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太陽型恒星の回転理論を覆す、名古屋大が富岳で45年来の定説に終止符

私たちの太陽は、場所によって回転する速さが違います。赤道付近は約25日で1回転するのに、極付近は約35日もかかります。では、太陽のような恒星が年を取ると、この回転パターンはどう変わるのでしょうか。45年間信じられてきた答えが、日本のスーパーコンピュータによって覆されました。「日本のスーパーコンピュータが太陽型恒星の回転に関する45年来の理論を覆す」とInteresting Engineeringが報じています。

45年間信じられてきた「逆転」の予測

地球は固い岩石の塊なので、どの場所でも同じ速さで回転します。しかし恒星は高温のプラズマでできているため、緯度によって回転速度が異なります。この現象を差動回転と呼びます。

太陽では赤道が速く、極が遅い。これが「太陽型」の差動回転です。1980年代以降、天文学者の間では「恒星が年を取って回転が遅くなると、やがて極のほうが赤道より速く回るようになる」という理論が広く信じられてきました。この状態は反太陽型差動回転と呼ばれ、多くのシミュレーションがその存在を支持していました。

しかし、実際の天体観測では反太陽型の回転を示す太陽型恒星はほとんど見つかっていませんでした。理論と観測の間にある、この食い違いの背景を明らかにしたのが、名古屋大学の研究チームです。

「富岳」が描いた54億点の恒星内部

名古屋大学宇宙地球環境研究所の研究チームは、スーパーコンピュータ富岳を使って、恒星の内部構造を再現する大規模シミュレーションに挑みました。富岳は理化学研究所と富士通が共同開発した日本を代表するスーパーコンピュータで、神戸市に設置されています。

今回のシミュレーションでは、恒星内部を約54億個のグリッドポイントで表現しました。これは従来の研究をはるかに上回る精度で、恒星内部の微小な乱流や磁場構造まで追跡できるレベルです。

その結果、過去のシミュレーションでは解像度が低かったために磁場の効果が過小評価されていたことが判明しました。高解像度で計算し直すと、磁場と乱流ガスの運動が組み合わさることで、恒星は生涯を通じて赤道が速く回る太陽型のパターンを維持することがわかったのです。回転が遅い恒星でも反太陽型への「逆転」は起きませんでした。

もう一つの発見:磁場は弱まるだけ

研究チームはさらに、恒星の磁場に関するもう一つの重要な発見をしています。従来の理論では、恒星が年を取ると磁場が一度弱まった後に再び強くなる「復活」が起きると予測されていました。しかし富岳のシミュレーションでは、磁場は時間とともに一貫して弱まり続けるという結果が出ました。

この発見は、恒星の磁気活動の進化に関する理解を根本から変える可能性があります。恒星の磁場は周囲の惑星環境に大きな影響を与えるため、惑星がどれだけ長く生命を育める環境を保てるかという問題にも関わってきます。

記者の視点:日本の計算科学が天文学を書き換える

今回の研究は、理論と観測が長年食い違っていた謎を、日本のスーパーコンピュータの圧倒的な計算力で解決した好例です。過去のシミュレーションが「解像度不足」で間違った結論を導いていたという事実は、科学において計算精度がいかに重要かを示しています。

富岳はかつて世界最速のスーパーコンピュータとしてランキング1位を獲得したことでも知られますが、その真価は速さだけでなく、こうした科学的発見を可能にする大規模・高精度の計算能力にあります。恒星1つを54億点で描くという途方もない精密さが、半世紀近い定説を覆す鍵となりました。

恒星の「一生」を書き換える発見

この研究成果は2026年2月に英国の科学誌Nature Astronomy掲載されました。ただし、あくまでシミュレーションに基づく結果であり、遠方の恒星内部を直接観測することは現在の技術では極めて難しいという点は留意が必要です。

それでも、恒星は一生を通じて太陽と同じ回転パターンを保つという新しい描像は、星の進化や惑星の居住可能性に対する理解を大きく前進させるものです。私たちの太陽が何十億年後にどう変わるのか、その答えの一端が日本の計算科学によって明らかになったのです。