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5万年前の「天然抗生物質」、ネアンデルタール人は樹皮タールで傷を治していた

風邪を引いたら薬を飲む。傷には消毒液を塗る。私たちにとって当たり前の医療行為は、いつから始まったのでしょうか。「ネアンデルタール人は5万年前に世界初の抗生物質を使っていたかもしれない」とZME Scienceが報じた研究によると、私たちの近縁種であるネアンデルタール人が、シラカバの樹皮から作ったタール(黒い粘着性の物質)を天然の抗菌剤として利用していた可能性が明らかになりました。

シラカバの「黒い接着剤」に隠された力

カバノキタールは、シラカバの樹皮を高温で加熱して作る黒くてベタベタした物質です。ネアンデルタール人がこれを接着剤として使っていたことは以前から知られていました。石器の刃を木の柄に固定するための「のり」として、約20万年前から製造されていた証拠があります。

しかしケルン大学やオックスフォード大学などの国際研究チームは、このタールに接着剤以外の重要な機能があったのではないかと考えました。研究チームは古代の製法を再現し、3つの異なる方法で6種類のカバノキタールを作製。その抗菌効果を現代の実験室でテストしました。この研究は2026年3月に学術誌PLOS ONEに掲載されています。

傷口の大敵を「選んで」殺す

実験結果は予想以上に興味深いものでした。作製したタールサンプルを黄色ブドウ球菌大腸菌の2種類の細菌に対してテストしたところ、1つを除くすべてのサンプルが黄色ブドウ球菌に対して抗菌活性を示しました。一方、大腸菌にはほとんど影響を与えなかったのです。

この「選択性」が重要なポイントです。黄色ブドウ球菌は人間の皮膚に常在し、傷口に入ると化膿や敗血症を引き起こす、古代においても現代においても、傷口の感染症を引き起こす代表的な細菌です。つまりカバノキタールは、傷の治療に最も必要な菌をピンポイントで攻撃する性質を持っていたことになります。

研究チームによれば、この違いは細菌の細胞壁の構造に関係しています。黄色ブドウ球菌はグラム陽性菌に分類され、大腸菌はグラム陰性菌です。カバノキタールに含まれる化合物が、グラム陽性菌の細胞壁に対して特に有効に作用するとみられています。

「気づき」から始まった原始の医療

ネアンデルタール人がカバノキタールを作る工程は、手作業で行う粘り強い仕事だったはずです。樹皮を集め、火を管理し、何時間もかけてタールを抽出する。その過程で手や体にタールが付着することは避けられません。

研究チームは、この日常的な接触が「発見」のきっかけだったと推測しています。タールが付いた手で傷に触れたとき、偶然にも傷の治りが早くなることに気づいた可能性があるのです。

この仮説を補強する証拠は他にもあります。ネアンデルタール人の歯石を分析した過去の研究では、カモミールやノコギリソウなど薬効のある植物を意図的に摂取していた痕跡が見つかっています。また、イラク北部のシャニダール洞窟では、重傷を負いながらも長期間生存したネアンデルタール人の骨が発見されており、仲間による介護が行われていたことを示しています。

記者の視点:「野蛮な原始人」という偏見を科学が覆す

ネアンデルタール人は長い間、知能の低い「原始人」というイメージで語られてきました。しかし近年の研究は、そのイメージを次々と塗り替えています。洞窟壁画を描き、死者を埋葬し、装飾品を身につけ、そして今回の研究が示すように、天然素材を治療に利用していた可能性もある。彼らは私たちが考えていたよりもはるかに知的で、文化的な存在だったのです。

現代医学が抗生物質を「発見」したのは1928年、アレクサンダー・フレミングによるペニシリンが最初とされています。しかし今回の研究は、薬に頼るという行為そのものは、少なくとも5万年前、おそらくそれ以上前から人類の歴史に刻まれていた可能性を示しています。

古代の知恵が現代医療にヒントを与える

研究チームは「先史時代の素材に由来する、選択的に作用する抗菌物質をさらに詳しく調べる価値がある」と述べています。抗生物質が効かない耐性菌が世界的な問題となっている今、古代人が使っていた天然素材の中に、新しい薬のヒントが眠っているかもしれません。

5万年前のネアンデルタール人は、論文を書くことも特許を取ることもできませんでした。しかし彼らの「経験から学ぶ力」は、現代の私たちと何ら変わりないものだったようです。