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史上初、ブラックホールの「動画」撮影に天文学者が挑戦中

2019年、世界中の電波望遠鏡を使って撮影されたブラックホールの「静止画」は、科学史に残る偉業でした。あのぼんやりと光るオレンジ色のリングを覚えている方も多いでしょう。あれから7年、天文学者たちは次のステージに進もうとしています。「天文学者がブラックホールの動画撮影に史上初めて挑んでいる」とCBCが報じました。静止画から動画へ、ブラックホール観測の最前線を解説します。

「地球サイズの望遠鏡」で動画を撮る

この挑戦の主役は、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)です。EHTは世界12か所の電波望遠鏡を連携させ、地球全体を一つの巨大な望遠鏡として機能させる国際プロジェクトです。2019年にはこのネットワークを使い、おとめ座の楕円銀河M87の中心にある超大質量ブラックホールの撮影に初めて成功しました。

今回の観測キャンペーンは2026年3月から4月にかけて実施されています。研究チームは3〜4日おきにM87のブラックホールを繰り返し観測し、得られたデータをつなぎ合わせてタイムラプス映像を作成する計画です。11か所の望遠鏡が参加しています(南極の望遠鏡はM87が観測できない位置にあるため不参加)。

なぜM87が主役なのか

天の川銀河の中心にもいて座A*という超大質量ブラックホールがありますが、今回の「主演」にはM87が選ばれました。その理由は、変化のスピードにあります。

いて座A*は数時間単位で姿が変わってしまうため、数時間おきの観測でも前後の画像がまったく違って見え、動画として繋げるのが極めて難しいのです。一方、M87のブラックホールは変化が数日から1週間単位とゆっくりで、3〜4日間隔の観測でも動きを追跡できます。いわば、目まぐるしく動き回る子供を撮るか、ゆったり散歩する大人を撮るかの違いです。

動画でわかること

静止画1枚からでも多くの発見がありましたが、動画になれば桁違いの情報が得られます。

  • 降着円盤の動き: ブラックホールの周りを超高温のガスがどう回転しているのか、リアルタイムの変化を追える
  • 磁場構造の変化: ブラックホール周辺の磁場が時間とともにどう変化するかを直接観測できる
  • ブラックホールの自転速度: 明るい部分がリングのどこを移動するかを測定すれば、ブラックホールがどれくらいの速さで回転しているかの手がかりになる

これらは従来の静止画では推測するしかなかった情報です。動画という新しい「目」を手に入れることで、ブラックホールの物理学は大きく前進する可能性があります。

記者の視点:「絶望の穴」ではなく「宇宙で最も面白い天体」

EHTの研究者は「メディアはいつもブラックホールを絶望の穴として描くが、実際はもっと面白い存在だ」と語っています。確かに、光すら逃げられない天体というイメージは恐ろしく聞こえます。しかし実際には、ブラックホールは周囲の物質を強烈に加速し、銀河全体のエネルギー循環に影響を与える「宇宙のエンジン」のような存在です。

日本の国立天文台もEHTプロジェクトに参加しており、この歴史的な観測に貢献しています。静止画が「ブラックホールは実在する」ことを証明したように、動画は「ブラックホールがどう振る舞うか」を明らかにする鍵になるでしょう。

宇宙の「生きた姿」が見える日

観測データの処理には長い時間がかかるため、完成した動画が公開されるのはまだ先になりそうです。それでも、2019年の静止画が世界を驚かせたように、初めての「動くブラックホール」は天文学の新たなマイルストーンになるはずです。宇宙最大の謎が、少しずつその「動き」を見せ始めています。