謎の移動！半世紀前の「宇宙ごみ」Skynet-1A、日本が直面する衝突リスクと宇宙安全保障

1969年に打ち上げられ、半世紀以上も前に役目を終えたはずのイギリス初の軍事衛星「Skynet-1A」。この衛星が、何者かの手によって本来の軌道から大きく移動させられていたことが判明し、専門家たちの間で波紋を広げています。

長年、宇宙を漂う「ごみ」の一つと考えられていたこの衛星を、一体誰が、いつ、何のために動かしたのか。

この謎多き事件は、単なる過去のミステリーではありません。IFLScienceが報じた「56年前に打ち上げられた軍事衛星、何者かによって移動させられる」というニュースを基に、この不可解な現象が現代の私たちに突きつける課題とリスクを解説します。

謎の移動を遂げた衛星「Skynet-1A」

1969年に打ち上げられた「Skynet-1A」は、イギリス初の軍事通信衛星でした。しかし、打ち上げからわずか1年半で故障して機能を停止。以来、地球の周りを漂う「宇宙ごみ（スペースデブリ）」の一つとなっていました。スペースデブリとは、役目を終えた人工衛星やロケットの破片などを指し、弾丸以上の速度で周回しているため、稼働中の衛星にとっては深刻な脅威です。

通常、機能停止した衛星の軌道は、太陽や月の重力（重力摂動）によって予測可能な範囲で変化します。専門家の計算では、Skynet-1Aは東経75度付近の安定点を中心に、東経40度から110度の範囲をゆっくりと移動するはずでした。

ところが、実際の観測データは驚くべき事実を示しています。衛星は全く異なる西経105度付近に存在していたのです。これは自然現象では説明がつかず、何者かが意図的に衛星を動かしたことを強く示唆しています。しかし、その操作がいつ、誰によって、なぜ行われたのか、半世紀以上が経過した今も記録は乏しく、真相は謎に包まれています。

放置された衛星がもたらす二つの大きなリスク

この不可解な移動は、単なる過去のミステリーでは済みません。現代の宇宙利用において、二つの大きなリスクを浮き彫りにしています。

一つ目は衝突のリスクです。Skynet-1Aが周回する地上約36,000kmの「静止軌道」は、通信・放送衛星が密集する、いわば「宇宙のメインストリート」です。ここに管理されていない物体が存在することは、稼働中の高価な衛星との衝突事故を引き起こす危険性を高めます。もし衝突が起きれば、さらに大量のスペースデブリが発生し、被害が連鎖的に拡大する悪夢のシナリオにつながる恐れもあります。

二つ目は責任の所在が不明という問題です。万が一、この衛星が他の衛星と衝突して損害を与えた場合、どの国が損害賠償の責任を負うのでしょうか。衛星を最後に操作した主体が不明であるため、国際法上の責任の所在が極めて曖昧になってしまうのです。

日本にも無関係ではない、宇宙の安全保障

この一件は、決して他人事ではありません。日本も気象衛星「ひまわり」やGPS関連衛星など、生活に不可欠な多くの衛星を運用しており、宇宙空間の安全は極めて重要な課題です。もし同様の事態が日本の衛星周辺で発生すれば、天気予報やカーナビといった社会インフラが混乱する事態も想定されます。

このような脅威に対し、日本は宇宙航空研究開発機構（JAXA）を中心に、スペースデブリを監視・追跡し、将来的には除去する技術の研究開発に力を入れています。これは、自国の衛星を守り、未来の宇宙活動の安全を確保するための不可欠な取り組みです。

記者の視点：半世紀前の「置き土産」が示す、未来への教訓

今回の「Skynet-1A」の一件は、SFのようなミステリーであると同時に、宇宙開発の歴史が残した「置き土産」が現代に突きつけた課題と言えるでしょう。開発黎明期には、打ち上げた衛星の「その後」まで管理する意識が希薄だったのかもしれません。その結果が、半世紀以上を経て、衝突リスクや責任問題という形で私たちに問いを投げかけています。

現在、宇宙空間は民間企業の参入も相次ぎ、かつてないほどの「交通渋滞」が起きています。このような状況で、「誰が動かしたか分からない」衛星が存在するリスクは計り知れません。これは、交通量の多い高速道路に、運転手不明の車が放置されているようなものです。

この事件が浮き彫りにしたのは、宇宙空間における交通ルール、すなわち「宇宙交通管理（Space Traffic Management）」の確立が待ったなしであるという現実です。半世紀前の謎は、未来の宇宙活動を守るための重要な教訓を与えてくれています。