「月で氷が見つかれば、未来の宇宙ステーションの燃料や飲み水になる」——SF映画のような話が、もうすぐ現実になるかもしれません。宇宙開発は、私たちの未来への夢をかき立てるテーマです。
そんな中、月の資源、特に「月の水」の採掘競争で、中国がアメリカをリードする可能性が高まっています。中国国家航天局は、次世代の月探査機「嫦娥7号」を8月に打ち上げると発表しました。これは、アメリカの同様のミッションよりもかなり早いタイミングです。
一方、アメリカは計画に遅れが生じている模様です。この宇宙開発の最前線で起きている新たな動きについて、月からの水抽出で中国がアメリカをリードする可能性を報じた記事を基に、その詳細と今後の展望を見ていきましょう。
先行する中国の挑戦:月面水探査を担う「嫦娥7号」
中国の月探査計画「嫦娥計画」は、着実に成果を上げてきました。2020年の「嫦娥5号」は月のサンプルリターンに成功し、2024年の「嫦娥6号」は人類史上初めて月の裏側からサンプルを持ち帰るという快挙を成し遂げています。
その次なる一手である「嫦娥7号」は、月の極域に存在する可能性のある水氷を調査し、その存在を直接確認することを主な目的としています。ミッションは単一の探査機ではなく、月を周回する周回機、月面に着陸する着陸船、月面を移動する探査車、そしてユニークな小型飛行探査機などが連携して行われます。これら全体で合計18個もの科学観測機器が搭載されており、月を多角的に調査します。
着陸予定地は、月の南極付近にあるシャックルトンクレーターの縁です。このクレーターの底には太陽光が全く当たらない「永久影」と呼ばれる場所があり、水が氷の状態で豊富に存在すると期待されています。この場所は、将来の月面基地の候補地としても注目される戦略的な拠点です。
特に注目されるのが、小型飛行探査機に搭載される「月土壌水分子分析装置」です。この装置は、月面の砂、いわゆる月レゴリスに含まれる水分子の存在を科学的に確かめる重要な役割を担います。もし水分子が検出されれば、月の水資源の存在を確実にする歴史的な発見となるでしょう。
追うアメリカ:計画の遅延と今後の展望
一方、アメリカも月の水資源探査を進めていますが、計画に遅れが生じている状況です。NASA(アメリカ航空宇宙局)が支援する民間企業の月着陸ミッションでトラブルが発生したことが影響しています。
民間宇宙企業インテュイティブ・マシーンズ社の月着陸機が着陸直後に横転したことで、搭載されていた掘削機「PRIME-1ドリル」が使用不能となりました。このドリルは月面から水氷を掘り出すための重要な装置だったため、アメリカの水抽出計画は大きな打撃を受けました。
NASAは、2026年に商業月面輸送サービス(CLPS)の一環として、ファイアフライ社の「ブルーゴースト・ミッション2」や、インテュイティブ・マシーンズ社の「IM-3ミッション」などを計画しています。しかし、これらのミッションで月の水氷の存在を直接確認できるかについては、まだ不透明な部分も多く、現時点では中国に先行を許す形となっています。
記者の視点:競争の先に見える「協調」の可能性と日本の役割
月の水をめぐる米中の競争は、技術開発を加速させる一方、宇宙資源を「早い者勝ち」で獲得しようとする動きにつながらないか、という懸念も生んでいます。しかし、広大な宇宙は、一つの国だけで開拓できるものではありません。
月の資源は、特定の一国のものではなく、人類全体の未来に関わる共通の財産と捉える視点が大切です。いずれはこの資源をどう管理し、平和的に利用していくか、国際的なルール作りが不可欠になるでしょう。
日本はアメリカ主導の「アルテミス計画」に参加し、重要な役割を担っています。この競争と協調が入り混じる新しい宇宙時代において、日本が持つ精密な着陸技術やロボット技術などは、大きな強みとなります。米中の動向を注視しつつ、日本ならではの技術力で貢献し、国際的なルール作りの議論をリードしていく、そんな主体的な役割が期待されています。
月の水が拓く、人類の新たなフロンティア
今回の月の水をめぐる探査競争は、単に一番乗りを競うだけのものではありません。これは、人類が地球という揺りかごを飛び出し、宇宙で持続的に活動していくための、まさに「第一歩」なのです。
もし「嫦娥7号」が水の存在を確定させ、将来的にその利用が可能になれば、月は宇宙の「オアシス」となります。そこを拠点として、さらに遠い火星への有人探査など、これまで夢物語だったことが一気に現実味を帯びてきます。
この宇宙開発の最前線から届くニュースは、私たちに未来への大きな希望と、科学技術の進歩が持つ無限の可能性を教えてくれます。歴史が変わるかもしれないこの瞬間を、ワクワクしながら見守っていきたいですね。
