ゲームの映像をより美しく、より滑らかにする――それは多くのゲーマーが歓迎するはずの進化です。ところが、NVIDIAが発表した最新技術に対し、ゲーマーたちが示したのは拍手ではなく、激しい拒絶反応でした。「ゲーマーはNVIDIAのDLSS 5が嫌い。開発者もあまり好きではない」とWIREDが報じたところによると、NVIDIAが年次技術カンファレンスGTCで披露したDLSS 5のデモが、ゲーマーと開発者の双方から厳しい批判を浴びています。
DLSS 5は何が変わったのか
NVIDIAのDLSSは、2018年に登場したAIアップスケーリング技術です。ゲーム画面を低い解像度で描画し、AIが高解像度に引き上げることで、画質を保ちながらフレームレートを向上させます。最近のバージョンでは、実際に描画されたフレームの間にAI生成フレームを挿入する機能も加わりました。こうした技術は、高性能なPCを持っていなくても快適にゲームを楽しめるようにする「裏方の道具」として広く受け入れられてきました。
しかしDLSS 5は、その枠を大きく踏み越えました。従来のフレーム補間にとどまらず、生成AIを使ってキャラクターの顔をよりリアルに加工する機能を搭載したのです。GTCのデモでは『バイオハザード』『アサシン クリード』『スターフィールド』といった人気タイトルの映像が使われ、照明がリングライトのように明るくなり、キャラクターの目が大きくなり、唇がふっくらとし、鼻の形まで変わっていました。
「SNSの美顔フィルター」と批判殺到
デモ映像がSNSで拡散すると、ゲーマーたちの反応は一斉に否定的なものとなりました。「AIスロップ(AI生成のゴミ)」「InstagramやSnapchatの美顔フィルターと同じ」「ポルノ顔」といった辛辣な言葉が飛び交い、この効果は「ヤシファイド」(過度にSNS映えするよう加工されること)と呼ばれました。
技術的な問題も指摘されています。公式デモ映像の中でさえ、サッカーゲームのシーンではボールにゴールネットの模様が重なるような不自然なアーティファクト(描画の乱れ)が確認されました。
NVIDIAのCEOは翌日、ゲーマーの反応について「完全に間違っている」と反論しましたが、これがさらに火に油を注ぐ結果となりました。
開発者側も困惑、「聞いていなかった」
問題をさらに複雑にしたのは、デモに使われたゲームの開発元であるカプコンやユービーアイソフトが、デモの内容を事前に知らされていなかったと報じられたことです。開発者たちは一般のゲーマーと同じタイミングでデモ映像を見て、同じように驚いたといいます。
ゲーム開発者たちの懸念は、DLSS 5が開発者の手を離れたところでゲームの見た目を勝手に変えてしまう点にあります。あるゲームアーティストは「アーティストの創造性と意図を根本的なレベルで損なう」と批判しました。別の開発者は「アーティストにはスタイルがあり、アートディレクションがある。AIはそれを常に尊重するわけではない」と指摘しています。
特に問題視されているのは、あらゆるジャンルのゲームに一律に適用される「画一的なアプローチ」です。すべてのゲームが写実的である必要はなく、意図的にデフォルメされたアートスタイルを採用しているゲームも多いからです。
記者の視点:「不気味の谷」の先に何があるのか
今回の騒動の根底にあるのは、技術的な問題だけではありません。日本のロボット工学者・森政弘が1970年に提唱した「不気味の谷」現象が、ゲームのAI映像処理でも起きているのです。人間に近いが完全ではない表現は、かえって不快感を引き起こします。
また、この問題は「AIが人間の創作物を勝手に改変してよいのか」という、より大きな問いにもつながります。ゲーム開発者が何年もかけて作り上げたキャラクターの顔を、GPUメーカーのAIが自動的に「改善」してしまう――それは果たして進化なのか、それとも創作への侵害なのか。
さらに、デモが最上位GPU「GeForce RTX 5090」を2枚使って実行された点も批判されています。高価なハードウェアでなければ動かない技術は、ゲーマー体験の向上よりも「グラフィックスカードを売るためのもの」に見えてしまいます。
「数年後には当たり前」になるのか
興味深いのは、一部の開発者がこの技術の将来性自体は認めていることです。あるハードウェア開発者は「単一のグラフィックスカードで動くレベルまで圧縮する技術力は驚異的」と評価しつつも、「今は正直、AI企業としての実力を見せつけるためにやらざるを得ないだけ」と分析しています。
そして同氏の予測はこうです。「数年後にはこれが当たり前になり、誰も気にしなくなる」。DLSS 5は引き続きユーザーがオン・オフを選択できますが、AIがゲーム体験そのものに手を加える時代の到来は、好むと好まざるとにかかわらず近づいているのかもしれません。
