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全固体電池はなぜショートする?MITが覆した「常識」と真犯人

電気自動車(EV)の航続距離を飛躍的に伸ばし、充電時間も大幅に短縮する。そんな夢の技術として期待を集める「全固体電池」には、長年の弱点があります。充電中に電池内部で金属の結晶が成長し、ショート(短絡)を起こしてしまうのです。「全固体電池はなぜ短絡し続けるのか」とMIT Newsが報じた研究は、この問題の原因がこれまで信じられてきたものとはまったく違うことを明らかにしました。数十年にわたる思い込みが覆された今、全固体電池の実用化へ向けた道筋が変わるかもしれません。

「歯のように硬い」はずの壁が壊れる謎

全固体電池は、従来のリチウムイオン電池で使われる液体の電解質を、セラミックなどの固体に置き換えたものです。液漏れや発火のリスクが低く、エネルギー密度も高いため、次世代電池の本命とされています。トヨタは出光興産と協業して2027〜2028年の車載実用化を目指し、日産も2028年度の搭載を目標にパイロット生産を進めています。

しかし実用化の前に立ちはだかるのがデンドライトの問題です。デンドライトとは、充電時にリチウム金属が樹の枝のように成長する結晶のこと。これが固体電解質を突き破ると、電池内部でプラス極とマイナス極が直接つながり、ショートが発生します。

固体電解質は実験室で測定すると非常に硬く、研究チームの表現を借りれば「歯」と同程度の硬さがあります。それなのに、なぜ金属の結晶に破られてしまうのか。これが長年の謎でした。

真犯人は「力」ではなく「化学反応」

従来、デンドライトは物理的な力で電解質にひびを入れて成長すると考えられてきました。木の根がアスファルトを押し上げるように、金属が力ずくで壁を突き破るイメージです。

ところがMITの研究チームが実際に測定したところ、驚くべき結果が出ました。デンドライトが速く成長するほど、周囲の応力(物理的な力)は低かったのです。ひびは、機械的な力だけで予測される強度のわずか25%の圧力で発生していました。

では何がセラミックの壁を弱くしているのか。答えは電気化学的腐食でした。充電時に大きな電流が流れると、イオンの流れが固体電解質の内部で化学反応を引き起こし、材料そのものをもろくしてしまうのです。筆頭著者のMIT博士課程学生は「実験台の上で測ると歯と同じくらい硬い。でも充電中は飴玉のようにもろくなる」と説明しています。

つまり、デンドライトは力で壁を壊しているのではなく、化学反応で壁が勝手に弱くなったところを通り抜けていたのです。

偏光サングラスの原理で「見えた」真実

この発見の鍵となったのは、研究チームが開発した複屈折顕微鏡法という測定技術です。これは偏光サングラスと同じ原理を応用しています。

偏光サングラスをかけて車のフロントガラスを見ると、虹色の模様が見えることがあります。これはガラスにかかっている応力(内部の力)が光の屈折に影響を与えるために起こる現象です。研究チームはこの原理を利用し、電池内部で成長するデンドライト周辺の応力をリアルタイムで可視化することに初めて成功したといいます。

この技術により「力で壊れている」と思われていた現象が、実は「化学的に弱くなっていた」という真相にたどり着くことができたのです。研究成果は学術誌Natureに掲載されました。

記者の視点:日本の電池戦略にも影響する発見

今回の発見は、全固体電池の開発戦略を根本から変える可能性があります。これまで多くの研究グループが「より硬い電解質を作れば、デンドライトを物理的に食い止められる」と考え、材料の強度を上げる方向で開発を進めてきました。しかし今回の研究は、いくら硬くしても充電中に化学的にもろくなるのであれば意味がないことを示しています。

日本は全固体電池の開発で世界的に有力な位置を占めています。トヨタ、日産、ホンダの3社がそろって2020年代後半の実用化を掲げ、出光興産や住友金属鉱山といった素材メーカーも巻き込んだ官民一体の大規模プロジェクトになっています。今回の知見は、硬さではなく化学的安定性を重視した電解質材料の選定へとシフトを促す可能性があり、日本勢の開発ロードマップにも影響を与えるでしょう。

「強さ」より「化学的安定性」の時代へ

全固体電池の短絡問題は、単に「硬い壁を作る」だけでは解決できないことがわかりました。充電中の化学反応に耐えられる材料を見つけることが、実用化への新たな指針となります。

EVの普及が加速する中、安全で高性能な電池の実現は世界中の課題です。今回のMITの発見は、全固体電池が抱える最大の壁を乗り越えるための「地図」を書き換えるものと言えるでしょう。正しい原因がわかった今、解決策への距離はぐっと縮まったのかもしれません。