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天王星と海王星の内部で水素が「螺旋」を描く、固体でも液体でもない新物質状態

水は氷になり、氷は溶けて水になる。物質が固体か液体かというのは、私たちにとってごく当たり前の感覚です。ところが太陽系の辺境にある天王星と海王星の奥深くでは、「固体でも液体でもない」奇妙な状態の物質が存在する可能性が浮上しました。しかも、その中で水素原子は一直線ではなく螺旋状の経路を描いて移動しているというのです。「天王星と海王星の深部で、水素がこれまでにない螺旋経路を描いて移動している」と報じた記事の内容を詳しく見ていきましょう。

「超イオン状態」とは何か

今回の研究の鍵となるのが超イオン状態という概念です。これは固体と液体の中間にあたる特殊な物質の状態で、ある原子は結晶のように規則正しく並んで動かないのに、別の原子はその結晶の隙間を液体のように自由に動き回ります。

たとえるなら、ジャングルジムの骨組み(固体側の原子)の中を、子どもたち(液体側の原子)が自由に走り回っているようなイメージです。超イオン状態の水(超イオン氷)は以前から天王星や海王星の内部に存在すると予測されていましたが、今回注目されたのは水ではなく、炭化水素でした。

螺旋を描く水素、その発見の経緯

Nature Communicationsに掲載されたこの研究では、炭化水素に約500万〜3000万気圧、約3700〜5700℃という極限的な圧力と温度を加えた状態を量子シミュレーションで再現しました。これは天王星や海王星の深部に相当する環境です。

シミュレーションの結果、炭素原子は六方格子と呼ばれる六角形パターンの規則正しい骨格を形成し、その内部で水素原子が螺旋状の経路に沿って移動することが判明しました。研究チームはこれを「準1次元超イオン状態」と名付けています。

通常の超イオン状態では、動く側の原子はあらゆる方向に自由に移動します。しかし今回発見された状態では、水素は特定の螺旋経路に沿ってしか動けません。三次元的に自由に飛び回るのではなく、まるでDNAの二重らせんのように決まったルートをたどるのです。このように移動方向が制限された超イオン状態は、これまで報告されていない新しいタイプのものです。

惑星の磁場の謎に迫る手がかり

この発見が重要なのは、天王星と海王星が持つ不思議な磁場の謎に関わるからです。地球の磁場は自転軸とほぼ一致していますが、天王星と海王星の磁場は自転軸から大きくずれ、しかも惑星の中心からもオフセットしています。なぜこんな「歪んだ」磁場になるのか、長年の謎でした。

惑星内部での物質の動き方は、熱の伝わり方や電気の流れ方に直接影響します。水素の移動が螺旋状の経路に制限されるとなれば、熱や電気の伝わり方にも強い方向性が生まれます。こうした性質が、天王星や海王星の偏った磁場を理解する手がかりになる可能性があります。

記者の視点:6000以上の系外惑星を読み解く新たな手がかり

研究チームは「炭素と水素は惑星を構成する最も豊富な元素の一つだが、巨大惑星の条件下での振る舞いはまだ十分に理解されていない」と指摘しています。この言葉が示すように、太陽系だけでなく、これまでに発見された6000以上の系外惑星の内部構造を理解するうえでも、今回の研究は重要な一歩です。

今回の成果は量子シミュレーションと機械学習を組み合わせた手法で得られました。実験室で数百万気圧を再現するのは極めて困難ですが、計算科学の進歩が「行けない場所」の物理を明らかにしつつあります。AIと物理学の融合が惑星科学を加速させている好例といえるでしょう。

太陽系の「はずれ者」が教えてくれること

天王星と海王星は、木星や土星と比べて研究が遅れている惑星です。NASAの探査機ボイジャー2号が1980年代に通過して以来、専用の探査ミッションは実現していません。しかし今回のように、地球上のスーパーコンピュータから惑星の深部を「のぞく」ことが可能になりつつあります。太陽系のはずれ者たちが、宇宙の物質の常識を書き換える日はそう遠くないかもしれません。