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ビットコインの暗号は「9分で解読」?Google量子チームの論文が波紋

スマホひとつでビットコインを売買できる時代。しかし、その安全性の根幹を揺るがす研究結果が発表されました。「量子コンピュータがビットコインを予想より早く解読できる可能性、Googleが指摘」と題した報道によると、Google Quantum AI(Googleの量子AI研究チーム)が、ビットコインで使われる楕円曲線暗号を破るために必要な計算能力がこれまでの想定よりはるかに少ないことを示しました。この記事では、Googleが公表した研究内容の核心と、暗号資産の未来にどんな影響があるのかを解説します。

「数百万」が「50万未満」に縮まった衝撃

2026年3月31日、Google Quantum AIは暗号資産のセキュリティに関する研究内容をGoogle Researchのブログで公表しました。最大の発見は、ビットコインやイーサリアムで使われている楕円曲線暗号を破るのに必要な物理量子ビットの数です。

これまで、暗号解読には「数百万の量子ビットが必要」とされてきました。ところがGoogle Quantum AIは、ショアのアルゴリズムを用いた2種類の攻撃手法を設計し、それぞれ約1,200個と約1,450個の論理量子ビットで実行できることを示しました。物理量子ビットに換算しても50万未満で済む計算です。従来の見積もりの約20分の1にあたります。

Googleは2029年までに100万物理量子ビットを搭載した量子コンピュータの実現を目指しています。つまり、このロードマップ通りに進めば、理論上は楕円曲線暗号の解読に必要な規模の量子コンピュータが、数年以内に登場する可能性があるのです。

Taprootが「弱点」を広げた皮肉

論文がとくに注目したのが、2021年にビットコインに導入されたアップグレード「Taproot」です。Taprootは取引の効率性とプライバシーを高める技術として歓迎されましたが、一方で公開鍵が従来より早い段階で表に出やすくなる場面があると指摘されています。

量子攻撃のシナリオはこうです。誰かがビットコインを送金すると、その取引がネットワーク上で承認されるまでのわずかな時間、公開鍵が見える状態になります。十分に高速な量子コンピュータがあれば、この短い時間内に公開鍵から秘密鍵を逆算し、資金を横取りできてしまうのです。

Googleの試算では、この攻撃にかかる時間はわずか約9分。ビットコインの平均ブロック生成間隔(約10分)より短いため、約41%の確率で攻撃が成功する計算になります。すでに公開鍵が露出している約690万BTCが潜在的なリスクにさらされているとされています。

暗号資産業界の対応は割れている

この「Qデイ」(量子コンピュータが暗号を破れるようになる日)に向けて、業界の対応は分かれています。

ビットコインのコミュニティでは、量子耐性のある暗号方式への移行が議論されていますが、合意形成には時間がかかる見通しです。イーサリアムやソラナなど他のブロックチェーンでも同様の議論が進んでいますが、慎重派と急進派の間で意見が割れています。

Google自身は、2029年までに自社の認証サービスを耐量子暗号に移行する方針を示しています。論文の共著者は「Qデイが2032年に到来する確率は少なくとも10%」と具体的な数字を挙げており、業界全体に早期の対策を促しています。

重要なのは、現時点でこの攻撃を実行できる量子コンピュータはまだ存在しないということです。しかし「まだ安全」と「もう手遅れ」の間のどこかに、対策を始めるべきタイミングがあります。

記者の視点:技術の進歩がセキュリティの前提を変える

今回の論文で印象的なのは、ビットコインの利便性を高めるために導入されたTaprootが、量子攻撃の対象を広げてしまったという皮肉な構図です。技術的な改良が、別の角度から新たな脆弱性を生む。これはソフトウェア開発全般に通じる教訓でもあります。

また、Googleが自社ブログで論文を公開し、「責任ある脆弱性開示」と位置づけている点も注目に値します。攻撃手法を秘密にするのではなく、業界全体に警鐘を鳴らすことで対策の時間を確保する狙いです。

日本でも暗号資産の利用者は増え続けています。取引所のセキュリティだけでなく、暗号技術そのものの安全性という、より根本的な問題に目を向ける時期が来ているのかもしれません。

「まだ先」と油断せず、今から備えを

量子コンピュータがビットコインを破る日は、今日でも明日でもありません。しかしGoogleの論文は、その日が想定よりも近いことを数字で示しました。暗号資産を保有している人も、ブロックチェーン技術に関心がある人も、「耐量子暗号」というキーワードを覚えておく価値があります。技術の進歩は止まりません。守る側も、攻める側と同じスピードで進化していく必要があるのです。