日本は世界有数の火山大国です。箱根や阿蘇のように、巨大なカルデラを持つ火山は身近な存在でしょう。では、世界最大級のカルデラを持つアメリカのイエローストーンが、なぜあれほど巨大な火山活動を繰り返してきたのか。その答えは長年「地球の深部からまっすぐ上昇する熱い岩の柱」だとされてきました。ところが、「イエローストーンの地下深くで巨大な『熱い岩の川』を発見」と報じられた新研究が、この定説に見直しを迫っています。火山活動を支えていたのは、深部から垂直に上昇する柱ではなく、比較的浅い場所を横向きに流れる高温の岩石だった可能性があるのです。
「地下からの柱」という定説が揺らいだ
イエローストーンは過去約210万年の間に、地球史上最大級のカルデラ噴火を複数回引き起こしてきました。この強大なエネルギーの源は、地球の核とマントルの境界付近から垂直に上昇してくる「マントルプルーム」だと、数十年にわたって考えられてきました。ハワイの火山も同じ仕組みで説明されており、地球科学の教科書にも載っている有名な理論です。
しかし、中国科学院地質・地球物理研究所の研究チームが2026年4月に学術誌 Science に掲載した論文は、この従来説に再考を促すものです。チームは北アメリカ大陸の西部全域をカバーする詳細な3次元モデルを構築し、地下の岩石の動きをシミュレーションしました。その結果浮かび上がったのは、深部からの垂直な柱ではなく、浅い場所を横向きに流れる「熱い岩の川」でした。
古代の沈んだプレートが生む「マントルの風」
この横向きの流れの正体は、かつて太平洋に存在したファラロンプレートの残骸に関係しています。ファラロンプレートは数千万年前に北アメリカ大陸の下に沈み込み、現在もその破片が大陸中央部から東部の地下深くに横たわっています。
研究チームのモデルによると、この沈んだプレートの残骸が東向きの「マントルの風」を生み出しています。マントルの浅い部分にある高温の岩石が、この風に乗って西から東へとゆっくり移動し、イエローストーンの下に運ばれてくるのです。
高温の岩石が浅いマントル内を横方向に移動し、イエローストーン周辺で上昇・拡散すると、圧力の低下によって「減圧融解」が起きると考えられます。これは、岩石にかかる圧力が下がることで融解しやすくなり、固体の岩石の一部が溶け始める現象です。つまり、マグマの熱源は深部から垂直に押し上げられるだけでなく、比較的浅い場所を横方向に運ばれていた可能性があるのです。
マグマは「巨大な溜まり」ではなく「おかゆ」だった
もう一つの重要な発見は、イエローストーンの地下にあるマグマの姿です。映画やドキュメンタリーでは、地下に巨大なマグマの湖が広がっているイメージが描かれることがあります。しかし今回の研究は、実態がそれとはかなり異なることを示しました。
マグマは「マグママッシュ」と呼ばれる状態、つまり溶けた岩石と固体の岩石が混ざり合った、おかゆのような状態で広く分布しています。完全に液体に近いマグマがまとまるのは、噴火の直前に限られる可能性が高いと研究者たちはみています。地下に常に巨大なマグマだまりがあるわけではなく、溶けた部分と固体部分が入り交じる、広がりを持ったマグマ供給系として機能していると考えられます。
記者の視点:日本の火山研究にも示唆を与える発見
今回の研究が問い直したのは、「イエローストーンの熱源は主に真下から来る」という従来の見方です。横向きのマントル流が火山を駆動するという発見は、他の火山地域を考えるうえでも参考になる可能性があります。
日本列島もまた、太平洋プレートやフィリピン海プレートの沈み込みによって複雑なマントルの流れが生じている地域です。今回のような3次元モデリング手法が日本の火山にも適用されれば、たとえば阿蘇や姶良カルデラといった巨大火山の動力源について、新たな理解が得られるかもしれません。
なお、米国地質調査所(USGS)はイエローストーンの噴火が「予定より遅れている」わけではないと公式に説明しています。火山は時計のように規則的に噴火するものではなく、今回の研究も差し迫った危険を示すものではありません。
火山の「常識」が書き換わる時代
地球の内部は、まだ多くの謎に包まれています。今回の研究は、長年有力視されてきたイエローストーンのマントルプルーム説を補完・修正しうる新たなモデルを提示しました。3次元シミュレーション技術の進歩によって、地下で何が起きているのかを「見る」力が飛躍的に高まっています。火山大国に暮らす私たちにとっても、足元の大地がどう動いているかを知ることは、防災の土台になる大切な知識です。
