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新曲の44%がAI製、音楽ストリーミングを蝕む「スロップ」と詐欺再生の実態

SpotifyやApple Musicで音楽を聴くとき、おすすめに表示される曲が本当に人間が作ったものかどうか、気にしたことはあるでしょうか。「新規アップロード楽曲の44%がAI生成、ストリームの大半は詐欺的」と報じられた調査によると、フランスの音楽ストリーミングサービスDeezerに毎日アップロードされる新曲のほぼ半分がAIによって作られています。しかもAI生成楽曲のストリームの大半は、人間ではなくボットによる不正な再生だというのです。

毎日7万5,000曲のAI楽曲が押し寄せる

Deezerが公表したデータは衝撃的です。同社のプラットフォームには現在、毎日約7万5,000曲のAI生成トラックがアップロードされており、新規楽曲全体の44%を占めています。月間にすると200万曲以上という計算になります。

この数字は急激に増加してきました。2025年11月時点では1日あたり約5万曲だったAI楽曲は、2026年1月に6万曲(全体の39%)、そして4月には7万5,000曲にまで膨れ上がっています。わずか半年で1.5倍に増えた形です。

Deezerは、こうしたAI楽曲の主なアップロード目的が不正な収益獲得にあるとみています。ストリーミングサービスは再生回数に応じてアーティストに報酬を支払う仕組みですが、AI楽曲のアップロード者はボットを使って自動的に再生回数を稼ぎ、収益を得ようとします。Deezerはこうした不正を検出し、AI楽曲のストリームのうち約85%を収益化対象から除外しています。

97%のリスナーがAI楽曲を聞き分けられない

もう一つの深刻な問題は、リスナーがAI楽曲と人間の楽曲を区別できないことです。Deezerが2025年11月に実施した調査では、3曲のうち2曲がAI生成という条件で聴き比べテストを行ったところ、97%の参加者がAI楽曲を見抜けませんでした。

一方で、同じ調査では回答者の80%が「100%AIで生成された楽曲には明確なラベルを付けるべきだ」と回答しています。聴き分けはできなくても、知る権利は求めているわけです。

Deezerはこの声に応え、2025年6月に業界で初めてAIトラックのタグ付けを開始しました。独自の特許出願中のAI検出技術を開発し、偽陽性率は0.01%未満と主張しています。AI楽曲と判定されたトラックは、おすすめプレイリストやエディトリアルプレイリストには表示されません。その結果、AI楽曲の再生は全体の1〜3%に抑えられています。

AI音楽生成ツールの急速な進化

AI楽曲がここまで増えた背景には、音楽生成ツールの急速な進化があります。GoogleのAI音楽モデルLyria 3は安価で利用しやすくなり、Geminiユーザーは数カ月前まで30秒の断片しか作れなかったのが、今ではフルレングスの楽曲を生成できるようになっています。SunoやUdioといったサービスも、数秒で放送品質のトラックを作れることを売りにしています。

これらの主要サービスはGoogleのSynthIDのような電子透かしを楽曲に埋め込んでいますが、問題はその透かしを除去することが容易になっている点です。さらに、透かしを最初から含まないカスタムモデルで音楽を生成することも可能です。AIの推論コストが下がるにつれ、音楽スロップの製造コストも下がり続けています。

記者の視点:日本の音楽市場も無関係ではない

Deezerは日本では知名度が高くないサービスですが、この問題は日本の音楽市場にとっても他人事ではありません。日本はアメリカに次ぐ世界第2位の音楽市場であり、SpotifyやApple Music、LINE MUSICなど多数のストリーミングサービスが競合しています。しかし、これらのサービスの多くはAI楽曲の検出・ラベル付けに関してDeezerほどの対策を講じていません。

特に懸念されるのは、AI楽曲による報酬の希釈です。ストリーミングサービスの多くは、全体の売上をプールして再生回数の比率で分配する方式を採用しています。ボットによる不正再生がまかり通れば、本物のアーティストに渡るべき収益が減少します。日本のインディーズアーティストや新人にとって、この影響はより深刻です。

国際レコード産業連盟(IFPI)や各国の著作権管理団体がAI音楽に対するルール整備を進めていますが、技術の進歩に規制が追いついていないのが現状です。

「聴く側」にも求められるリテラシー

AI音楽の問題は、プラットフォーム側の対策だけでは解決しません。リスナー一人ひとりが、自分の再生する音楽がどのように作られたものかに関心を持つことも重要です。Deezerが示したように、技術的な検出は可能であり、透明性を確保する仕組みは作れます。問題は、業界全体がその方向に動くかどうかです。AI音楽は便利な創作ツールであると同時に、音楽エコシステムを根本から揺るがす存在でもあります。今後、各サービスがどのような対策を打ち出すか、注視が必要です。