私たちが日常的に目にする金のアクセサリーや電子機器の金メッキ。しかし、その金がどうやって宇宙で作られたのかは、核物理学の大きな謎でした。「金の生成にまつわる20年来の核物理の謎を解明」と題された研究で、米テネシー大学ノックスビル校の研究チームが、重元素の生成過程に関する3つの重要な発見を報告しました。
金は「宇宙の大衝突」で生まれる
金やプラチナなど鉄より重い元素は、通常の恒星内部の核融合だけでは十分に作れません。これらはr過程(速い中性子捕獲過程)と呼ばれる、極めて激しい核反応によって生成されます。r過程は中性子星どうしの合体や超新星爆発といった、宇宙でも最も激しい現象の中で起こります。1回の中性子星合体で、地球約70個分もの金が作られるという試算もあるほどです。
しかし、r過程の途中で不安定な原子核がどのように崩壊していくかは、実験的にほとんど確認されていませんでした。この「ブラックボックス」を開ける手がかりを、研究チームはCERNのISOLDE施設を使った実験で見つけました。
3つのブレークスルー
発見1:2個の中性子が同時に飛び出す瞬間を初観測
チームはインジウム134という不安定な原子核を調べ、ベータ崩壊後に2個の中性子が同時に放出される際のエネルギーを世界で初めて測定しました。この「ベータ遅延二中性子放出」は理論的には予測されていましたが、測定が極めて困難で、これまで誰も成功していませんでした。研究者はこの成果が「まったく新しい研究分野を切り開く」と述べています。
発見2:原子核は「生まれ方」を覚えている
2つ目の発見はさらに驚くべきものです。スズ133という原子核の中に、20年間探し続けられていた特定の量子状態が確認されました。研究者によれば、この原子核は自身がどのように形成されたかの「記憶」を保持しているといいます。従来、原子核は生まれた経緯に関わらず同じ状態に落ち着くと考えられていましたが、従来の理解を見直す必要があることを示す結果です。
発見3:既存の理論モデルでは説明できないパターン
3つ目に、実験データの中に既存の理論モデルでは説明できない統計的パターンが見つかりました。安定した原子核から大きく外れた「エキゾチック核」の振る舞いについて、現在の理論的枠組みが不完全である可能性を示唆しています。
記者の視点:元素の起源解明が進む意義
この研究が重要なのは、単に金の起源を解明するだけでなく、宇宙における元素合成の全体像を理解するための基礎データを提供している点です。r過程は宇宙に存在する鉄より重い元素の約半分を作り出していると考えられていますが、その詳細なメカニズムはまだ十分に解明されていません。
日本でも理化学研究所のRIビームファクトリーなどで不安定核の研究が盛んに行われており、今回の発見は国際的な共同研究をさらに加速させるでしょう。「原子核が生まれ方を覚えている」という発見は、核物理学の理解に修正を迫る可能性があります。
金の指輪の中に刻まれた宇宙の歴史
私たちが身につける金は、はるか昔に中性子星が衝突した際に生まれた原子の末裔です。その誕生の瞬間に何が起きていたのか、今回の3つの発見はその謎に迫る大きな一歩となりました。宇宙の激しい衝突の中で生まれた元素が、何十億年の旅を経て地球にたどり着き、いま私たちの手元にある。そう考えると、金の輝きが少し違って見えてくるかもしれません。
