気候変動の影響というと、氷河の融解や海面上昇を思い浮かべるかもしれません。しかし、影響はもっと身近な場所にも及んでいるようです。「大気中のCO2濃度が上昇し、人間の骨格を弱くしている」とFuturismが報じました。私たちが毎日吸っている空気が、知らないうちに骨を蝕んでいる可能性があるという研究成果を解説します。
20年間で血液中の重炭酸イオンが7%増加
学術誌Air Quality, Atmosphere & Healthに掲載された研究では、米国の成人を対象に1999年から2020年までの血液データを分析しました。その結果、血液中の重炭酸イオン(HCO3)の濃度が約7%上昇していることがわかりました。重炭酸イオンとは、体内でCO2が溶けて生じる物質で、血液の酸性度を調整する役割を持っています。
この増加は、大気中のCO2濃度の上昇と連動していました。産業革命前に約280ppmだったCO2は、現在では約425ppmに達しています。私たちが吸い込む空気のCO2が増えれば、血液中の重炭酸イオンも増える。当然の結果ではありますが、それが体にどんな影響を及ぼすのかが問題です。
骨がCO2の「吸収材」になっている
同じ期間に、血液中のカルシウムは約2%減少、リンは約7%減少していました。なぜでしょうか。
メカニズムはこうです。血液中のCO2濃度が体の許容範囲を超えると、体が酸塩基平衡を保とうとする過程で、骨からカルシウムやリンが放出されます。通常であれば、これらのミネラルは数週間で骨に再び取り込まれます。しかし、血液中のCO2濃度が慢性的に高い状態が続くと、放出されたカルシウムが完全には戻らず、正味の損失が生じます。つまり、骨が少しずつ弱くなっていくのです。
この現象は、大気を呼吸するすべての人に影響する可能性があります。特に子どもや若い世代は、上昇したCO2濃度のなかで成長期を過ごすため、最も長期間にわたる影響を受ける可能性があります。
50年後には「健康な範囲」を超える恐れ
研究チームの推計によると、現在の傾向が続けば、血液中の重炭酸イオン濃度は50年以内に現在の正常範囲とされる上限に到達します。カルシウムとリンの濃度も、今世紀後半には正常範囲の下限に近づく見込みです。
人類は進化の歴史を通じて「ほぼ安定した」CO2濃度のなかで暮らしてきました。研究チームは「過去約25年間で、人間の生理機能は一貫して変化してきた」と指摘し、この生理学的影響を「緊急に考慮する必要がある」と訴えています。ただし、具体的にどの程度の健康被害が生じるかについては、まだ正確にはわかっていません。
記者の視点:「見えない健康被害」に備える必要性
気候変動の議論では、異常気象や生態系への影響が中心になりがちです。しかし今回の研究は、CO2が呼吸を通じて人体に直接影響を及ぼす可能性を示しています。日本では高齢化に伴い骨粗しょう症がすでに大きな社会問題です。約1,300万人が骨粗しょう症と推定されるなか、大気中のCO2による骨密度低下が加わればリスクはさらに高まります。
これはもはや「未来の世代の問題」ではなく、今この瞬間に進行中の変化です。温室効果ガスの削減が、地球の気温だけでなく私たちの骨の健康をも守ることにつながるという視点は、気候変動対策の新たな動機となるかもしれません。
呼吸するだけで骨が弱くなる時代
今回の研究は、CO2の影響が氷河や海だけでなく、私たちの体内にまで及んでいることを示しました。1999年から2020年までの血液データに基づく発見であり、今後さらに大規模な追跡調査が期待されます。温暖化対策は「地球のため」だけでなく「自分の骨のため」でもある。そう考えると、CO2削減の取り組みが少し身近に感じられるのではないでしょうか。
