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CERNが80番目の新粒子を発見、改良された検出器が「重い陽子」を捉えた

私たちの体を作る原子核は、陽子や中性子でできています。そしてその陽子や中性子は、さらに小さな「クォーク」という粒子で構成されています。このクォークの組み合わせに、また一つ新しいパターンが加わりました。「CERNが大型ハドロン衝突型加速器のアップグレード後に新粒子を発見」と題された報道によると、欧州原子核研究機構(CERN)は2026年3月17日、LHCで確認された80番目の新粒子を発見したと発表しました。この記事では、新粒子がどんなもので、なぜ重要なのかをわかりやすく解説します。

「重い陽子」の正体

今回見つかった粒子の名前はグザイcc+(記号ではΞcc⁺)。私たちの体を作る陽子と同じ「バリオン」という種類の粒子ですが、質量は陽子の約4倍もあります。

この違いは、中身のクォークの組み合わせで説明できます。陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個でできています。一方、グザイcc+はチャームクォーク2個とダウンクォーク1個からなります。クォークは全部で6種類あり、チャームクォークは3番目に重い種類です。いわば、普通の陽子の「重量級バージョン」にあたる粒子が、高エネルギー衝突で生成されることを実験で確認したことになります。

大改修を経た検出器の初成果

この発見を成し遂げたのは、LHCの4つある実験装置の一つ「LHCb実験」です。LHCb検出器は2023年に大規模な改修を完了し、部品の約90%が交換されました。データを読み取る速度は毎秒4000万回に向上し、以前は見逃していた短寿命の粒子も捉えられるようになっています。

研究チームは2024年に収集した陽子同士の衝突データを分析し、約915個のグザイcc+の痕跡を検出しました。統計的な確実性は7シグマに達しており、発見の基準である5シグマを大きく上回ります。質量は約3620MeV/c²と精密に測定されました。

実はLHCbは2017年にも似た粒子「Ξcc⁺⁺」を発見しています。今回の粒子はその「兄弟」にあたりますが、寿命が6分の1と極めて短く、検出の難易度がはるかに高いものでした。検出器の改良がなければ、見つけることは困難だったと考えられています。

物質をつなぎとめる力の解明へ

この発見が重要なのは、物質の根本的な仕組みの理解に直結するからです。

クォーク同士を結びつけているのは「強い力」と呼ばれる自然界の基本的な力で、その理論を量子色力学(QCD)と呼びます。しかし、QCDの方程式は非常に複雑で、理論の予測が正しいかどうかを確かめるには、さまざまなクォークの組み合わせを実際に観測して比較する必要があります。

重いチャームクォークを2個含むグザイcc+は、QCDの予測を検証するための格好の材料です。2002年には米国のフェルミ国立加速器研究所が類似の粒子の兆候を報告しましたが、質量が理論予測と合わず、統計的な確実性も不十分でした。今回の発見は、20年以上にわたる未解決の問題にも決着をつけるものです。

記者の視点:見えない世界の地図づくりが加速する

LHCは2012年のヒッグス粒子発見で一躍有名になりましたが、その後も着実に「素粒子の地図」を広げ続けています。今回で80番目の新粒子というのは、まさにそのコツコツとした営みの成果です。

日本もこの国際的な取り組みに深く関わっています。茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)はCERNと連携協定を結び、LHCの超伝導磁石の開発や加速器技術で貢献してきました。20カ国以上から1000人超の研究者が参加するLHCb実験は、国境を越えた科学協力の象徴でもあります。

加速器の「目」が良くなるほど、宇宙の秘密は見えてくる

全周27km、フランスとスイスの地下にまたがるLHCは、今後さらに高輝度化(HL-LHC)へ向けたアップグレードが計画されています。検出器の性能が上がれば上がるほど、これまで見えなかった短寿命の粒子や珍しい反応が姿を現すことになります。「重い陽子の兄弟」の発見は、まだまだ知られていない素粒子の世界が広がっていることを教えてくれます。