会社を立ち上げた仲間が、1人残らずいなくなる。普通の企業なら「倒産の前兆」と言われてもおかしくない出来事が、世界で最も資金力のあるAI企業で起きました。「xAIの共同創業者11人全員がイーロン・マスクのAI企業を去った」とThe Next Webが報じたところによると、2023年に設立されたxAIの創業メンバー全員が、わずか3年で会社を離れたことが明らかになりました。約40兆円の評価額を持つAI企業で何が起きているのでしょうか。
Google、DeepMind、OpenAI出身の精鋭が集結していた
xAIの共同創業者11人は、AI業界のオールスターと呼べる顔ぶれでした。AI分野で被引用数9万5,000件超の著名論文の共著者であるトロント大学のジミー・バー准教授、Google DeepMindからチーフエンジニアとして参加したイゴール・バブシュキン、Googleから移籍したクリスチャン・セゲディなど、DeepMind、Google、Microsoft、OpenAIといった名だたる組織から集まった研究者たちでした。
こうした人材を束ねたのがイーロン・マスク氏のビジョンと資金力でした。xAIはチャットボット「Grok」を開発し、SNSプラットフォームXに統合。さらにNVIDIA H100 GPUを20万基以上搭載したスーパーコンピュータ「コロッサス」を構築するなど、競合を圧倒するインフラ投資を進めてきました。
離脱は雪崩のように加速した
最初に動いたのはセゲディで、2025年2月に退社しました。しかし離脱が本格化したのは2026年に入ってからです。
2月2日、SpaceXがxAIを全株式交換で買収し、評価額約200兆円(1.25兆ドル)の巨大企業体が誕生しました。日本経済新聞の報道によると、史上最大規模の企業統合でした。
その直後から離脱が加速します。2月10日にオペレーション責任者のトニー・ウーが退社を発表すると、わずか24時間以内にジミー・バーも辞任。3月中旬までに9人が去り、最後に残っていたマヌエル・クロイスとロス・ノーディンも離脱したことで、11人全員の退社が確認されました。
マスク氏自身が「根本的な失敗」を認めた
離脱の背景には、製品の根本的な問題がありました。マスク氏は3月13日、xAIのコーディングツールが「まったく機能していない」と公に認め、システムの全面的な再構築が必要だと述べました。
創業者たちが築いてきた成果が経営トップから厳しく否定された形であり、研究者が残る動機を失っても不思議ではありません。テスラがxAIのシリーズEラウンドに約3,200億円(20億ドル)を投資したことを巡って株主訴訟も起きており、マスク氏の利益相反に対する批判も強まっています。
記者の視点:資金では買えない「研究文化」の喪失
xAIには依然として強力な資産が残っています。20万基超のGPUを擁するコロッサス、Xの膨大なユーザーベース、そしてSpaceXが掲げる衛星100万機による「軌道上データセンター」構想。資金とインフラだけを見れば、どのAI企業よりも恵まれた環境です。
しかし、AI研究の世界では「誰が作るか」が「何で作るか」よりも重要です。OpenAIもGoogleも、画期的な成果を生み出してきたのは特定の研究チームの文化と蓄積でした。The Next Webの記事が指摘するように、「どれだけ資金を投じても、それを生み出した人々が去った後に研究文化を再建することはできない」のです。
SpaceXは2026年前半にIPOを控えており、投資家の注目が集まるタイミングでの全創業者離脱は、xAI事業の将来性に疑問符を投げかけます。
AI人材争奪戦が映し出す業界の構造問題
xAIの事例は、AI業界全体が抱える構造的な課題を浮き彫りにしています。トップクラスの研究者は世界に数百人しかおらず、彼らの移動が企業の命運を左右します。巨額の資金やハードウェアがあっても、人材を引き留められなければ意味がありません。
マスク氏は今後、新たなチームでxAIを再建する方針です。しかし、創業メンバー全員が見切りをつけた組織に、次世代のトップ研究者が集まるかどうか。AI覇権をめぐる競争の行方は、技術や資金力だけでなく、「人が働き続けたいと思える場所を作れるかどうか」にかかっているのかもしれません。
