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ヘリウム供給の3分の1が消えた、ドローン攻撃が半導体産業を揺るがす

スマートフォン、パソコン、自動車、データセンター――私たちの暮らしを支える半導体は、実は「ヘリウム」という意外な物質なしには作れません。そのヘリウムの世界供給の約3分の1が、中東の軍事衝突によって突然止まりました。「ドローン攻撃が世界のヘリウム供給の3分の1を停止させ、半導体生産を脅かす」とTechSpotが報じたこのニュースは、現代のテクノロジー産業がいかに脆いサプライチェーンの上に成り立っているかを浮き彫りにしています。

3月2日、カタールで何が起きたのか

2026年3月2日、イランの無人攻撃機がカタール北東部のラス・ラファン工業都市を攻撃しました。ここは世界最大級のLNG(液化天然ガス)生産拠点であり、同時にヘリウムの一大供給源でもあります。

攻撃を受けたカタールの国営エネルギー企業カタールエナジーは、3月4日に不可抗力条項(フォースマジュール)を発動し、LNGとヘリウムの出荷を全面凍結しました。カタールは2025年に約6300万立方メートルのヘリウムを生産しており、これは世界供給量の約33%に相当します。この供給が一夜にして途絶えたのです。

毎月約520万立方メートルのヘリウムが市場から消える計算になり、ヘリウムの専門家は「最低でも2〜3ヶ月の生産停止、供給網全体が正常に戻るまでには4〜6ヶ月かかる」と見通しています。

なぜ半導体にヘリウムが必要なのか

ヘリウムは風船を膨らませるガスとして知られていますが、半導体製造ではまったく別の重要な役割を果たしています。

半導体の製造工程では、シリコンウェハーに極めて微細な回路を刻み込む「リソグラフィ」という工程があります。この工程では精密な温度管理が不可欠で、ヘリウムはその冷却に使われます。ヘリウムは全元素のなかで最も沸点が低く、極低温での冷却に優れています。さらに化学的に安定しているため、繊細な半導体素材を汚染する心配もありません。このため、多くの半導体製造工程で代替が難しいとされています。

つまり、ヘリウムの供給不足が長引けば、最先端半導体の生産に深刻な支障が出かねません。

韓国と日本に迫る危機

この事態で最も深刻な影響を受けているのが韓国です。韓国は2025年のヘリウム輸入額約2億2690万ドル(約361億円)のうち、64.7%をカタールに依存していました。高純度の半導体製造用ヘリウムに限れば、その比率は約80%にも達します。

サムスンやSKハイニックスといった韓国の半導体大手は、緊急の在庫確認を開始し、使用済みヘリウムのリサイクルシステム拡充などの対策に動いています。とりわけSKハイニックスは、ヘリウム消費量の約半分をカタールに依存していたとされ、代替調達は容易ではありません。韓国に限らず、台湾のTSMCも同様にカタール産ヘリウムへの依存度が高く、影響はアジアの半導体産業全体に広がっています。

日本もヘリウムを100%輸入に依存しており、カタールは主要な供給元の一つです。日本経済新聞の報道によると、日本の半導体メーカーや医療機器メーカーにも調達への懸念が広がっています。

ヘリウムのスポット価格は既に約50%上昇しており、停止が30〜90日続けばさらに10〜50%の追加上昇が予測されています。

記者の視点:「見えない資源」への依存が露呈した

今回の危機が示しているのは、半導体サプライチェーンの脆弱性が「チップ」そのものだけでなく、その製造に必要な素材にまで広がっているという事実です。

ヘリウムは地球上で再生不可能な資源です。天然ガスの採掘時に副産物として回収されるため、意図的に「ヘリウムだけを増産する」ことができません。世界最大の生産国はアメリカ(約8100万立方メートル)ですが、国内需要が大きく、アジアへの供給余力には限りがあります。

さらに韓国にとっては、ヘリウムだけでなく半導体製造に必要な臭素の97.5%をイスラエルから輸入しているという二重のリスクも抱えています。中東の地政学的リスクが、遠く離れたアジアのハイテク産業を直撃する構図は、グローバル化の光と影を象徴しています。

「風船のガス」が止めるハイテクの未来

半導体業界の専門家によれば、大手メーカーは長期契約を結んでおり、輸送にかかる数週間分の在庫は確保しています。しかし、供給停止が6ヶ月を超えれば、深刻な生産への影響は避けられません。

この危機を機に、ヘリウムの回収・再利用の強化と、調達先の多角化が急務となっています。日本にとっても、レアアースや半導体素材と同様に、ヘリウムという「見えない資源」の安定確保が国家的な課題として浮上したと言えるでしょう。私たちが毎日手にするスマートフォンの裏側には、こうした複雑で脆いサプライチェーンが存在していることを、改めて意識させられるニュースです。