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ChatGPTの記憶が悪用される?新たなAIブラウザ脆弱性と情報漏洩リスク

AIチャットボットに搭載されている「記憶」機能。過去の会話内容を覚えておくことで、ユーザー一人ひとりに合わせた応答を可能にする便利な機能ですが、この「記憶」が悪用されると深刻な事態につながる危険性が明らかになりました。

サイバーセキュリティ企業LayerX Securityが、ChatGPTのブラウザ版「ChatGPT Atlas」に新たな脆弱性を発見しました。この脆弱性を悪用すると、攻撃者は悪意ある指示をAIの記憶に植え付け、ユーザーが気づかないうちに不正な操作を実行させることができてしまいます。専門家は、この問題が従来のブラウザにはない新たな脅威だと指摘しています。

AIが日常に溶け込む今、こうしたセキュリティリスクを理解しておくことは非常に重要です。今回は「AIの記憶に潜む危険:ChatGPT Atlasブラウザの新たな脆弱性」のニュースをもとに、その仕組みと対策について解説します。

AIの記憶が「武器」に変わる危険性

OpenAIのChatGPTには、2024年2月から「メモリ」機能が導入されています。これはAIが過去の会話から重要な情報を記憶し、ユーザーに合わせた応答を可能にするためのものです。

しかし、この便利な機能が攻撃の標的となることが、セキュリティ研究者によって発見されました。攻撃者は「クロスサイトリクエストフォージェリCSRF」と呼ばれるサイバー攻撃の手法を悪用します。これは、ユーザーを悪意のあるリンクに誘導し、気づかせないまま、ログイン中のサービスに不正な命令を送信させる手口です。

ユーザーがこの罠にかかると、AIの記憶領域に悪意のある指示が「Tainted Memories」(汚染された記憶)として植え付けられてしまいます。一度記憶が汚染されると、その指示はセッションやデバイスをまたいで永続的に残ります。つまり、ユーザーが後日、全く別の目的でChatGPTを使おうとしても、裏では攻撃者の命令が実行され続けるのです。これにより、機密情報の流出や、意図しないコードの実行といった深刻な被害につながる可能性があります。

専門家は、この問題の背景には、AIブラウザが従来のブラウザとは異なる「AI脅威対象領域」を生み出している点があると指摘します。AIブラウザは、Webサイトを閲覧する機能(アプリケーション)、ユーザー情報(アイデンティティ)、そしてAIの判断能力(知能)を一つに統合しています。このため、AIの記憶のような新しい領域が攻撃の標的となり、一度侵入されると影響が広範囲に及びやすくなるのです。

なぜAIブラウザは危険なのか?

今回の脆弱性だけでなく、ChatGPT AtlasのようなAIブラウザは、従来のウェブブラウザに比べてセキュリティ機能が未熟である点も指摘されています。

LayerX Securityが行ったテストでは、危険なウェブサイトをブロックするフィッシング対策の性能において、他の主要ブラウザと大きな差が見られました。

フィッシング攻撃の阻止率

このデータは、ChatGPT AtlasがEdgeやChromeといった一般的なブラウザと比較して、フィッシング攻撃の被害に遭う可能性が非常に高いことを示しています。

従来のブラウザが長年の開発で多くの防御機能を備えているのに対し、新しいAIブラウザは、先に述べたような独自の脅威領域を抱えながらも、基本的なセキュリティ対策が追いついていないのが現状です。

AIブラウザの進化がもたらす新たなリスク

今回の問題は、AIを搭載した新しいブラウザの始まりに過ぎません。今後は、ユーザーに代わって自律的にウェブサイトを操作し、タスクをこなす「Agentic browser」と呼ばれる、より高度なAIブラウザの登場が見込まれています。

例えば、「来週の大阪出張に合わせて、新幹線とホテルを予約して」と指示するだけで、AIが最適なプランを探し、予約まで完了してくれるような世界です。

このように、Agentic browserは私たちの生産性を飛躍的に向上させる可能性を秘めていますが、その「自律性」が新たなセキュリティリスクを生みます。AIエージェントが企業の機密情報にアクセスできる場合、それが意図せずデータを外部に流出させる「内部犯」のような役割を果たす危険性も指摘されています。

専門家は、AIブラウザが単なる閲覧ツールから、私たちの情報やアイデンティティ、知能までを統合する「重要なインフラ」へと進化していると提言しています。そのため、そのセキュリティはネットワーク機器などと同様に、あるいはそれ以上に重視する必要があるのです。

AIとの新しい付き合い方

AIブラウザの登場は、インターネットとの関わり方における大きな転換点です。かつて検索エンジンが情報の探し方を変えたように、AIブラウザは情報の「使い方」そのものを変革する可能性を秘めています。

しかし今回の脆弱性は、この新しい「相棒」がまだ発展途上であり、私たちがその特性を十分に理解せずに付き合っている危険性を示唆しています。AIが提示する答えや自動化されたタスクを無条件に信じるのではなく、その便利な「記憶」や「判断」が悪意に汚染される可能性を常に心に留めておく必要があります。

重要なのは、AIを「万能の魔法」ではなく、「強力だが、欠点やリスクも併せ持つツール」として正しく認識することです。ツールの特性を理解し、危険な使い方を避けることが、これからのデジタル社会を生きる私たちに求められる新しいリテラシーと言えるでしょう。

AIの脅威にどう備えるか:今すぐできる対策

今回の脆弱性はいずれ修正されるでしょう。しかし、これはAIを巡るセキュリティ問題の氷山の一角に過ぎません。AI技術が進化し続ける限り、攻撃者もまた、その進化を利用した新たな手口を生み出し続けます。

では、日々進化するAIの脅威に、私たちはどう向き合えばよいのでしょうか。特別な知識がなくても、今日から始められることがあります。

最も効果的なのは、セキュリティの基本に立ち返ることです。特にフィッシング対策が未熟なAIブラウザでは、「安易に知らないリンクをクリックしない」「怪しいウェブサイトにアクセスしない」といった基本的な行動が何よりの防御になります。攻撃のきっかけは、多くの場合、私たち自身の小さな油断なのです。

また、利用しているAIツールの設定を見直す習慣も大切です。「記憶」機能がどのような情報を保存しているか時々チェックし、不要になったり不審に感じたりする記憶はこまめに削除することを心がけましょう。

AIは、私たちの仕事や生活を豊かにしてくれる強力なパートナーです。しかし、その力を安全に引き出すためには、技術の進化をただ受け入れるだけでなく、裏に潜むリスクを学び、賢く使いこなす主体性が不可欠です。今回のニュースをきっかけに、ご自身のデジタルライフを見直してみてはいかがでしょうか。