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自宅の物置でRAMを自作した男、マイクロメートル級の半導体を手づくりする時代

パソコンを使うとき、メモリ(RAM)の存在を意識する人は少ないかもしれません。しかし今、AI産業の急拡大でRAM価格が世界的に高騰し、「RAMが買えない」という悲鳴があちこちで上がっています。そんな中、ある人物がとんでもない方法でこの問題に挑みました。「自宅の物置でマイクロメートル級のRAMセルを自作する男」と報じられたこの挑戦では、YouTuberが裏庭の物置を改造してクリーンルームを建設し、動作するDRAMセルの製造に成功しました。自宅でRAMを作った例としては、史上初とみられています。

物置の中に「半導体工場」を建てる

この偉業を成し遂げたのは、Dr Semiconductorと名乗るYouTuberです。2026年2月にチャンネルを開設したばかりで、公開している動画はわずか2本。しかしその内容は、世界中のテック愛好家を驚かせました。

1本目の動画では、裏庭の木造物置の内部にクリーンルームを構築する過程が紹介されています。半導体製造には、空気中のホコリや微粒子を極限まで排除した環境が不可欠です。Dr Semiconductorが目指したのはクラス100という規格で、1立方フィート(約28リットル)あたり0.5マイクロメートル以上の粒子が100個以下という厳しい基準です。

物置の内壁を石膏ボードで覆い、表面をエポキシ樹脂でコーティングして粒子の付着を防止。HEPAフィルター、空調設備、さらにはプラズマエッチング装置や真空炉まで設置しました。材料は一般に入手可能なものばかりですが、組み合わせ方と精度がプロレベルです。

20ビットのメモリが動いた瞬間

2本目の動画では、いよいよRAMセルの製造に取りかかります。工程は商業的な半導体製造と基本的に同じです。まずシリコンウェーハの上に酸化膜を形成し、フォトリソグラフィで回路パターンを転写。次にエッチングで不要な部分を除去し、薄膜を積層していきます。

この過程ではフッ化水素酸ピラニア溶液(硫酸と過酸化水素の混合液)といった極めて危険な化学薬品も使われます。こうした物質を物置で扱っていること自体が驚きです。

目標は5行×4列、合計20ビットのDRAMセル配列でした。たった20ビット。現代のパソコンに搭載されるRAMが数十ギガバイト(数千億ビット)であることを考えると、途方もなく小さな数字です。しかし、個人が自宅で半導体製造工程を一から組み上げて作ったという点で、この20ビットには計り知れない意味があります。

測定の結果、各コンデンサの静電容量は12.3ピコファラド。Dr Semiconductor自身が目標としていた値とほぼ一致しました。ただし、電荷の保持時間は約4ミリ秒で、商用DRAMの64ミリ秒と比べると大幅に短い結果です。DRAMは電荷が漏れるため定期的に「リフレッシュ」(再充電)が必要な仕組みですが、自作チップはその頻度がはるかに高くなります。

記者の視点:個人と巨大産業の境界が溶け始めている

この挑戦が示しているのは、「半導体製造は巨大企業にしかできない」という常識の揺らぎです。もちろん、20ビットのDRAMと最先端の半導体工場が生み出す数十億トランジスタのチップを比較するのは無理があります。しかし重要なのは、個人がアクセスできる知識と機材のレベルが、かつてないほど高まっているという事実です。

Dr Semiconductorの動画が注目を集めた背景には、AI需要によるメモリ価格の高騰があります。海外のテックメディアでは「RAMpocalypse」といった言葉まで使われています。もちろん物置でのRAM自作が価格問題の解決策になるわけではありませんが、半導体技術の「民主化」がどこまで進むのかを考えさせるきっかけにはなります。

日本は半導体製造装置や素材で世界をリードする国です。ラピダスをはじめ国の支援を受けた半導体関連の取り組みが進む一方で、こうした個人レベルのものづくりが海外で花開いている状況は、メイカー文化への刺激にもなるでしょう。

次の目標は「パソコンに接続」

Dr Semiconductorは今回の成果を「概念実証」と位置づけています。次のステップとして、製造したセルをつなぎ合わせ、より大きなメモリアレイを構築し、最終的にはパソコンに接続して実際にメモリとして使うことを目指しています。

物置から生まれた20ビットが、いつかパソコンの中で動く日が来るのか。その過程を見届けられるのも、YouTube時代ならではの醍醐味です。半導体という、現代文明を支える技術の根幹に、個人の情熱と創意工夫で挑む姿は、多くの人にものづくりの原点を思い出させてくれるはずです。