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名作ゲーム「Doom」が科学の道具になった、ニューロンも細菌も研究に使う時代

「それでDoom動く?」。インターネットでは、電卓から妊娠検査薬まで、あらゆるデバイスで1993年の名作ゲームを動かす遊びが人気です。しかしこの「ネタ」が今、真剣な科学の現場で力を発揮しています。「古典的コンピュータゲームDoomはいかにして科学のツールとなったか」とNatureが報じた記事では、AIの改良から脳科学の実験まで、Doomが研究に使われる最前線を紹介しています。

培養ニューロンがDoomを「プレイ」する

最も衝撃的な事例は、オーストラリアの生命工学企業Cortical Labsの実験です。同社はシリコンチップ上に約20万個のヒトニューロン(神経細胞)を培養し、それにDoomをプレイさせることに成功しました。

仕組みはこうです。ゲーム画面の情報が電気信号に変換され、培養されたニューロンに送られます。ニューロンは受け取った信号に応じて自発的に発火し、その電気パターンが「移動」「旋回」「射撃」といったゲーム操作に翻訳されます。このシステムはランダム操作よりも高い成績を示しており、性能はさらに改善を続けているといいます。

Cortical Labsは2022年、ニューロンで古典ゲーム「Pong」をプレイさせる実験システムDishBrainで注目を集めました。より複雑な3D環境のDoomは、その自然な次のステップだったのです。研究者は「インターネットはいつも『Doomをプレイできるか』と聞いてくる」と語っています。

大腸菌がスクリーンになる

Doomの科学への応用は、ニューロン研究だけにとどまりません。MITの生物工学者は2023年、大腸菌を使ってDoomの映像を表示する実験を行いました。蛍光タンパク質を取り付けた細菌の発光をオン・オフすることで、細菌一つ一つを白黒のピクセルとして機能させたのです。

ゲーム冒頭の数フレームを白黒に圧縮・変換し、培養プレート上の細菌パターンとして再現しました。実用性よりも「遊び心のある科学」の象徴ですが、こうした研究は合成生物学の技術を磨く場にもなっています。

なぜDoomが科学に選ばれるのか

Doomが研究者に愛される理由は明確です。開発者のジョン・カーマックが1997年にゲームのソースコードをオンラインで公開したため、誰でも自由に改変して別のプラットフォームで動かせるのです。さらにDoomはファイルサイズが小さく、現代の基準では極めて軽量なプログラムです。

Doomに限らず、ゲームは科学研究のツールとして幅広く活用されています。サンドボックスゲームMinecraftはAIモデルの開発やテストに、オンラインゲームWorld of Warcraftは感染症の拡大シミュレーションに使われてきました。しかしオープンソースという強みと「Can it run Doom?」という文化的ミームが、Doomを特別な存在にしています。

記者の視点:「遊び」が科学を前進させる

タスマニア大学の研究者は、「馬鹿げたものを作ることは、本格的な技術を作ることと同じくらいの労力がかかる」と指摘しています。遊び心のある研究は、科学的課題を解くのに必要な創造性を引き出し、研究者のモチベーション維持にもつながります。

Cortical Labsはさらに野心的な計画を進めています。メルボルンとシンガポールに「生体データセンター」を建設し、従来のGPUサーバーに代わって生体ニューロンを演算に活用する構想です。Doomから始まった「遊び」が、コンピューティングの未来を変えようとしているのかもしれません。

ミームから始まる科学のイノベーション

30年以上前にリリースされた一本のゲームが、AIの訓練から生体コンピュータの実証、合成生物学の実験にまで使われている事実は痛快です。「それでDoom動く?」という冗談が、今では科学の最前線を切り開く合言葉になりました。次にDoomが動く場所は、もしかしたら宇宙かもしれません。