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PS6、スペック競争終焉へ?ソニーとAMDが描く「AIグラフィック」の新時代

PlayStation 5の登場から約5年が経過し、次世代機への期待が高まっています。そうしたなか、ソニーAMDが共同で新たなチップ開発プロジェクト「Project Amethyst」を進めていることが、「AMDとソニー、PS6向けチップセットで現行グラフィックスパイプラインの再設計を目指す」という報道で明らかになりました。

この計画が目指すのは、単なる性能向上ではありません。従来の、計算能力をひたすら高めるという物量的なアプローチが限界を迎えつつあるなか、機械学習(ML)のような「賢さ」を導入。3Dデータを2D映像に変換する一連の処理工程であるグラフィックスパイプラインを根本から見直し、ゲームグラフィックスの未来を大きく変えようとしています。

機械学習」が変えるグラフィックスの常識

今後のゲーム映像のリアルさは、「機械学習」の活用度によって大きく左右されるでしょう。「Project Amethyst」は、この技術をグラフィックス処理の根幹に据えています。

従来、3Dモデルを画面に表示するには「ラスタライズ」という描画手法が使われてきましたが、4Kのような高解像度では計算量が爆発的に増え、非効率になるという課題がありました。

そこで注目されているのが、機械学習を用いたアップスケーリング技術です。AMDの「FSR」やソニーの「PSSR」のように、AIが低解像度の映像を基に高精細な映像を生成することで、ゲームの滑らかさと画質を両立させます。

「Project Amethyst」はさらに一歩進み、「ニューラルアレイ」という新機構を導入します。これは、GPU内の多数の計算ユニットが個別に動くことで生じる非効率を解消し、全体が連携して一つのAIエンジンのように動作する仕組みです。これにより、映像のより多くの部分を機械学習によって強化できるようになり、これまで以上にリアルで滑らかなゲーム体験が期待できます。

レイトレーシングとメモリの壁を打ち破る新技術

リアルな映像表現に欠かせない「レイトレーシング」ですが、その膨大な計算負荷と、GPUの性能を制限する「メモリ帯域幅」が長年の課題でした。「Project Amethyst」は、これらの課題に対して画期的な解決策を提示しています。

レイトレーシングの負荷を軽減する「Radiance Cores」

レイトレーシングは、光の反射や屈折をシミュレーションすることで、現実のような映像を生み出します。しかし、その中心処理である「レイ トラバーサル(光線が物体と交差するかの判定)」は非常に計算負荷が高く、ゲームのスムーズな動作を妨げる一因でした。

そこで導入されるのが、レイ トラバーサル処理を専門に担う専用ハードウェア「Radiance Cores」です。ソニーが2022年に取得した特許技術が基盤と見られており、この専用ハードウェアが最も負荷の高い作業を受け持つことで、CPUやGPUは他の描画処理に集中できます。これにより、レイトレーシングの効率が飛躍的に向上し、より複雑で美しい光の表現がリアルタイムで可能になります。

メモリ帯域幅の制限を「Universal Compression」で突破

GPUの性能がいくら高くても、データをやり取りする経路(メモリ帯域幅)が狭ければ、性能を十分に発揮できません。特に高解像度テクスチャなど、データ量が増えるほどこの問題は深刻になります。

このボトルネックを解消するのが、新しい汎用圧縮技術「Universal Compression」です。従来の圧縮技術が主にテクスチャデータを対象としていたのに対し、この技術はGPUに送られるあらゆるデータを分析し、効率的に圧縮します。

これにより、メモリとのデータ転送量が大幅に削減され、スペック上の数値を実質的に超えるデータ転送効率が期待できます。結果として、ロード時間の短縮や、より高精細なグラフィックスの表示につながるなど、プレイヤーが直接体感できるメリットが生まれます。

スペック競争から「賢さ」の探求へ:ゲーム体験の新たな次元へ

これまでゲーム機の進化は、処理速度やメモリ容量といった「スペック」の向上が中心でした。しかし「Project Amethyst」が示す方向性は、その常識を覆し、限られたリソースをいかに「賢く」使うかという、ソフトウェアとハードウェアが一体となった設計思想への転換を意味します。

このアプローチは、単に映像美を追求するだけではありません。AIキャラクターの知能向上や、プレイヤーの行動に応じて世界が自動生成されるなど、ゲーム体験そのものを豊かにする可能性を秘めています。

次世代PlayStationの登場はまだ数年先かもしれませんが、その中心にある設計思想は明確です。未来のエンターテインメントの価値は、スペックの数字だけでなく、賢い技術がもたらす、まだ見ぬ驚きに満ちた体験によって測られることになるでしょう。