冷蔵庫に貼るマグネットでさえ、小さな子どもにとっては不思議な力です。では、地球の磁場の300兆倍もの磁力を持つ天体が宇宙で生まれる瞬間を想像できるでしょうか。「宇宙最強の磁石の誕生を初めて目撃、一般相対性理論の"マジックトリック"のおかげで」とLive Scienceが報じた研究によると、天文学者たちが超新星爆発の中心で「マグネター」と呼ばれる超強力な磁場を持つ天体が誕生する瞬間を、史上初めて捉えることに成功しました。
マグネターとは何か
マグネターは、中性子星の中でも特に強烈な磁場を持つ天体です。中性子星自体がすでに極端な存在で、太陽と同程度の質量が直径わずか約20kmの球に押し込められています。スプーン1杯分の物質が10億トンを超えるほどの超高密度です。
通常の中性子星も非常に強い磁場を持ちますが、マグネターの磁場はさらに桁違いです。その磁場は原子の構造を歪めるほど強く、宇宙で最も強力な磁場を持つ天体として知られています。
10年以上前から、研究者たちはマグネターの誕生が「超高輝度超新星」と呼ばれる異常に明るい爆発の原因になっているのではないかと予測していました。通常の超新星爆発より10倍以上明るく輝くこの現象は、爆発の中心でマグネターが形成され、その超強力な磁場が荷電粒子の放出を加速させることで説明できるからです。しかし、これまで直接的な証拠はありませんでした。
「さえずる超新星」が決め手に
今回の発見のきっかけとなったのは、2024年12月に夜空に現れた超高輝度超新星SN 2024afavです。この研究成果は2026年3月11日に学術誌Natureに掲載されました。
世界中の20以上の望遠鏡が200日以上にわたって観測を続けた結果、研究チームは奇妙なパターンを発見しました。通常の超新星であれば、最も明るくなった後は徐々に暗くなっていきます。しかしSN 2024afavは、明るくなったり暗くなったりを少なくとも4回繰り返したのです。
研究チームはこの明滅パターンを鳥の鳴き声になぞらえて「チャープ(さえずり)」と名付けました。発光の間隔が次第に短くなり、明るさの変化幅も小さくなっていく様子が、鳥のさえずりのように聞こえるパターンに似ていたのです。推定では、新生マグネターは4.2ミリ秒に1回転(毎秒238回転)という猛烈なスピードで回転しています。
アインシュタインの理論が解き明かした「宇宙の灯台」
では、なぜ超新星が明滅を繰り返すのでしょうか。その答えは、アインシュタインの一般相対性理論にありました。
新生マグネターの周囲には、爆発で飛び散った物質の一部が重力で引き戻されてできた降着円盤があります。この円盤はマグネターの回転軸とずれた位置にあり、一般相対性理論が予言する「レンゼ・ティリング歳差運動」という効果を受けます。回転する超高密度天体の周囲では時空そのものが引きずられるため、円盤がぐらぐらと揺れるのです。
この揺れる円盤がマグネターの光を周期的に遮ったり反射したりすることで、地球からは「点滅する宇宙の灯台」のように見えました。研究チームは純粋なニュートン力学や磁場による歳差運動など複数の仮説を検証しましたが、観測データのタイミングに完全に一致したのはレンゼ・ティリング効果だけでした。
超新星の力学を説明するために一般相対性理論が必要とされたのは、これが史上初めてのことです。
記者の視点:「理論家のマジックトリック」が現実になった日
この研究の意義は、単に珍しい天体を見つけたことにとどまりません。「何年もの間、マグネターの仮説は理論家のマジックトリックのようなものでした。超新星の残骸の向こう側に強力なエンジンを隠しているだけだと」と、この仮説を最初に提唱した研究者の一人は振り返ります。今回の「さえずり信号」は、そのエンジンが本当に存在することをカーテンの向こうから自ら証明したのです。
この発見は、日本の研究コミュニティにとっても無縁ではありません。日本の天文学コミュニティは中性子星や重力波の研究で世界をリードしており、今後マグネター誕生のメカニズム解明に貢献することが期待されます。
「さえずる超新星」を追う次の一手
今回の発見はすべての超高輝度超新星がマグネターによるものではないことも示しています。爆発する恒星を取り巻くガスの「繭」が原因となる場合もあり、どちらがより一般的なのかはまだわかっていません。
研究チームは今後、チリで本格稼働を始めたベラ・ルービン天文台を使い、同様の「さえずり」を持つ超新星を数十個規模で探し出す計画です。宇宙最強の磁石が生まれる瞬間を目撃できるようになった今、その現象が宇宙でどの程度普遍的なのかを解き明かす新たな段階に入ろうとしています。
