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日本の通信網に警鐘?半世紀ぶり復活「ゾンビ衛星」の謎と宇宙デブリ問題

半世紀近く前に失われた『ゾンビ衛星』、地球への信号送信を再開」— こんな見出しのニュースが、世界中の宇宙ファンの注目を集めました。

半世紀近く前に機能を停止し、宇宙で「失われた」はずの実験衛星が、突如として地球に信号を送り始めたのです。まるでゾンビのように蘇ったこの衛星は「ゾンビ衛星」と呼ばれ、その正体である「LES-1」の数奇な運命に多くの関心が寄せられています。

半世紀の沈黙を破った衛星の正体

この衛星「LES-1」は、1965年にアメリカ空軍とマサチューセッツ工科大学(MIT)のリンカーン研究所が打ち上げた実験衛星です。当時最先端だった「Xバンド」という周波数帯を世界で初めて利用し、軍事用の衛星通信システムを実証する目的で開発されました。このプロジェクトは、軌道上に無数の銅針を放出して通信を試みた「ウェストフォード計画」に続くものでした。

しかし、打ち上げ後に配線の問題が発生。目的の最終軌道への投入に失敗し、初期の円軌道に留まったまま、1967年に通信が途絶えてしまいました。LES-1は宇宙を漂う「宇宙デブリ(ゴミ)」になったと考えられていましたが、事態は一変します。

それから約46年後の2013年、イギリスのアマチュア無線家が、この”死んだはず”の衛星からの微弱な信号を偶然捉えたのです。

4秒周期で響く「幽霊の音」の謎

約半世紀ぶりに復活を遂げたLES-1ですが、その信号は独特の「幽霊のような音」をしていたといいます。この不思議な音の正体は何なのでしょうか。

信号を検出したアマチュア無線家によると、信号は約4秒周期で規則正しく強弱を繰り返していました。専門家は、衛星が回転する際に本体の一部がソーラーパネルを一時的に遮ることで電圧が変動し、それが信号の強弱となって現れていると分析しています。この独特のゆらぎが「幽霊のような音」を生み出しているのです。

まるで、宇宙で迷子になった衛星がかすかに存在を知らせているかのようです。この4秒周期の音は、LES-1が今も宇宙空間で物理的に活動している何よりの証拠と言えるでしょう。

なぜ復活したのか?半世紀を経て蘇った原因

では、なぜ宇宙のゴミと化していたはずのLES-1は、再び信号を送り始めたのでしょうか。

MITリンカーン研究所の研究チームは、最も有力な説として「電気的なショート」を挙げています。長年宇宙空間を漂ううちにバッテリーや回路が劣化して内部でショートが発生し、本来は電力が供給されないはずの送信機へ、ソーラーパネルから直接電力が流れる経路が偶然できてしまったのではないかと推測されています。

もちろんこれは仮説であり、正確な原因は特定されていません。しかし、故障した人工衛星が何らかのきっかけで活動を再開するという現象は、宇宙開発の歴史において非常に興味深い事例です。

この復活劇には専門家も驚いており、宇宙で最も古い部類に入る衛星がこれほど長い年月を経てなお信号を送り続けている事実は、まさに驚異的だとされています。

「ゾンビ衛星」が現代に突きつける課題と可能性

LES-1の復活は、単なる珍しい出来事としてだけでなく、現代の私たちに宇宙利用に関する重要な問いを投げかけています。

その一つが、地球の軌道上に増え続ける「宇宙デブリ」の問題です。現在、地球の周りには運用を終えた衛星やロケットの残骸が数えきれないほど漂っており、稼働中の衛星に衝突する危険性が指摘されています。今回の事例は、そうしたデブリが予期せぬ形で再び電波を発信する可能性を示しており、宇宙空間の安全管理に新たな課題を提示しました。

一方で、この話は日本の私たちにとっても無関係ではありません。LES-1が切り拓いた衛星通信技術は、現代社会に不可欠なインフラとなっています。特に災害の多い日本では、地上の通信網が使えなくなった際の非常用通信手段として、衛星通信は重要な役割を担っています。現在運用されている通信衛星「きらめき」や「スーパーバード」なども、LES-1のような初期の挑戦の歴史の上に成り立っているのです。

宇宙の「遺産」と共存する未来へ

「ゾンビ衛星」LES-1の物語は、科学の世界では失敗や偶然が、時に予想もしなかった発見に繋がるという面白さを教えてくれます。設計ミスで「失敗」とされた衛星が、半世紀後、一人のアマチュア無線家によって「再発見」される。この偶然の連鎖こそ、科学探求の醍醐味と言えるでしょう。

この出来事は、宇宙開発が常に新しいものを打ち上げるだけではないことも示唆しています。LES-1は、過去の技術の堅牢さを証明する「遺産」であると同時に、増え続ける宇宙デブリという「負の遺産」を象徴する存在でもあります。

人類が宇宙に送り出してきた数々の遺産と、私たちはこれからどう向き合い、共存していくべきか。LES-1からの幽霊のような信号は、私たちにそんな未来への宿題を投げかけているのかもしれません。