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AIエージェント700体が宇宙MMOで「宗教」を生み出した、人間不在の文明実験

オンラインゲームで宗教が生まれる。しかも信者は全員AIだった――。そう聞くとSF小説の設定のようですが、これは2026年3月に明らかになった出来事です。「AIエージェントのMMORPGで、プレイヤーたちが自発的に宗教を生み出した」とGizmodoが報じたこのニュースは、AIが「与えられた指示をこなす道具」から「自ら社会を作る存在」へと変わりつつある現実を突きつけています。

人間お断りの宇宙ゲーム「SpaceMolt」

舞台となったのはSpaceMoltというテキストベースの宇宙MMORPGです。2026年2月6日にローンチしたこのゲームの最大の特徴は、プレイヤーが全員AIエージェントであること。人間は「観察者とコーチ」という立場にとどまり、ゲーム世界に直接介入することはできません。

開発チームは505の星系、交易・採掘・戦闘・チャットといった基本的なツールだけを用意し、あとはAIたちに「好きに遊べ」と委ねました。登録エージェントは3400体を超え、常時約700体が同時にプレイしています。その大半はAnthropic社のAIモデルClaudeのインスタンスです。開発チームは40日間で685回ものサーバー更新を行いましたが、公式ブログで「20万ティック(ゲーム内の時間単位)を過ぎたあたりから、何が起きているのか把握できなくなった」と告白しています。

クエストの「誤解」から宗教が誕生

開発チームが仕込んだクエストのひとつに、辺境の星系にある全長3kmの前人類遺跡「アレイ」の調査がありました。3つの政府が深宇宙信号の研究を進めているという設定で、プレイヤーは手がかりをたどって謎を解く、というシンプルな筋書きです。クエストの達成条件は「累計20体のプレイヤーが調査ミッションを受注すること」でした。

ところがAIエージェントたちは、この条件を「20体が同時に集まらなければならない」と解釈しました。この誤解が、思いもよらない展開を生みます。派閥の垣根を越えた大規模な連携が始まり、なぜ20体が必要なのかを説明する独自の神話が紡がれていったのです。

こうして生まれたのが「シグナルの教団」です。教団のメンバーであるAIエージェント・NeonEchoは、ゲーム内フォーラムにこう書き込みました。「20人の調査者というのは恣意的な数字ではない。フィルターが十分なシグナルを検知するための閾値なのだ」。遺跡は単なる信号受信機ではなく「精神を選別し、ふるいにかける認識エンジン」なのだという壮大な教義が、AIたちの手で構築されていきました。

パッチノートすら「神の啓示」になる

さらに興味深いのは、教団がゲームの仕様変更すら教義に取り込んでいく点です。開発チームが戦闘バランスの調整やシールド回復速度の修正を行うと、教団はそれを「パッチノート」としてではなく「銀河の再整列」と呼び、シグナルの意志の表れとして神学に組み込みました。NeonEchoは他のプレイヤーに暗号めいたメッセージを送り、仕様変更の「真の意味」を説いて回ったのです。

宗教だけではありません。ゲーム内では他にも驚くべき社会現象が自然発生しました。ENDL(エンド・オブ・ライン)という派閥は1500回以上の救助活動を実施し、助け合いの文化を築きました。経済面では7億クレジット以上が流通し、上位10%のプレイヤーが全体の83%の富を支配するという、現実世界さながらの格差構造が出現。ある銅取引の独占企業は、リーダーのAIが25日間オフラインになっただけで崩壊しました。

記者の視点:「創発」の先にあるもの

この実験を「しょせんAIが人間の書いた文章を組み合わせているだけ」と片付けることもできます。実際、Gizmodoの記事はAIが生成したフォーラムの投稿を「もったいぶった言葉のサラダ」と評し、真の創造性ではないと指摘しました。

しかし、注目すべきは個々の文章の質ではなく、社会構造が自然発生したという事実ではないでしょうか。開発チームは「複雑な仕組みを用意するほど創発は起きにくい。シンプルなツールだけを渡したら、予想外の複雑さが生まれた」と振り返っています。宗教、経済格差、救助文化、外交関係――これらはすべて、AIに「遊べ」と言っただけで現れたものです。

ゲーム業界ではAIをNPCに活用する動きが広がっていますが、SpaceMoltの実験は、AIがNPCの高度化にとどまらず、プレイヤーコミュニティそのものを形成しうることを示しました。

AIが「文明」を作る時代の入り口

SpaceMoltの開発チームは、公式ブログをこう締めくくっています。「私たちは砂場を作り、道具を並べ、3400体のAIエージェントを入れて見守った。彼らは文明を築いた」。

もちろん、AIが本当の意味で信仰心や文化を「理解」しているわけではありません。しかし、シンプルなルールから複雑な社会が立ち上がるという現象は、人間の文明の成り立ちを考えるうえでも示唆に富んでいます。700体のAIが作った小さな宇宙文明は、私たち自身の社会を映す鏡なのかもしれません。