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マグマの動きを可視化!エトナ山「b値」が変える日本の噴火予測

日本も多くの火山を抱える国ですが、世界に目を向けても、常に噴火の危険と隣り合わせの地域は少なくありません。そんな中、ヨーロッパ最大の活火山であるイタリア・シチリア島のエトナ山で、噴火をより正確に予測する画期的な方法が発見されました。

エトナ山の次の噴火を予測する新たな方法を発見」と題されたこの研究は、地震学の指標「b値」を用いることで、地下のマグマの動きを捉え、噴火の兆候を早期に察知できる可能性を示しています。この記事では、この新しい予測方法の仕組みと、火山防災への影響について分かりやすく解説します。

地震のパターンからマグマの動きを読む新手法

ヨーロッパで最も活発な火山の一つであるエトナ山は、2700年以上にわたる噴火の記録を持ち、2025年6月には高さ約6.5kmに達する噴煙を上げるなど、その活動は今も続いています。噴火の正確な予測は、周辺住民の安全を守る上で極めて重要です。

今回、イタリア国立地球物理学火山学研究所の研究チームは、長年の地震データから噴火の兆候を読み解く新たな手法を開発し、学術誌『Science Advances』で発表しました。その鍵となるのが「b値」という指標です。

b値とは、特定の地域で発生する地震の規模と頻度の関係を示す値です。簡単に言えば、「小さな地震が頻繁に起こるか、それとも比較的大きな地震が多いか」という傾向を表します。この値は、地下の岩盤にかかる力(応力)の状態を反映しており、火山活動の予測に応用できることが分かってきました。

火山の地下には、マグマが溜まる「マグマ貯留帯」が複数存在します。マグマが地下深くから上昇してくると、周囲の岩盤に圧力をかけ、無数の小さなひび割れを発生させます。これにより地盤がもろくなると、わずかな力で小規模な地震が多発するため、b値は上昇します。逆に、マグマの動きが少なく安定した場所では、岩盤に応力が蓄積されやすく、時として大きな地震が起こるため、b値は低くなる傾向があります。

研究チームは、2005年から2024年までの20年間の地震データを分析し、b値の変化を追跡することで、マグマが地下の貯留帯をどのように移動しているかを「可視化」できることを発見しました。この手法により、噴火が近づいている兆候をこれまで以上に正確に捉えられる可能性があります。

日本の火山噴火予測への応用と期待

エトナ山で確立されたこの手法は、日本のように火山が多い国にとっても大きな意味を持ちます。日本列島には富士山や桜島など多くの活火山が存在し、その活動を監視し続けることは防災の要です。

エトナ山のように、地下に複数のマグマ貯留帯を持つ火山は日本にも存在します。専門家によれば、長期間にわたる詳細な地震データが蓄積されていれば、原理的にはb値を用いた分析は他の火山にも応用可能だとされています。

もちろん、この手法を日本の火山に適用するには課題もあります。火山ごとに地下構造やマグマの性質が異なるため、それぞれの特性に合わせた分析モデルの調整が必要です。また、全ての火山でエトナ山と同レベルの長期間データが揃っているわけではありません。

しかし、この研究は火山噴火予測に新しい道筋を示しました。今後、観測技術の向上とデータ蓄積が進めば、日本の火山防災の精度を大きく向上させる切り札になるかもしれません。

記者の視点:技術の進歩と防災への心構え

今回の発見は、まるで地球深部の「鼓動」を聞く新たな聴診器を手に入れたようなものです。これまで見えなかったマグマの動きをb値で捉える技術は、予測が困難な火山噴火という自然現象に立ち向かう上で、大きな一歩となるでしょう。

将来的には、AIによるリアルタイム解析と組み合わせることで、さらに高精度な予測システムへと進化する可能性も秘めています。しかし、私たちはこの技術を「万能の予測ツール」と過信してはなりません。自然の力は、時に人間の想定をはるかに超えるからです。

科学の進歩は、私たちから防災の責任をなくすのではなく、より賢く、効果的に備えるための「新しい羅針盤」を与えてくれるものです。技術が危険を知らせる精度を高める一方で、私たち一人ひとりがその情報を受け取り、どう行動するかが問われます。

火山の「声」を聞く技術が拓く未来

エトナ山で始まったb値を用いた噴火予測は、火山学における重要なブレークスルーです。この技術は、マグマの動きという直接見えない現象を、地震データを通じて間接的に捉えることを可能にしました。

このアプローチが世界中の火山で応用され、データが共有されるようになれば、火山噴火による被害を大幅に軽減できる未来が訪れるかもしれません。最新の科学技術に期待を寄せると同時に、ハザードマップの確認や避難計画の共有といった日頃からの備えを怠らないこと。この二つが両輪となって初めて、私たちは火山の脅威と真の意味で共存できるのです。

火山国に住む私たちにとって、このニュースは決して他人事ではありません。地球のダイナミックな活動に改めて目を向け、自然への畏敬の念を忘れず、日々の暮らしに防災という視点を取り入れていくことが重要です。