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Armが35年の歴史で初めて自社チップを投入、MetaやOpenAIが早くも採用

スマートフォンの中には、ほぼ確実にArmの技術が入っています。iPhoneにも、Androidスマホにも、そしてニンテンドースイッチにも。しかしArm自身はチップを「設計」するだけで、「製造」したことはありませんでした。その35年間の常識が、ついに覆りました。「Arm Is Now Making Its Own Chips」と報じられたとおり、Armが自社ブランドCPUの量産に乗り出します。この記事では、なぜ今このタイミングなのか、日本のソフトバンクグループとの関係、そしてAI時代の半導体競争にどんな影響があるのかを解説します。

「設計屋」が初めてチップを売る

Armは1990年代から「チップの設計図を売るビジネス」で成長してきました。Apple、NVIDIA、Qualcommといった企業がArmの設計をライセンスし、それぞれ独自のチップを製造・販売するモデルです。ところが3月24日、ArmのCEOはサンフランシスコでの発表会で「私たちは今、新しいビジネスに参入します。CPUを供給します」と宣言しました。

新チップの名前はArm AGI CPU。名称に「AGI」を冠していますが、このチップ自体が汎用人工知能を実現するものではなく、AIエージェント処理を想定したデータセンター向けCPUです。TSMCの最先端3nmプロセスで製造され、最大136コア、ブースト時3.7GHz、消費電力300Wという仕様です。

MetaとOpenAIが注目する理由

発表会にはMetaのインフラ責任者が登壇し、「チップ業界を複数の軸で拡大する」と期待を示しました。MetaはAIアプリの超個人化を目指しており、大量のチップと高い電力効率を必要としています。OpenAIの幹部も「社内で一番よく聞く言葉は『もっと計算資源がほしい』だ」と語りました。

そのほか、Cloudflare、SAP、韓国のSK TelecomやRebellionsも採用に前向きな姿勢を示しています。Armによれば、IntelやAMDのx86系CPUと比べてラックあたり2倍以上の性能を発揮し、大規模データセンターの設備投資を大幅に削減できるとしています。

NVIDIAのジェンスン・ファンCEO、AmazonやGoogleの幹部も動画メッセージで支持を表明しましたが、購入の約束はしていません。3社ともすでにArm設計を自社チップに採用しており、微妙な立場です。

ソフトバンクグループが握る成長戦略

Armの過半数株主はソフトバンクグループです。孫正義氏が2016年に約3.3兆円で買収し、2023年にナスダックへ再上場させた経緯があります。今回の自社チップ参入は、Arm全体の年間売上を現在の約6,400億円から2031年までに約4兆円へ拡大する構想の柱と位置づけられています。チップ事業単体でも5年以内に年間約2.4兆円の売上を見込んでいます。

調査会社Creative Strategiesは、データセンター向けCPU市場が2026年の約4兆円から2030年には約9.6兆円に拡大すると予測。AIエージェント用CPUを含めると約16兆円規模になるとの試算もあります。

記者の視点:設計図ビジネスの限界とリスク

Armの決断は合理的に見えますが、リスクもあります。これまでArmは「敵を作らないビジネスモデル」で成功してきました。設計図を売るだけだから、どの企業にとってもパートナーでいられたのです。しかし自社チップを売り始めれば、IntelやAMDだけでなく、長年のライセンス顧客であるNVIDIAやAmazonとも競合する可能性があります。

実際、NVIDIAも2026年から単体CPUの販売を本格化させており、半導体業界では「設計と製造の垣根」が急速に崩れています。AI需要の爆発がこの流れを加速させた形です。

AI時代に変わる半導体の勢力図

Armの自社チップ参入は、単なる新製品の話ではありません。スマートフォン時代に「裏方」として世界の端末の99%に入り込んだArmが、AI時代には「表舞台」に立とうとしています。量産出荷は2026年後半の予定で、本格的な収益貢献は2028年以降になる見通しです。ソフトバンクグループの投資戦略とも直結する動きであり、日本の投資家やテック業界にとっても注目すべき転換点といえそうです。