然環境でもあります。この計画は、そうした数値化できない価値を、一企業の利益のために損なう可能性を秘めています。

宇宙は誰のものでしょうか。特定の企業が、全人類の共有財産である夜空の姿を恒久的に変える権利を持つのか。技術的に「可能」なことと、社会的に「許容」されることはイコールではありません。この計画は、技術の進歩にどう向き合うべきか、私たちに倫理的な問いを投げかけています。

オンデマンド太陽光が照らす未来:期待と課題

「オンデマンド太陽光」計画は、クリーンエネルギーを24時間生み出すという「光」の側面と、技術的な壁や夜空を脅かす「影」の側面を併せ持っています。SFが現実になろうとしている今、私たちはその両面を冷静に見つめる必要があります。

今後の焦点は、2026年に予定されている試験衛星「エアレンディル-1」の打ち上げです。この実験結果が、計画の実現性を占う試金石となるでしょう。しかし、たとえ技術的な課題をクリアできたとしても、その先には「光害」をどう規制するかという、国境を越えたルール作りという、さらに大きなハードルが待ち受けています。

このニュースは、単なる宇宙開発の話ではありません。新しい技術がもたらす便利さの裏にある代償は何か。私たちは未来の世代に、24時間明るい社会と、星々が輝く本来の夜空のどちらを残したいのか。この壮大な計画は、エネルギー問題を超え、私たちがどのような未来を選択するのかを問いかけているのです。