夜空を見上げても、人間の目に見える星はほんの一部にすぎません。宇宙には可視光では捉えられない天体が無数に隠れています。「史上最大の電波地図が1370万の隠れた天体を明らかに」によると、ヨーロッパの電波望遠鏡LOFARを用いた研究チームが、北半球の空の88%をカバーする過去最大の電波サーベイを公開しました。カタログに収録された天体は、およそ1370万個。宇宙の「見えない姿」が一気に明らかになりつつあります。
約2万本のアンテナで宇宙を「聞く」
この成果を生んだのは、オランダを中心にヨーロッパ10カ国に広がる電波望遠鏡LOFAR(低周波電波干渉計)です。従来の巨大パラボラアンテナとは異なり、LOFARは約2万本の小型アンテナを52の観測局に分散配置し、それらを連携させることで巨大な望遠鏡として機能します。最も離れた観測局間の距離は約1000kmにもなり、この広大な「仮想望遠鏡」が高い解像度を実現しています。
LOFARが観測するのは波長約2メートルの低周波電波です。この帯域は、可視光では見えない宇宙の姿を映し出します。宇宙塵に隠された銀河の中心部や、超大質量ブラックホールから噴き出すジェットなど、可視光では見えにくい現象の観測に役立ちます。
10年以上かけて積み上げた1万3000時間の観測
今回公開された「LoTSS-DR3」と呼ばれるデータは、10年以上にわたる約1万3000時間の観測を集大成したものです。北天の88%にあたる約1万9000平方度をカバーし、カタログに登録された天体は1366万7877個に達しました。
データ処理も桁違いの規模でした。総データ量は18.6ペタバイトにのぼり、ドイツのユーリッヒスーパーコンピューティングセンターなどのスパコンを使って2000万コア時間以上の計算を要しました。18.6ペタバイトとは、高画質の映画にして約4万本分に相当する途方もない量です。
見えてきた宇宙の「隠された顔」
電波で宇宙を観ると、可視光とはまったく違う景色が広がります。今回のサーベイでは、活発に成長する超大質量ブラックホールについて、これまでで最も包括的なカタログが得られました。ブラックホールが周囲の物質を飲み込む際に噴き出す強力なジェットが、銀河の形を歪めている様子も捉えられています。
さらに、銀河団同士の衝突に伴う現象や、超新星残骸の磁場によって加速された粒子なども観測されました。低周波電波は宇宙の塵を透過できるため、通常の望遠鏡では見通せない星の誕生領域まで見渡すことが可能です。
データはすべて一般公開されており、世界中の天文学者が自由に利用できます。過去のデータリリースからも数多くの論文が生まれており、今回のDR3はさらに多くの発見を生むと期待されています。
記者の視点:次世代望遠鏡への「序章」にすぎない
LOFARの成果は驚異的ですが、これはまだ序章にすぎません。現在、南アフリカとオーストラリアで建設が進むSKA天文台は、LOFARをはるかに上回る感度と解像度を持つ次世代電波望遠鏡です。LOFARで培われた技術やデータ処理のノウハウは、SKA時代の天文学を支える基盤になると考えられています。
LOFAR自体も現在「LOFAR2.0」へのアップグレードが進行中で、サーベイ速度は2倍に向上する見込みです。宇宙を「電波の目」で見る技術は、まさにいま急速に進化しています。
電波が描く宇宙の新地図はまだ始まったばかり
1370万天体という数字は圧倒的ですが、宇宙にはまだ南天の大部分を含む未観測の領域が広がっています。LOFARの進化とSKAの稼働が重なる今後数年間で、電波天文学は黄金期を迎えるかもしれません。私たちの目には見えない宇宙の姿が、これからどれだけ明らかになるのか。電波が描く新しい宇宙地図は、まだ始まったばかりです。
