水回りの汚れを洗剤なしで落とせる白いメラミンスポンジ。日本では「激落ちくん」の名で知られ、100円ショップでも手に入る定番の掃除道具です。ところが、この便利なスポンジが使うたびに大量のマイクロプラスチック繊維を排水口に流していたことが明らかになりました。「掃除用スポンジが数兆本のマイクロプラスチック繊維を放出」と報じられた研究によると、世界全体で毎月約1兆5500億本ものプラスチック繊維がメラミンスポンジから環境中に放出されている可能性があります。
「極細サンドペーパー」の仕組みが裏目に
メラミンスポンジの原料は、ポリメラミンホルムアルデヒドという合成樹脂です。内部は硬くて細い繊維が網目状に絡み合った構造をしており、いわば極めて目の細かいサンドペーパーのように機能します。洗剤を使わなくても汚れが落ちるのは、この微細な繊維が物理的に汚れを削り取っているからです。
問題は、汚れを削る過程でスポンジ自体も少しずつ削れていくことです。使っているうちにスポンジが小さくなっていくのを実感している人も多いでしょう。削れた破片は5mm未満のマイクロプラスチック繊維となり、水とともに排水口へ流れていきます。
1グラム削れるだけで650万本の繊維
学術誌 ACS Environmental Science & Technology に2024年に掲載されたこの研究では、中国・東南大学の研究チームがAmazonで購入した主要3ブランドのメラミンスポンジを使い、実際の使用状況を再現する実験を行いました。金属の表面を同じ回数、同じ距離だけこすり、スポンジの摩耗速度と放出される繊維の量を測定したのです。
結果は衝撃的でした。スポンジが1グラム摩耗するごとに約650万本のマイクロプラスチック繊維が発生していました。この数値とAmazonの販売データを参考に世界全体への影響を見積もると、毎月約1兆5500億本もの繊維が環境中に放出されている計算になります。Amazonは販売チャネルの一部にすぎないため、実際の放出量はさらに多い可能性があります。
もう一つ重要な発見がありました。スポンジの密度によって繊維の放出量に大きな差があったのです。密度の高い製品は摩耗が遅く、放出される繊維も少ない一方、密度の低い製品はすぐにボロボロになり、大量の繊維を放出していました。
排水口から海へ、そして食卓へ
排水口に流れたマイクロプラスチック繊維は、下水処理場を経て河川や湖、そして海へと広がっていきます。現在の下水処理でも、こうした微細な繊維をすべて捕捉できるとは限りません。水中に入った繊維は魚介類などの野生生物に取り込まれ、食物連鎖を通じて蓄積していく可能性があります。
マイクロプラスチックが人体に与える影響については、現在も世界中で研究が進められています。別の近年の研究では、人間の血液や臓器からもマイクロプラスチックが検出されたとの報告があり、長期的な健康影響については引き続き検証が進められています。
記者の視点:身近な便利グッズの「見えないコスト」
メラミンスポンジは環境にやさしいイメージで語られることもありました。洗剤が不要だから化学物質を流さない、という理屈です。しかしこの研究は、洗剤の代わりにプラスチック繊維を流していた可能性があるという皮肉な現実を示しています。
日本でもメラミンスポンジは広く普及しています。台所だけでなく、洗面台、浴室、トイレなど、あらゆる場所で使われています。それだけに、この研究結果は日本の家庭にとって他人事ではありません。
プラスチックに頼らない掃除への一歩
研究チームはいくつかの対策を提案しています。メーカーに対しては、より密度が高く耐久性のあるスポンジの開発を求めています。消費者に対しては、プラスチックを含まない天然素材の代替品——たとえばセルローススポンジやへちまスポンジ——への切り替えを推奨しています。さらに、家庭の排水口や下水処理施設にマイクロプラスチックを捕捉するフィルターを導入することも提案されています。
便利だからと何気なく使っている掃除道具が、目に見えないところで環境を汚染している。まずはそのことを知ることが、日々の選択を変える第一歩になるはずです。
