ワカリタイムズ

🌍 海外ニュースを「わかりやすく」

AIチャットボットを「激遅」にするツール登場、便利さへの依存に一石

ChatGPTに文章を書いてもらい、Claudeにメールの返信を考えてもらい、Geminiにスケジュールを整理してもらう。AIチャットボットが日常に溶け込むにつれ、「自分で考える」場面が減っていると感じたことはないでしょうか。そんな風潮に、ユーモアたっぷりの反撃を仕掛けたアーティストがいます。「AIチャットボットを本当に、本っっっ当に遅くするWebツール」と404 Mediaが報じたこのツールは、AIへの依存を「不便さ」で問い直す試みです。

「Slow LLM」はどう動くのか

このツールの名前はSlow LLM。開発したのは、テキサス大学オースティン校で教えるアーティスト兼プログラマーのサム・ラヴィーンです。仕組みはシンプルながら巧妙です。

Slow LLMは、ウェブブラウザがサーバーからデータを受け取る際に使うFetch関数というJavaScriptの機能を書き換えます。ユーザーがChatGPTやClaudeなどのチャットボットにアクセスすると、AIからの応答自体は通常通り返ってきているものの、ブラウザ側で表示速度を意図的に引き延ばします。結果として、AIが異常に遅く動いているように見えるのです。

導入方法は2つあります。1つ目はChrome拡張機能として自分のブラウザにインストールする方法で、ClaudeとChatGPTに対応しています。2つ目は、より大胆な「エンタープライズ版」です。自宅や学校、職場のルーターのDNS設定を変更することで、ネットワーク上のすべての端末でチャットボットを遅くできます。DNS版はGrokやGoogle Geminiにも対応しています。

理論的には、誰にも気づかれずに導入できます。ほとんどの人は「サーバーの調子が悪いのだろう」と思うだけでしょう。

「脱スキル化」への危機感

ラヴィーンがこのツールを作った動機は、学生や知人たちがAIに深く依存していく姿を目の当たりにしたことでした。

「あまりにも多くの人が、認知的・感情的な機能をこれらのツールに委ねています。その過程で、自分が学んできた基本的なことを忘れてしまっている」とラヴィーンは語ります。AIへの依存が進むほど、この脱スキル化はより深刻になるというのが彼の見立てです。

シリコンバレーの技術者たちが好んで使う「フリクション(摩擦)」という言葉があります。システムの中の非効率な部分を指す用語で、テック企業はこの「摩擦」を取り除くことを美徳としてきました。しかしラヴィーンは、AIチャットボットがこの考え方を極端に押し進め、困難や不快さのすべてをシリコンバレーの「考える機械」に外注すべきだと提示していると指摘します。

「難しいことの摩擦を取り除くものは何でも、学びを阻害し、すでに身につけた学びを消し去ってしまう」。ラヴィーンの言葉は、便利さの裏側にある代償を突いています。

「デジタル妨害」というアートの系譜

Slow LLMは、ラヴィーンが長年取り組んできた「デジタル妨害」作品の最新作です。2021年のコロナ禍では、Zoom会議の音声にエコーやノイズを混入させて自分の存在を「耐えがたいもの」にするZoom Escaperを発表し、話題を集めました。2018年には米移民・関税執行局(ICE)職員のLinkedInプロフィールをスクレイピングしてデータベース化するという過激なプロジェクトも手がけています。

共同制作者のテガ・ブレインもSlop Evaderというブラウザツールを公開しています。これは検索結果から2022年11月(ChatGPT公開時期)以降のコンテンツをすべて除外し、AI生成コンテンツを一掃するというものです。

「私はこうした小さなデジタル妨害の実験を続けています。生産手段が本当に私たちの手の中にあり、しかもそれがコミュニケーションや社会生活を管理する手段でもあるのだとしたら、生産性を中断するとはどういう意味を持つのか」。ラヴィーンの問いかけは、テクノロジーとの関係を根本から考え直すものです。

記者の視点:AI依存を笑いで問う意義

興味深いのは、ラヴィーン自身がSlow LLMの開発初期にClaudeを使ってコードを書いていたと認めている点です。もちろん、ツールが動き始めた途端にAIは使えなくなり、残りは自力で完成させたわけですが、この矛盾こそが彼のメッセージの核心でしょう。AIを全否定するのではなく、「無自覚に頼りすぎていないか」と立ち止まらせること。

日本でも生成AIの業務利用が急速に広がっています。文章作成、プログラミング、調べ物――便利であることは間違いありません。しかし「AIに聞けばいい」が口癖になったとき、自分で調べ、考え、判断する力はどうなるのか。Slow LLMは冗談めいたツールですが、その問いかけは笑い事では済まないかもしれません。

「不便さ」が教えてくれること

ラヴィーンはまだ、職場や学校のネットワークでSlow LLMを密かに動かした人の報告は受けていないといいます。「まだ事情を知らない相手には試していないが、考えてはいる」と、いたずらっぽく語りました。AIが遅くなったとき、人々はどう反応するのか。怒ってAIを使うのをやめるのか、それとも待ち続けるのか。その答え自体が、私たちのAI依存度を映し出す鏡になるはずです。