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AIが数学研究の「共同研究者」に、証明の発見を加速させる新時代へ

数学の証明とは、論理を積み重ねて命題の正しさにたどり着く営みです。何年もかけて一つの定理を証明する数学者たちの世界に、AIという新しい「共同研究者」が本格的に加わり始めています。「AIによる数学革命が到来した」とQuanta Magazineが報じた記事は、2025年夏を転換点として、AIが数学研究の実践をどう変えつつあるかを詳しく伝えています。

数学オリンピックで「金メダル」、転換点となった2025年

転換点は2025年夏でした。国際数学オリンピックの問題に対し、AIモデルが6問中5問を解き、金メダル相当の成績を収めたのです。GoogleとOpenAIのモデルがともにこの水準に達したことで、数学者たちのAIに対する見方は一変しました。

フィールズ賞受賞者のテレンス・タオは「2025年はAIが多くの異なる課題で本当に役に立ち始めた年だった」と振り返っています。個々の成果は単独では画期的とは言えないかもしれませんが、全体として見ると、AIが意味のある数学的な仕事をこなせるようになったことを示しています。

「2週間かかる実験が20分に」、AlphaEvolveの衝撃

Google DeepMindが開発したAlphaEvolveは、AIモデルGeminiと遺伝的アルゴリズムを組み合わせたシステムです。テレンス・タオらの研究チームがこのシステムを67の数学問題に試したところ、23問で既存の最良解を上回り、36問で同等の結果を出しました。

別の研究チームがAlphaEvolveで順列群に関連するブリュア区間の構造を分析したところ、50年間誰も気づかなかった「超立方体」のパターンが発見されました。研究者の一人は「50年間、私たちの目の前にあった構造だ」と驚きを語っています。この発見が特に重要なのは、以前なら機械学習の専門知識が必要だった実験が、今では数学者自身の手で短時間に行える点です。「2年前なら2週間かかった実験が、今は20分でできる」と研究者は述べています。

「間違いだらけ」でも役に立つ、AIとの対話型証明

AIの数学的能力は、正確さだけでは測れません。ある最適化理論の研究者は、1983年から未解決だった予想の証明にChatGPTを活用しました。AIが出す証明は頻繁に間違いを含んでいましたが、その中に正しい部分的な結果が含まれていたのです。研究者は正しい部分を検証して残し、新しいプロンプトで再度AIに問いかけるという作業を繰り返しました。この反復的なやり取りにより、3日間に分けた約12時間の作業で簡略化版の証明に到達し、その数日後には予想の完全な証明を完成させました。

スイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究者も、大規模言語モデルが「良い対話相手になった」と評価しています。AIは忘れていた証明を思い出させるだけでなく、真の共同研究パートナーとして機能するようになったのです。

記者の視点:「誰のアイデアか」という新しい問い

ある国際的な研究チームがAIを使って、旗多様体と呼ばれる特殊な空間に球面をどう埋め込めるかという定理を証明した際、興味深い問いが浮上しました。「このアイデアは誰のものか。私たちのものか、モデルのものか」。研究者自身も、AIなしで同じ結論に至れたかどうか確信が持てないと認めています。

一方で、AIが生成する数学的な「ナンセンス」が学術誌に押し寄せる懸念も高まっています。ある数学者は「学術誌システムを圧倒する「粗悪な生成物の海」」と表現しました。この対策として注目されるのが自動形式化です。AIが数学の命題をコンピュータで検証可能な言語に翻訳し、証明の正しさを機械的に確認する技術です。テレンス・タオは「検証なしのAIは、いかなる真剣な応用にも使えないほど信頼性が低い」と強調しています。

教育への影響を懸念する声もあります。数学特化型AIスタートアップのAxiom Mathに創設数学者として参画した著名な数学者ケン・オノは「AIが数学研究を助ける明るい未来がある一方で、将来の仕事や人材育成におけるAIの役割を深く憂慮している」と語りました。

数学は科学であり、芸術でもある

現時点でAIは、戦術的な問題には強い一方、長期的な戦略を要する数学の最大の難問には太刀打ちできないと見られています。円周率πと自然対数の底eの和が有理数かどうかといった根本的な未解決問題に、AIが大きな影響を与えることはないだろうという見方が大勢です。

ある数学者は「私たちの文化には守るべき価値あるものがある」と訴えます。効率だけが判断基準になれば、数学が持つ美的な側面が失われかねないというのです。数学は科学であると同時に芸術でもある。AIという強力な道具を手にした今、人間の数学者に求められるのは、長期的な構想力と直感、そして数学の美しさを見出す感性なのかもしれません。