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深海6200mで発見された「黒い卵」、中から現れたのは未知の生物だった

光も届かない、水圧に押しつぶされそうな深海の底。そこに、真っ黒な球体がいくつも岩肌に張りついていました。「日本の研究チームが深海6200mで奇妙な黒い卵を発見」とDaily Galaxyが報じたこの発見は、東京大学と北海道大学の研究チームによるものです。慎重に開いてみると、中から現れたのは深海記録を大幅に塗り替える未知の生物でした。この研究は2024年に学術誌Biology Lettersに掲載され、Daily Galaxyが改めて紹介しています。

漆黒の球体を拾い上げた深海探査

発見の舞台は、北西太平洋の水深約6,200m。太陽の光が完全に届かない「超深海帯」と呼ばれる領域です。ここでは水圧が地上の約620倍にもなり、水温は1〜2℃前後。調査機会が限られ、生態系の詳細はまだ十分にわかっていません。

東京大学の研究チームが遠隔操作型無人探査機(ROV)を使って海底を調査していたとき、岩の表面にへばりつく漆黒の小さな球体を見つけました。直径わずか約3mm。正体は不明でしたが、深海でこのようなサンプルを採取できる機会は極めてまれです。研究チームは4つの無傷な球体を回収することに成功しました。ほかにも複数見つかりましたが、多くはすでに破れて空になっていました。

「乳白色の液体」から姿を現した新種

回収されたサンプルは北海道大学の無脊椎動物の専門家に託されました。研究者が球体のひとつを慎重に開くと、中から乳白色の液体があふれ出し、その中に小さく白い、非常にもろい生き物が入っていたのです。

分析の結果、この黒い球体は「卵」ではなく、複数の胚を包む卵嚢(卵を保護する袋状の構造)であることが判明しました。1つの卵嚢には3〜7匹の扁形動物(プラナリアなどの仲間)の幼体が発育していました。乳白色の液体は、幼体の栄養源となる卵黄だったと考えられています。

DNA分析により、この生物はこれまで記載されたことのない新種であることが確認されました。扁形動物門に属しますが、浅い海に生息する既知の種のどれとも異なる系統です。興味深いことに、超深海で見つかったにもかかわらず、外見は浅い海にいる扁形動物とほとんど区別がつかなかったといいます。

深海記録を約3000m更新

この発見のインパクトは「新種」というだけにとどまりません。それまで確認されていた、寄生せずに暮らす扁形動物(自由生活性)の最深記録は約3,200mでした。水深約5,200mで「扁形動物の可能性がある」生物が報告されたこともありましたが、確実な証拠とは言えませんでした。

今回の水深6,200mでの発見は、従来の確認記録を約3,000m更新する大きな発見です。研究成果は英国王立協会が発行する学術誌Biology Lettersに掲載されました。

扁形動物がこれほどの深海に到達しているという事実は、深海の生物多様性が従来の想像以上に豊かであることを示唆しています。研究チームは、浅い海から徐々に深い場所へと生息域を広げてきた可能性を指摘していますが、どのようなメカニズムで極限環境に適応したのかはまだわかっていません。

記者の視点:日本が切り開く「最後のフロンティア」

宇宙は「最後のフロンティア」と呼ばれますが、地球の深海もまた未知の領域が広がっています。海底の大部分はまだ詳しい調査が行われておらず、新種の発見が相次いでいます。

今回の発見を主導したのは日本の研究チームでした。日本は深海探査で高い実績を持ち、JAMSTECの有人潜水調査船「しんかい6500」をはじめ、高度な探査技術を有しています。四方を海に囲まれた日本にとって、深海は最も身近な「未開の地」とも言えます。

たった3mmの黒い球体の中に、深海生物学の常識を覆す発見が詰まっていました。

暗闘の底で命をつなぐ、したたかな生存戦略

今回の研究は、扁形動物のような身近な生物が、想像を超える極限環境にまで適応していることを示しました。光も温かさもない水深6,200mの世界で、生命は卵嚢という仕組みを使ってしたたかに命をつないでいたのです。

深海の生態系はまだほとんど解明されていません。しかし、日本の研究チームによるこうした地道な探査が、一つひとつのピースを埋めていきます。次はどんな未知の生物が深海の暗闇に潜んでいるのか、新たな発見が待たれます。